記憶の泡沫3-2
居所が知れてからは恐怖の毎日で、父は仕事終わり夜な夜なやって来た
玄関は当然鍵を掛けてあり開かないので、ガラス扉の方へ回り怒号と共に割らんばかりの勢いで叩きまくる
恐ろしくて仕方がなかった
命の危険さえ感じた
恐怖に縮み上がりながら、救いを求めるような思いで警察に通報するも電話口の警察官は冷たい
幾度か出動してくれたが、流血等の刑事沙汰になっているわけでもなく、単なる家庭内のイザコザとの解釈で白々しく帰って行くのが常だった
父がその場に残されながら彼らが退散していく姿を見たときのその絶望感・・・
筆舌に尽くしがたいものがあった
所々記憶が抜け落ちていて、そうなった経過は不明なのだが、ついに父が家へ上がり込んできた
続く
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記憶の泡沫3ー1
中学の時に、母と私たち兄弟3人は父の籍に名を置いたまま、実家より少し離れた集合建家の一軒を借り住み始めた
当時私はバレーボール部に所属しており、放課後の活動後は部のキャプテンであった千恵子と一緒に帰った
私の実家は、千恵子の帰路の途中にあったために必然的に家の前で千恵子を見送る形になる
家を変わったことを知られたくなかったので、私は千恵子の背中が見えなくなるまで玄関の前に立ち見送り、それから急いで来た道を戻った
せいぜい5分程の時間であったであろうが、いつ父が現れるか分からないという不安に取り巻かれていた私には、それがとても長い時間のように感じた
その頃の記憶の中では、千恵子も私も白の半袖シャツに水色のワンピースという夏の制服を身に付けているのだが、建家生活を思い起こすと共に甦ってくるのが「寒い」という感覚なので、少なくとも夏から冬の間の数ヵ月はそこで生活していたことになる
その後再び実家に戻り、高校の時に本格的に父と離れるまでそこにいた
程なくして私達の隠れ家は父に発見され、再び恐怖におののく日々が始まる
続く
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アルマンの日記より
ゾーイの誕生日
あの時に譲り受けたイエローダイヤを埋め込んだ眼を、ゾーイに贈った
さっそく私の可愛い娘は興味を示し、その初めて見る不可思議なものの真を探るがごとくに一心にそれに見入っていた
ビジューよりも一層輝く瞳でもって
ゾーイの瞳はオレリアのものとよく似ている
彼女が生まれた日のことを思い出す
産院にて、母の傍らの小さなベッドに寝息もたてず眠る我が子をかかえ抱く
何と脆弱で儚いものか!
同時に、私の心は瞬間にある感情に支配された
「いとおしい」
これは、神が我に使え給いし天使だ・・・
その小さな心の臓の音(ね)は、あたかも駿馬が荒野を疾走する蹄の音がごとく
その蹄より音は大地に広がり、馬の起こす疾風により浚われ大気と溶け合う
そして、果てしない大空へと昇華する・・・
あの時私は、この非力な小さな赤ん坊の内に、宇宙(コスモ)に通づる生命の音を聞いた
ゾーイの可能性は、際限ない
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記憶の泡沫2
(それがどのようにして発見されたのかは思い出せないが、)
ある日、子供部屋のものが一つ残らず2階から投げ捨ててあり、階段下はオモチャやら何やらの大量の物で溢れかえり、それはそれは悲惨な状態だった
父の仕業だ
(私が生まれる前からアルコール依存症の父は、毎日のように飲んでは暴れていた)
弟妹の部屋はすっからかんになっていたが、しかし私の部屋だけは手付かずだった
このときだけではない
父の私への特別な愛情は、彼の言動行動の中にしばしば垣間見ることができた
それ故に、わたしは恐らく父に対する愛憎のせめぎあいという点では、弟妹以上に苦しんだと思う
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