忘却の海(健忘症かしら、その2)
真っ暗な忘却の海の中にも、
幽かに届く陽光にぼんやりと照らされて、揺れながら浮かぶ泡沫がいくつか見える
それらの中には、遠い日の記憶が色彩までをも残して、短い映像となってとどまっている
ある夏の日、(おそらく小学校中学年くらいだったと思う)
家の庭に出ると、父親が庭仕事をしていた
父が家にいるということは休日だったのだろう
赤と白の幅広のボーダーのタンクトップを着ていた
今思い出してみると、タンクトップにしては首回りが詰めすぎている
父がわたしに
「これ、はでやない?」
というようなことを聞いた
わたしは
「ううん」
と応えた
父は安心したようで、そのあと、母が買ってきた服だと言ってたような気がする。。。
わたしは父が34のときの子なので、当時の父の年齢は40台半ば
赤と白のボーダーなど似つかわしくないと、きっと着るのが憚られる思いであったのだと思う
けれど、母が買ってきたものであるので着ようとする彼の繊細な優しい心の動きの結果が、私に向けられたあのような問いだったのではないか、、
なんて想像をしています
亡き今、確かめる術はないけれど
似つかわしくないと思いながらも、幼子にそうではないという確証を求めそれにすがる
彼にはいつも危うい儚さが漂っていたように思います
父もまた弱い人間でした
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健忘症かしら、その1
観た映画の内容を思い出せない
まーくんと行った場所を覚えていない
一週間前のお客さんが分からない
しょっちゅうケータイ、お財布を落とす忘れる
重症なのです
「昨年は、何もなかった。
一昨年は、何もなかった。
その前の年も、何もなかった。」
何かしらに追われていて、それなりに何かあったような気もするが、やはり何もなかった
32年、何してたんだろう
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斜陽
「僕はただ、貴族という自身の影法師から離れたくて、狂い、遊び、荒んでいました。
(中略)
もういちど、さようなら。
姉さん。
僕は、貴族です。」
『斜陽』直治の遺言より/太宰治
『斜陽』は、元華族であるヒロインかず子が、悲嘆の底から這い上がり己れの真理を見い出していくという作品ですが、そこではなく弟直治クンに激しく感情移入してしまい心動かされる私。。。
弱いんです
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