記憶の泡沫3-完
父は、全ての元凶は母であると信じきっていた
従って、怒りと恨み辛みの矛先は母に向かう
建家に侵入した父が、風呂場にいる
物凄い罵声をあびせながら母をどうにかしている
暴力を振るわれている様子はないが、その雰囲気から察して、相当な男の力で押されたり押さえ込まれたりしている様子だった
母を助けにいく勇気もない
何が行われているのか確かめる勇気もない
ある日の記憶である
玄関に侵入してこようとする父がいる
ドアは開いていて、母が必死の形相で全身で父を押さえ付け侵入を防ごうとしている
母が叫ぶ
「みんなで追い出そう!みんなで力合わせて追い出そう!」
ほかの兄弟二人の様子は覚えていないが、私は父に触れることさえが恐ろしく、ましてその体を押し退けるなど到底不可能な所業であり、ただその場に立ち尽くしていたように記憶している
父に対する「恐怖心」がそうさせたことに違いはないのだが、その時の私はまた別の感情も抱いていた
「愛する父」への悲哀である
鬼のような父の形相の後ろに、素面の時の優しい父の微笑が見える
追い出すことなんて出来ない
完全に憎みきれたらどれ程楽だったか知れない
彼が亡くなるまで、父への愛憎の葛藤は私の中にとどまり続けた
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