10月4日(金)に発売となった、「渡くんの××が崩壊寸前」第8巻に関し、重要と思われる点について先行的に考察します。

今回は第2回の中編ということで、館花紗月から見た館花仁・広子との関係性について考察します。

(煩悶)


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全般

第8巻において、これまで謎とされてきた館花紗月の家庭に関し、その多くが明らかにされました。前回は、それぞれの紹介及びそれぞれの立場からの館花紗月との関わりについて述べさせて頂きました。

今回は、館花紗月から見た、彼女の家族等との関わりについて考察したいと思います。


館花紗月と家族等との関わりについて

館花紗月の家族である、館花仁・広子、館花直純、家族ではないものの深い関わりを持つ草壁弥生、そして、館花紗月の実の母である「紗雪」に関し、館花紗月の立場からの関わりについて述べさせて頂きます。

その1:館花仁・広子との関わりについて

[作中における描写]

義理の父母である館花仁・広子に対し、館花紗月は非常に忌諱的な態度を示します。

(顔を合わせたくない(8巻第2話))

実家の旅館に帰った直後、館花紗月は「お母さんと顔を合わせたくない」と述べ、裏口から旅館に入ろうとします。また、翌朝に母親と顔を合わせた際にも、言葉を殆ど交わすことなく、強張ったような表情を見せています。

(苦手意識(8巻第3話))

かと言って、館花仁・広子が高圧的な態度を示し、そのため館花紗月が萎縮し、そして2人を忌諱している、といった訳ではありませんでした。

(異様に気を使い合う親子関係(8巻第5話))

館花仁・広子は館花紗月に対し、恰も腫れ物に触るかの如く遠慮がちな態度を取り、そして館花紗月も2人に対して他人行儀な態度を示します。

そして、特徴的であったのは、話し合いの場における館花紗月の態度でした。

渡直人を伴った館花仁・広子とな話し合いの場において、館花紗月が主体的・積極的に意思表示をすることはありませんでした。

(三者三様の対照的な態度(8巻第5話))

館花仁・広子の発言に対し、渡直人がつい言葉を荒げてしまっているのとは対照的に、館花紗月は恰も他人事であるかのような態度を示しています。また、今後のことについても、館花紗月なりに煩悶はするものの、中々決断を下せずにいました。

(煩悶(8巻第5話))

館花紗月と館花仁・広子との関係性、それは険悪などといったものではないものの、「普通」の親子関係とはとても言えないものなのでしょう。


[館花紗月が館花仁・広子に抱いている感情]

館花紗月が館花仁・広子に抱いている感情には、以下の5つの特徴があるものと考えます。

その1:疎外感

館花紗月は何らかの事情があり、6年前に実の母親である「紗雪」から館花仁・広子の元へと引き取られてきました。

おそらくなのですが、館花紗月は「紗雪」の元において、「邪魔者」扱いをされて過ごしてしまい、結果、自分の存在が他者にとって迷惑である、といったような思い込みを抱くようになってしまったものと思われます。

(今も昔も厄介者で邪魔者(8巻第4話))

6年前の館花紗月は、「甘える」ということを知らず、そして、お絵描きや虫取り、勉強に家の手伝いといった、普通の子供なら経験し、身に付けていて然るべきことを初めて渡家で体験したという状況でした。まだこの時期は、館花紗月が館花仁・広子の元に引き取られて間も無い時期であったと思われますので、この時の館花紗月の人格は、「紗雪」の影響を強く受けていたと思われます。これらのことから、館花紗月は「紗雪」の元において、謂わば「ネグレクト」とでも言うべき極めて酷な扱いを受けていたことが伺えます。

(過酷な過去の影(6巻第3話))

そして、館花紗月が館花仁・広子の元に引き取られてきた当時は、旅館「たちばな」の経営状態が思わしくなく、2人は「親」として、館花紗月に充分に構うことができませんでした。

そのため、館花紗月は「紗雪」の元で抱くようになってしまった、彼女が他者にとって「邪魔者」である、という思い込みを解消・払拭することが出来ず、逆に館花仁・広子が館花紗月のことを「邪魔者」と考えている、という思いを抱くようになってしまったのではないでしょうか。むしろ、元々抱いていた、自分が「邪魔者」だという考えが、強化されてしまったのかもしれませんし、そして家庭が変わっても、相も変わらず暖かく遇されない自分自身の境遇というものに一種の絶望巻も抱いていたのかもしれません。

また、館花仁・広子についても、館花紗月を引き取った最初の段階で良好な関係を構築することに失敗していまい、その後も関係を改善させる端緒が無く、結果的に遠慮がちな態度を続けてしまいました。

(虚しく過ぎた6年間(8巻第5話))

それ故、館花紗月は自分は館花仁・広子から「邪魔者」扱いされているといった感覚を抱き続け、そのため、「疎外感」を持ち続けて来たのだと思われます。


その2:遠慮と引け目

館花紗月の態度から垣間見えるのは、基本的に館花仁・広子の決定には逆らえない、という一種の自己無力感です。7巻第5話の冒頭における、館花仁・広子からの手紙を受け取った館花紗月の態度は悲痛極まりなく、その態度から感じられる彼女の感情は諦めそのものなのでしょう。

(諦め(7巻第5話))

また、渡直人を伴った館花仁・広子との話し合いにおいても、館花紗月は積極的に自分の意見を述べるといったことはなく、恰も他人事のような態度を取る、あるいは彼女単独では結論も出せず、煩悶するばかりでした。

何故、このような態度となってしまうか?についてですが、館花紗月の自意識が極めて希薄である、ということに加え、館花仁・広子との今回において、遠慮がちであり、そして一種の引け目を抱いていることが要因として考えられます。

(自責(8巻第5話))

これまでのコミュニケーションの不足を補うためにも、女将を継いで欲しいという館花仁・広子の館花紗月に対する要望を聞いた渡直人が、その「勝手さ」に抗議しようとした際、館花紗月は「私があんまり口のきけないコだったから」と、コミュニケーションの不足の責が彼女にあるような言い振りをしています。

(煩悶(8巻第5話))

また、『館花直純と結婚して旅館を継ぐ』という館花広子からの提案に対し、館花紗月は煩悶しますが、悩む理由の一つとして、「育ててもらった恩もあるし、意見を言える立場じゃ」と彼女は呟いています。

おそらくは「紗雪」との関係性の中で培われてしまった自己主張の希薄さに加え、館花仁・広子に対し、遠慮がちであり、かつ「育ててもらった恩」を抱いているが故の、一種の「引け目」が、彼女の自己無力感を為しているのではないかと思われます。


その3:拒否感

これに関しては、まだ確たる描写は無く、前述の「疎外感」及び「遠慮と引け目」と比較して根拠は不十分であ理ますので、あくまで一つの可能性としてご認識頂ければ、と思います。

6年前の館花紗月は、実の母親である「紗雪」から見捨てられたという思いを抱き、そして「紗雪」への愛着を断ち切れずにいるような描写が為されています。

(断ち切れぬ愛着(8巻第5話))

8巻第5話の終盤での館花直純の回想の中の館花紗月の「今日はお母さん、迎えに来るかも」という台詞は、彼女が「紗雪」に対して抱く、断ち難い愛着の現れなのでしょう。

そして、館花紗月が東京で暮らす理由には、「紗雪」も関連していることもまた仄めかされています。

館花紗月の心奥には、本当の母親である「紗雪」に甘えたい気持ちが、恰も澱のように残っており、それ故に館花仁・広子が「甘え」、そして「依存」の対象であると認識できない、「甘え」の対処としての館花仁・広子を拒否している、という可能性もあるかと考えます。

本来ならば「紗雪」に甘えたかったけど、その気持ちを満たされなかった。それ故に「紗雪」との関係性に執着してしまい、それ以外の関係、すなわち館花仁・広子との関係を受け入れられない状態にあるのかな?とも考えます。


今回は以上で終わらさせて頂きます。

最後まで読んで頂きありがとうございました。