現在、館花紗月の言動の考察の一環として、館花紗月の怒りのパターンを列挙し、大まかにパターン分けした上でその理由について考察しています。

リンク:作品紹介及び考察計画はこちら


どんな時に館花紗月が怒るのかのパターンを以下に示します。

①畑荒しの話になった時

②キスをしたのに渡直人が何とも思わない時

③渡直人が館花紗月のことをそっちのけにし石原紫のことを考えたりする時(3巻まで)

④渡直人が心配事を打ち明けないなど疎外するような態度を取る時

⑤あまり構ってくれない時

⑥3巻ラストから4巻臨時バイト後の間の一連の怒り→今回考察

⑦梅澤マキナが渡直人にちょっかいを出してくる時


⑥以外に関する考察はこちらをご覧下さい(①:こちら、②〜⑤、⑦:こちら

前回から⑥について考察しています。

3巻ラストから4巻の臨時バイトまでの3日間、館花紗月はずっと怒っていると言っても過言ではありません。そして、この時期を境に館花紗月と渡直人との関係は大きく変化しました。

海への旅行において、石原紫は渡直人に告白すると宣言し、2人の交際が始まってしまうと考えた館花紗月は絶望し、もう渡直人とは関わらないと宣言しました。石原紫と渡直人との交際は始まりましたが、館花紗月は渡直人の6年前の好意を確信し、また、現在の彼の気持ちにも揺らぎがあることにも勘付いたものと思われます。渡直人としても、彼の中の館花紗月への好意をおぼろげながら意識し始めました。

前回は3巻ラストについて考察しました(考察はこちら)。今回はそれに引き続き、主に4巻第2話でのやり取りについて考察します。


※今回もネタバレ満載です。ご注意下さい。



4巻第2話における館花紗月の怒りの考察

おさらいですが、3巻ラストにおける館花紗月の怒りは、以下の3つが支配的なのかと思います。

渡直人と海に行くのが楽しみだったのに、渡直人はほとんど構ってくれず、逆に石原紫との接近をサポートしてしまい、館花紗月にとって全く期待外れだったことへの怒り

明日明後日にも石原紫と渡直人が交際を始めるかも知れず、館花紗月は渡直人の側にもう居られなくなるかもしれないという絶望感を抱いている時に、中途半端な優しさをかけてくることへの怒り

3 館花紗月にしてみればお互い様であるはずの畑荒しに関し、渡直人がいつまでも悪者扱いし、今の館花紗月に向き合ってくれないことへの怒り


抽象的にこれらのことを述べた後、館花紗月にとって起死回生の手とも言えるキスをし、その後、もう優しくしないでと言い放ちました(3巻ラストにおいて館花紗月が何を言いたかったのかの考察はこちら

こういった経緯があり、4巻第2話においても怒り、そして悲しみが継続しています。


4巻第2話の流れ、そして個別的な考察をざっと書きます。青字が作品中の記載赤字が考察です


館花紗月の部屋の前で、渡直人が今朝来なかった理由を聞くも、館花紗月の態度に気圧されてしどろもどろになる。

渡直人は結局、館花紗月に弱いのでしょう。1巻の頃から彼女が怒った態度を示すとすぐにうろたえたり譲歩したりします。

館花紗月が渡直人が訪れた理由に、ついて「一昨日キスしたこと怒りに来たんだと思った」と言う(黒塗り台詞)

開口一番から強引にキスの話に持って行ったことから、館花紗月としては、一昨日の2回目のキスにより、渡直人が館花紗月の好意に気付いたか否かが非常に気になっていたものと思われます。

うろたえる渡直人に対し、館花紗月は「ねえ、最初のキスの時も、一昨日のキスの時も、直くんされるがままで何も感じてないの?」と下から覗き込むようにして、悲しげな表情で問い掛ける。

悲しげな表情でキスについて尋ねていることから、どうして自分の好意が伝わらないんだろう?と館花紗月は絶望にも似た感覚を抱いていたのかもしれません(渡直人がなぜ館花紗月の好意を感じないかはこちらこちら

「そりゃ何でと思ってるけど」と言う渡直人に対し、館花紗月は「でも私にされて嫌じゃなかったの?」、「私のこと嫌なヤツだと思っているのに」「ずっと」と俯きながら言う(表情は不明)

キスの意図が一向に通じないことから、館花紗月としては、畑荒しの一件で渡直人はとことん自分に対して嫌悪感を抱いているんだろうという絶望的な気持ちを抱いたと思われます。

渡直人は館花紗月の④の発言にはっとし、「お前、誤解してるよ」、「6年前、お前が家の畑を荒らしたこと、オレは別に怒ってない」、「実際うちの家族だって誰も怒ってなかった。紗月にも何か理由があるんだって」、「オレがムカついたのはつか納得いかなかったのは、お前があの後いきなり消えたことのほうだよ」、「突然お前に会えなくなったことのほうが嫌だった」と館花紗月に向かって言う。

渡直人がはっとした表情をし、そして焦ったように一気に発言したのは、館花紗月に自分が彼女を嫌っていると思われるのは彼にとって心外であり否定しなければならないからでしょう。渡直人としては、館花紗月に嫌っていると誤解され、それが元となって彼女に距離を取られるのが嫌なのでしょう。

その後の発言は、今までの渡直人の主張のちゃぶ台返しです。渡直人は今まで散々な態度を館花紗月に取ってきましたが、畑荒しという実害を与えた加害者として嫌っていた訳ではなく、突然自分を捨てた事への抗議だった訳です。そして、最後は半ば告白めいた発言、少なくとも6年前は好意を抱いていたという発言になる訳ですが、目の前で悄然としている館花沙月をフォローしなきゃと思ったのと、前述のように、自分が館花紗月を嫌っているとの誤解から、最悪彼女が姿を消してしまうことへの恐れ、そして焦りが渡直人にそう発言させたのでしょう。

館花紗月は目を見開いて驚いたような表情をし、そして「なんだ、そっちか」とため息をつく。渡直人はなんだとは何だよなどと彼にとって結構な痛手だったなどと赤面しながら言う。

館花紗月はガチで驚いています。畑荒しの一件を渡直人が怒っていなかったこと、そして、少なくとも6年前は館花紗月に好意を抱いていたことが分かったことは彼女にとって相当な驚きだったのでしょう。「なんだ、そっちか」という発言は、畑荒しにより渡直人から恨まれていると思っていたのに、実はそうでなかったため気持ち的に拍子抜けしてしまい、また、渡直人への戦略を考え直さなきゃとも思ったのでしょう。そして、渡直人は自分自身の発言に動揺したのと、あと館花紗月の態度に肩透かしを食らったのでしょう。館花紗月が居なくなって心に大ダメージを受けたこと、そして6年前、館花紗月に拘り続けていたことも吐露っています。しかも赤面しながら…

館花紗月は渡直人の唇を左手で触りながら「今朝 直くんち行かなかったから、また私に会えなくなると思った?」と言い、渡直人は無言のまま、赤面し汗をタラタラと流す。

もう完全に館花紗月が会話の主導権を握っています。渡直人の表情からすると、館花紗月の発言は図星だったのでしょう。渡直人の中には、館花紗月が目の前から姿を消してしまうことへの潜在的な恐怖感やトラウマがあるのでしょう。

館花紗月が渡直人に対し「直くん、そんなに私のこと気にして、私のことまだ好きなの?」と問い掛ける。

完全に誘導尋問です。6年前には渡直人が館花紗月に好意を抱いていたことは、海でのやり取り、そして⑤の発言から確実だと思ったのでしょう。なので、わざわざ「まだ」を敢えて付けて、6年前の好意の存在を既成事実化した上で現在の好意の有無を尋ねています。

渡直人はカッと完全に赤面し、館花紗月から目を逸らしながら「違昔はともかく、お前のことなんてもう全然」と答える。

渡直人は館花紗月の誘導尋問に見事に引っかかっています。昔の好意の存在を認めていますし、また、目をそらして赤面しながらしどろもどろに現在の好意を否定しようとしているので、今も憎からず思っているのは館花紗月にしてみたらバレバレだと思います。

館花紗月は渡直人の唇を触っていた手を引き、「そうだよね」と言い、そして「もう私は直くんには関わらない」(黒塗り台詞)と言い、渡直人が呼び止めるのも聞かずに学校とは違う方向に去って行った。

館花紗月的に期待していたことは、キスの効果により、渡直人が現時点で明確に館花紗月に対して好意を抱き、渡直人が石原紫から告白されたとしても、拮抗し得る状態となっていることだったと思います。

渡直人が館花紗月を嫌っていないこと6年前は好意を抱いていたこと、そして現在も憎からず思っていることは分かったものの、期待とは程遠い状態であり、石原紫から告白されたら付き合うんだろうなと考えたため、絶望してしまったんだと思います。そのため、もう渡直人の側にはいられない、今までのように関わることはできないと考え、もう関わらない発言になったのだと思われます。


考察

館花紗月は3巻ラストの時点で、海から帰ったら石原紫が渡直人に告白して2人の交際が始まってしまい、渡直人の側に居られなくなってしまうことに悲しみや絶望感を感じていたと思われます。

そんな彼女の唯一の希望は、キスしたことにより渡直人が館花紗月の好意に気付き、彼女に好意を抱いてくれるかもというものでした。しかしながらそうではなかったため、館花紗月は完全に絶望し、もう関わらないと宣言したものと思われます。

渡直人が畑荒しのことを怒っておらず嫌ってもいないこと、6年前は好意を抱いており、また、今も館花紗月のことが気になっていることが判明したものの、館花紗月の絶望を覆すに至らなかったのでしょう。

なお、渡直人は石原紫が告白しようとしてるなんて知りません。一方的に館花紗月に翻弄され、また、落ち込んでいる彼女に畑荒しを怒っていないなど内心を吐露したにも関わらず、関わらない発言という三行半を突きつけられたので戸惑うのも仕方ないのかなと思います。


蛇足ですが…館花紗月が姿を消すことを渡直人が恐れていることを分かったのなら、彼女としては、「6年前はごめんね。事情はまだ言えないけど、直くんのこと裏切った訳じゃないんだよ。これからは、もう居なくなるなんてことはないよ。直くんが望む限り、私は直くんの側にいるよ、だから安心して。」みたいなことを言えば良かったのでは?と思ってしまいます。そしたら渡直人も安心し、以後の関係も好転するでしょうし、石原紫に告白されても館花紗月との関係を考えて交際に至らなかったかもしれません。館花紗月がそう言えないのは、何らかの事情があるのかもしれません。


以上、館花紗月の怒りに関する考察(4巻第2話)になります。次回は4巻第4話メインについて考察予定です。


最後まで読んで頂きありがとうございました。