ウォルフガング・ペーターゼン監督
かつてケネディ大統領の暗殺を防げなかったシークレットサービス捜査官と大統領を暗殺しようとしている男のお話
「ボディガード」とはシークレットサービス、大統領暗殺事件つながりです
しかも主人公のファーストネームがどちらもフランク
まず題名の原題は "In the Line of Fire" ですが、日本語の題名が「シークレットサービス」になっています
配給、製作会社のコロンビア,キャッスルロックエンターテイメントが表示され、オープニングクレジットなしでいきなり話が進んでいきます。こういう始まり方は珍しいです。
ワシントン,ホワイトハウスが映し出され,偽札作りの一味の捜査で主人公フランク(クリント・イーストウッド)のキャラが何となく紹介されます。歳はとったけどハリー・キャラハンのような捜査官ってことですね
シークレットサービスっていうのは大統領警護が主たる業務だと思っていましたが,歴史的に財務省傘下で貨幣の取締を行うために創設されたようです。なんで偽札作りの取り締まり? と思いましたがこっちが本来の業務だったようです。
不審な男の情報があり,部屋に入ると壁に暗殺されたアメリカ大統領の写真や記事が張ってありました。翌日捜査に入ったフランクが目撃したのはダラスであったケネディ暗殺事件で大統領車両を警護する若き日のフランクの写真。
写真をベタベタ貼る意味が分かりませんが,外から見張っていたことから考えると自分から仕掛けたということでしょうか。
フランクが帰宅し,いろいろなものをテーブルに置くとそこにはマイルス・デイビスのCD。流れている曲は アルバム「カインド・オブ・ブルー」の中の 「オール・ブルース」です。
フランクは劇中でピアノを弾いていて,ジャズが好きだってことが分かります。クリント・イーストウッド自身がジャズ好きですね。実際にピアノ演奏しているのも本人です。
サックス奏者,チャーリー・パーカーの生涯を描いた バード(1988)を監督しています。
敵対するジョン・マルコヴィッチ1) 演じるブース (名前の由来はリンカーン大統領を暗殺した犯人のジョン・ウィルクス・ブース) は最初なかなか顔出ししません。目だけをクローズアップしてみたり電話をしている時は口元だけ。そして全体が写されます。こういったところがゾクゾク感を刺激しますね
ブースとの会話でフランクがケネディを守れなかったことで酒におぼれて女房,娘に出て行かれたことがわかります。
「ボディガード」のフランクよりは説得力のある過去ですね。
フランクはシークレットサービスの女性同僚,リリー(レネ・ルッソ2) )に気があり,バーに誘いピアノを弾いて口説きます。はぐらかされて弾いた曲が,カサブランカ(1942)の主題歌 "As Time Goes By"。しっとり弾いていたわけじゃないんですが見ている側に気持ちが伝わりよかったです。
レネ・ルッソはクリント・イーストウッドとは24歳違いで,彼の娘と同じ年です。この映画の撮影時,クリント・イーストウッドは62歳だったそうです。シークレットサービスの定年は50代前半でこの役柄は50歳くらいの想定です。10歳サバ読んでいるということです。最初はこの役,断ったそうです。でも恋愛関係になるのはちょっと難しい気もするんですけどどうでしょうか。
何度もブースから電話があり,ミネアポリスといったヒントになる言葉も残し,正体が明らかになっていきます。
ブースと名乗る男は,元CIAの暗殺要員,本名リアリーで,政治情勢の変化と共に無用の存在となったため解雇されました。その後の一般社会になじめなかったようです。
CIAの同僚が様子を見に行ったところ殺されました。リアリーの主張は「国のために殺人を犯してきたのに親友を使ってオレを殺しにきた。許せん」
大統領を暗殺する動機としてはこれでもいいかもしれませんが,ただ暗殺するだけであれば宣言する必要はないと思います。
ブースは「俺たちは似ている。大統領に命を捧げ,誠実で有能だったが,信じる者に裏切られた」と言っています。
大統領を守る側として訓練を受けたフランクに対し,殺す側として訓練を受けたブース。
国によってモンスターにされてしまった男の復讐劇といったところでしょうか。
逆探知で屋根の上での追跡劇。外国映画では結構出てきますが,屋根の上の追跡は日本ではできないですよね。
フランクは屋根を飛び越えられず,しかしブースに助けられます。
この映画では大統領が選挙運動をしているシーンがたくさん出てきますが,実際に1992年のビル・クリントン大統領の選挙運動の実写映像を使っています。ここにクリント・イーストウッドを入れ込んだり,ケネディ大統領の映像に入れ込んだりするデジタル作業に400万ドルかかったということです。
そしてボナベンジャーホテルでの攻防。
なかなかおもしろい展開で満足しました。
「ボディ・ガード」はロマンス映画としては良かったですが,サスペンス・アクション映画としては「ザ・シークレット・サービス」の方が数段おもしろいと思います。
やっぱり敵対するブース役のジョン・マルコヴィッチの存在が大きいんじゃないでしょうか。
ただ大統領を暗殺するんじゃなくて予告してやり遂げる,大統領を守るスペシャリストの裏をかいてやり遂げるということに執着している犯人像を見事に演じていると思います。
"Green Square" elevatorがフランクとブース(リアリー)の最後の戦いの場所です。
ドジャースタジアムから2マイルちょっと3.5kmくらいのところにあるホテルです。ドジャーズでプレイする大谷翔平を見てこのホテルに泊まるツアーもあるようです。
1) ジョン・マルコヴィッチ
舞台出身の俳優です。本格的な映画出演はプレイス・イン・ザ・ハート(1984)が最初だと思います。心を閉ざした盲人の役でいきなりアカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。コン・エアー(1997)のように悪役を演じることが多いです。
仮面の男(1998)では三銃士のアトスを演じ、印象に残っています。マルコヴィッチの穴(1999)は名前がついた映画ですが、なかなか不思議で面白い映画でした。ほかにはクリント・イーストウッドが監督した チェンジリング(2008)やRED/レッド(2010)も面白かったです。
2)レネ・ルッソ
メジャーリーグ(1989)シリーズに出演しています。リーサル・ウェポン3(1992)では刑事役で出ていました。
ダスティン・ホフマン主演の アウトブレイク(1995)では主人公の元妻役を演じ,ウォルフガング・ペーターゼン監督と再度仕事をしています。
マイ・インターン(2015)でロバート・デ・ニーロの恋人候補(?)のマッサージ士の役で出演していました。まあいい感じに年を重ねているって感じでしょうか。
3) エンニオ・モリコーネ
イタリアの作曲家です。
関係した映画音楽の数はハンパないです。
数多い映画の中からモリコーネの曲でどの曲がイイか問われると迷いますが,ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ(1984)のデボラのテーマだったり,ニュー・シネマ・パラダイス(1988)の愛のテーマなんかは美しい曲です。もちろんアンタッチャブル(1987)もイイです。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカでは配給会社がノミネート対象のための書類を提出しなかったためにノミネートもされていません。
2007年のアカデミー賞授賞式で,モリコーネは名誉賞とはいえ,生涯功労賞として初のアカデミー賞を受賞しています。40年以上前から仕事を共にしてきたクリント・イーストウッドがプレゼンターとなり,ステージ上でイタリア語のスピーチを英語に翻訳しました。
そしてクエンティン・タランティーノ監督の ヘイトフル・エイト(2015)で遅ればせながらアカデミー賞作曲賞を受賞しました。