巡る | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

今から22年前。

 

まだ、長男が私の

お腹の中にいた頃。

 

妊娠6ヶ月目辺り。

 

 

当時通っていた専門学校が

夏休みに入るのを待って、

師匠と台湾へ出かけた。

 

 

 

先生の親族に、ご挨拶と

結婚報告をするためだ。

 

 

 

夫は、台湾が初めてだった

私を伴って、色々な場所を

案内してくれた。

 

 

 

総統府

二二八公園

龍山寺

行天宮

国父記念館

中正紀念堂

故宮博物館

保安宮

忠烈祠

饒河街夜市 

 

など。

 

 

台北の主だった観光地は

網羅しただろうか。

 

 

迪化街にも

連れて行ってもらって、

漢方を買った記憶がある。

 

 

 

 

そういえば。

 

あの頃はまだ、

台北101はなかった。

 

 

MRTの駅も、

今ほどなかった。

 

 

例えば、東門駅。

 

当時、永康街まで行くには、

バスかタクシーしかなかったような。

 

 

他にも、松山駅。

 

師匠が亡くなった8年前には、

確か、まだ建設中だった。

 

だから、饒河街夜市にも

バスやタクシーで

出かけた記憶がある。

 

 

 

バスと違って。

 

MRTは主に地下を走るから、

日に焼けなくていい。

 

それに。

 

運転が荒くて怖いと

心配する必要もない。

 

 

事実。

 

師匠は、バスの運転手の

ワイルドドライブの結果、

 

病院に行くほどの

怪我をしたことがあるそうな。

 

 

その後。

 

バス会社に治療費を請求して、

支払ってもらったとのこと。

 

 

 

 

なんとも、まあ。

台湾あるあるというか。

 

 

 

 

ただ。

 

バスは、目の前を流れていく

街の景色を眺められるところが、

情緒があっていい。

 

 

特に。

 

すべてがオレンジ色に染まる

黄昏時の台北の空と街は、

とても美しいと思う。

 

 

まあ、もっとも。

 

その情緒とやらも。

 

体を張ってまで味わいたい

とは思わないが。

 

 

 

以上。

余談終了。

 

 

 

 

 

台湾滞在は

一週間だった。

 

 

その間の、

ある日のこと。

 

 

その日は、朝から

お腹が痛かった。

 

 

 

キリキリというか。

疼くというか。

 

 

 

でも、なぜか。

 

お腹の赤ちゃんに

何か異常があるのでは、

とは思わなかった。

 

 

そういう類の危険を

感じなかったというか。

 

 

だから。

 

とりあえずは様子を

見ることにして、

 

すぐさま病院へ

行こうとはならなかった。

 

 

 

ただ。

 

本来なら外出する

予定だったのを止め、

 

その日はホテルで

安静にしていることにした。

 

 

 

 

 

それでも。

 

何かが気にかかる。

何かが引っかかる。

 

 

 

 

そこで。

 

日本に電話して

みることにした。

 

 

まだ、スマホもLINEもない

時代のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ。そっちはどう?

なんか変わったことはない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

電話に出た母に

訊いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日、おじいちゃん亡くなったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

長年入院していた

私の父方の祖父だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ。

だからか...

 

 

 

 

 

 

 

 

朝からの腹痛の原因が、

分かったように思った。

 

 

 

 

この祖父には、幼い頃から

よく可愛がってもらった。

 

 

 

 

ずっと長いこと

入院していたのに。

 

よりによって。

 

私がほんの1週間、

海外に出かけている間に

亡くなったのだ。

 

 

 

 

あの日の腹痛は、

きっと。

 

じいちゃんからの、

お別れの挨拶だったんじゃ

ないだろうか。

 


 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

言葉ではもう、

こう伝えられないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、この日。

 

一族として繋がる人間同士が、

この世で醸す縁の不思議を

感じずにはいられなかった。

 

 

そして、それは。

 

違和感を覚えたのが

体の他のどの部分でもなく、

 

長男が宿っている

お腹だったからだろう。

 

 

 

 

 

それから、

約4か月後。

 

長男は無事に

誕生してくれた。

 

 

 

 

あの日の腹痛は、

次の日には治まっていた。

 

 

 

 

 

ちなみに。

 

台湾滞在の後。

 

夫が長男の名前にと

挙げた候補は、

 

亡くなった祖父の名前と

一文字違いで、

画数は同じだった。

 

 

 

私もその候補が気に入って、

長男の名前に決まったのだが。

 

 

 

夫は祖父の名前を

知らなかったから、

 

もしかすると。

 

長男の名前は、じいちゃんの

この世への置き土産だったの

かもしれない。

 

 

 

 

 

 

思えば。

 

次男が生まれる少し前には、

師匠のすぐ下の弟さんが

亡くなった。

 

 

師匠がこの世を去る

数か月前には、台湾の姪に

赤ちゃんが生まれた。

 

 

そして。

 

先生が亡くなって

しばらくした後。

 

もう一人いる台湾の姪から、

妊娠したと報告があった。

 

 

 

 

 

 

きっと、

こんなふうに。

 

一族の命は、時代と共に

繋がり紡がれ、巡って

いくのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

先月。

 

師匠の8回忌を

迎えた。

 

命日にあたる日は、

今年社会人になった長男の

仕事の休みの日と

ちょうど重なっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパのお墓参りに行けるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

命日の前週、あるいは

前々週くらいだったか。

 

長男にこう打診していたのだが、

快く応じてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう! パパも絶対喜ぶと思うわ」

 

 

 

 

 

 

 

本当に。

 

どれだけ

喜ぶことだろう。

 

 

ひょっとして。

 

小躍りものだったんじゃ

ないんですか、先生。

 

 

 

 

実は、長男が大学を卒業する

節目に一度、お墓参りを

お願いしていたのだが、

 

日程の調整が難しく、

叶わなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

命日当日。

 

車で帰宅した長男は、

お墓参りの前に、

 

私をお気に入りのカフェに

連れて行ってくれるという。

 

 

 

 

この時。

 

 

 

 

 

 

ああ。

親子だな。

 

 

 

 

 

 

しみじみ、

こう思った。

 

 

 

 

 

私も同じことを

考えていたから。

 

 

ただ、残念ながら。

 

私が候補にと考えていた

カフェは2か所とも、

その日は定休日だった。

 

 

 

それに。

 

たとえオープン

していたとしても。

 

私は長男お勧めの

カフェに行ってみたかった。

 

 

実は、そのカフェ。

 

私が前々から行ってみたいと

思っていたお店だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり、親子ね。

 

 

 

 

 

 

長男が運転する車は、

晴れ渡った空の下、

まっすぐに続く国道を

危なげもなく走ってくれた。

 

 

 

 

ただ、私は。

 

滑稽なことに。

 

息子の隣の助手席に座りながら、

ありもしないアクセルとブレーキを

無意識のうちに踏んでいた。

 

 

 

 

そう。

 

私はいつも長男を

乗せて走る側だった。

 

 

 

運転に集中しなければならないから、

周りの景色を楽しむ余裕はなかった。

 

 

 

それが、

いつの間にか。

 

私が乗せてもらう側に

なったのだ。

 

景色をゆっくり眺めることが

できる側に。

 

 

 

そう思うと、

涙が出た。

 

 

 

私の足は自然と、存在しない

アクセルやブレーキを

踏むのを止めていた。

 

 

 

 

 

 

無事、カフェに到着すると。

 

長男が私に食べさせたいと

言ってくれていたカレーは、

残念ながら売り切れだった。

 

 

でも。

 

とびきり美味しいコーヒーと

ケーキをご馳走になった。

 

帰り際には、そのコーヒーの

豆を買って持たせてくれた。

 

 

 

 

その後。

 

長男とふたりで

お墓へ行って。

 

掃除をし。

 

蠟燭に火をつけ、

お線香を焚き。

 

ふたり並んで、

手を合わせた。

 

 

 

 

帰宅後。

 

平日で学校があり、

お墓参りに行けなかった

次男や娘と合流し、

みんなで買い物へ出かけた。

 

 

車好きな次男が、長男のために

一生懸命探した中古車に

みんなで乗り合わせて。

 

 

助手席には、次男が

座るのがお決まり。

 

 

前部座席の二人は、

色々と車の話をしている。

 

 

後部座席に娘と

横並びに腰掛け。

 

学校生活や部活動の

話を聞きつつ。

 

車の窓から吹き込む、心地良い

夕方の風に吹かれながら、私は。

 

 

 

 

幸せと。

 

子供たちが、日々

成長していく喜びと。

 

育む側から、

見守る側へ。

 

差し上げる側から、

いただく側へと。

 

 

徐々に、徐々に。

でも、確実に。

 

移ろいゆく

自分の人生と。

 

 

そして、

分かってはいても。

 

その場に夫がいない

一抹の寂しさを。

 

 

感じるがままに、

受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

巡る巡る。

すべては巡る。

 

 

 

 

 

 

 

いつか、私がこの世を

去る時分には、

 

子供たちの誰かが、新しい家族を

迎えているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

夫の命日の前月には、

次男の誕生日があった。

 

 

 

予め希望を聞いていた

プレゼントを買い。

 

弟、妹ともに

お小遣いをあげ。

 

ジュースやお菓子を

買い与え。

 

 

 

夫がその誕生を誰よりも

待ち望み、喜んだ長男は、

 

私たちを家に送り届けた後、

無事に金沢の自宅へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神様。

 

 

たとえ、この先。

 

私にどんなことが

あったとしても。

 

どうか。

どうか。

 

この日のことだけは、

忘れずにいさせてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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