「エイリアン、」故郷に帰る」の巻(10)
「先生、死ぬのかな。」
こう訊いた私に、
「そんなことはない。子供が3人いるのに、死ぬはずはない。」
ファンツンは強くこう言った。
よく分かっている。
そんなことは、ファンツンに
訊いたって仕方のないことだ。
ファンツンは神様でも医者でもない。
でも、たとえ何の根拠がなくても、
誰かに大丈夫だと言って欲しかった。
気休めでも何でもいい。
誰のどんな言葉にでも縋りたかった。
しばらく色々と話をした後、
待合室の椅子にもたれかかって、
朝まで二人で仮眠を取った。
二人で朝ごはんを食べたのかどうか、
もう記憶にはない。
この後、ファンツンは自宅に戻った。
日本から来る私を夜遅くまで待っていてくれて、
朝まで一緒にいてくれたことが
とても有難く、また申し訳なかった。
「弟弟、ありがとう。」
こう言って見送った。
その後、何時頃だったか。
ファンツンの奥さんのバオメイと
スーイエンが来てくれた。
「どこに寝泊まりする?」
スーイエンが訊いてくれた。
義妹たちとも
筆談を交えながらの会話だ。
スーイエンが書いてくれた候補は
・台北での師匠の住まい
・スーイエンの自宅
・ファンツンとバオメイの自宅
この3つだったが、考えた末、
どこも遠慮することにした。
まず、師匠の住まいは病院から遠い。
MRTと呼ばれている地下鉄で、
片道1時間くらいかかる。
駅から病院までの距離を入れると、
これにプラス20分は必要だ。
ICUの面会時間が
午前11時と午後7時。
2回とも面会したかったから、
その時間に合わせて病院に来るとすれば、
毎日移動だけで5時間位かかる。
それに、この距離だと、
もし師匠に何かあっても
すぐに駆けつけられない。
スーイエンの自宅は
病院からさほど遠くはなかったが、
次男夫婦と小さな子供が2人
同居しているのを知っていた。
ファンツンの自宅にも、
出産したばかりの娘と孫がいた。
小さい子供がいる家庭が
どんな様子なのかは、
自分の経験上、良く知っている。
私は、患者の家族のために用意された
部屋に寝泊まりすることにした。

