「エイリアン、故郷に帰る」の巻(7) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。



「エイリアン、故郷に帰る」の巻(6)






エレベーターは5階で止まった。


降りて見渡しても
病室は見当たらない。


ファンツンは、
あるドアの前で止まった。

インターフォンを
押して話をしている。



電動ドアが開いた。



入って少し行くと、面会客用に
抗菌エプロンが備え付けられた一角があり、
それとマスクを身につけると、
今度は手と指の消毒をする。



そこは、ICUだった。



自動ドアになっている入口を抜けて、
ファンツンの後についていく。

向かって右側。

入口から2、3番目の
ベッドだっただろうか。

ヘッド部分には、
8という番号が掲げられている。


ファンツンは、そこで止まった。


だから、そのベッドに
横たわっている人を覗き込んでみた。





ボサボサに伸びた髪。
今まで見たことがないほどの白髪。
入れ歯が外されてこけた頬。





でも、そんなことはまだいい。
単なる見た目だから。





鼻と口から通されたチューブ。

一定の秒間隔をおいて繰り返される
顔と全身のひきつり。

苦しそうな表情。
意識はなさそうだ。







嘘でしょ。先生。







さっきまであったはずの覚悟なぞ、
一瞬でどこかに飛んで行った。







これが本当にあの先生なのか。







覚悟が消えてなくなれば、
騙し、抑えていた感情が戻ってくる。

涙は勝手にこぼれた。






担当らしきドクターがやって来て、
師匠の容態を説明してくれた。

でも、この時ドクターに
何を言われたのかは、ほぼ記憶にない。


あの顔と状況を見た後で、
冷静に話を聞いて理解する。


そんなことは無理だった。


あの時のことで覚えているのは、
師匠のベッドに両手をついて
鼻水を垂らしながら泣いたことくらいだ。







一体どうしてなんですか。先生。







あとは、昏睡状態の師匠に
こう言ったことくらいだろうか。






それにしても。

この時、ドクターが英語で
話してくれて助かった。

私は大学時代、英語を専攻していたから、
英語なら何とか理解できる。


私が中国語を話せないことを知っている
師匠の親族が、英語が話せるドクターを
お願いしてくれたのか。

それとも、台湾のドクターは
みんな英語が話せるのか。


この後も何人かのドクターと話すことになるが、
みんな英語で話してくれて、本当に有難かった。


師匠のごく近しい身内で
日本語を話す人はいない。

唯一、日本語を話した師匠のお兄さんは
数年前に亡くなっていた。


だから、身内から師匠の
容態を聞くことはできない。


もし英語を話すドクターがいなければ、
私は誰からも師匠の容態や治療の経緯などを
聞くことはできなかっただろう。








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