「エイリアン、故郷に帰る」の巻(6) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。



「エイリアン、故郷に帰る」の巻(5)





洪さんからのファックスにあった
病院の住所は台北市だ。

見聞きしたことのない街で
どの辺にあるのか、全く見当がつかない。





とりあえず、台北市内に入らないと。





空港内にあるバス乗り場へ急ぐ。

そこからは、台北駅までの
バスが出ている。



乗り場に着いた頃には、
すでに午前0時を回っていた。


日付が変わった後の時刻だ。
バスはまだあるだろうか。


もし朝までバスがなければ、
空港で何時間も足止めを食うことになる。


やっとここまで来たのに。
それだけは避けたい。




“台北駅”と掲げたチケットカウンターに、
人がいるのが見えた。






良かった。
きっと、まだ大丈夫。






無事にチケットを買って、
空港の外でバスを待つ。

5月半ばの台湾は、
夜更けなのに蒸し暑い。

すでに初夏を迎えていることを
肌で感じた。







先生。台湾に着きましたよ。
今から会いに行きます。






空港から台北駅までは、約1時間。

バスの窓から夜景を眺めながら、
初めて台湾に来た時のことを思い出していた。

あの時も、こうやって
台北駅までのバスに揺られた。

師匠と一緒に。







結婚の報告と挨拶のために
来たんでしたね。先生。






またこうして、このバスに
乗れる日が来るだろうか。

元気になった師匠と
子供たちと一緒に。







バスが台北駅に着いた。


次はタクシーだ。


ここなら、何時でもタクシーに
困ることはなさそうだ。


午前1時半を過ぎていたが、
タクシーはあちこちに停まっていた。




洪さんからのファックスを
ドライバーに見せる。

私は病院の名前も住所も
発音できない。


人の好さそうなお兄さんで、
私が中国語を話せないと分かると
とても親切に対応してくれた。



この時間帯は、通常料金に
プラス20元の深夜料金がかかること。

本来ならもっと近い道があるけど、
駅前が工事中だから
迂回しなければならないこと。


こういったことを
ちゃんと説明してくれた。


自分でも不思議なのだが、
中国語がほとんど分からないのに、

この時みたいに、相手が何を言っているのか
たまに理解できることがある。


きっと、私は野生に近い
生き物なのだろう。


だから、エイリアンみたいな師匠を
人生に引き寄せたというか。

何というか。







目的地は、台北駅から10分も
かからない場所にあった。


蛍光灯に照らされて、そこだけ明るい
夜間外来の前に車を止めると、

お兄さんがトランクから
私のバッグを降ろしてくれた。


バッグを引きながら
受付へと向かう。



受付には、若いナースがいた。

師匠の名前を告げると
そこで待つように言われた。




しばらくすると、右の通路から
見知った顔の人が近付いてきた。




師匠の末弟、ファンツンだ。






「弟弟(ティティ)」






私は義弟をこう呼んでいる。

まあ。
弟といっても、60代なのだが。

師匠は私より35歳年上だから、
彼の親族は皆それなりの年齢だ。


ファンツンは軽く会釈した。


挨拶もそこそこに、病室へ向かう。


長い廊下を歩き、エレベーターに乗っていると、
この状況が、やっぱり夢でも幻でも冗談でも
なかったんだということを改めて思い知らされる。






先生のいる場所に
確実に近づいている。






こう思うと、もう恐怖や不安を
感じる余裕すらなくなった。

四面楚歌の敵陣に、一人で乗り込んで
いくような心境だったんだと思う。


背筋がピンと張る緊張感。
意識的に空っぽにした心。

何が来るのか全く見当もつかない
一寸先を受け入れる諦観。






これが、覚悟というものなのだろうか。












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