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第三章 【事の発端】 その1

「ありがとね!またけてね」



「キンちゃん、ギョーザ有難う御座いました」


手を握り合うサキとキンちゃん。

「キンちゃんゴチ」

お客さん多いのに店先まで見送ってくれるキンちゃんに申し訳なく思う。


「ありがと!またけてね~」


俺は背中を向けたまま片手を上げて足早に店を離れた。


キンちゃんはいまだに『来てね』を『けてね』と発音する。


単純に訛りではなくキャラづくりじゃないかと最近疑いはじめた。


まぁどっちでも良いけど。


サキが俺とハセプに追いつく。


「堀渕さん、ごちそうさまでした」


「気にすんなよ。またイコ」


「今日は変な態度でごめんね」


「俺の方こそメシがまずくなるような話ししか出来なくて悪かったな」


「堀渕さん悪くないよ。全部ホントの事だし」


そこでハセプか割り込む。

「でも善ちゃんは伝え方に問題あるね。言葉を選ぶべきだよ」


お前は内容に問題があるんだよ……と言いたいところ言葉を選んだ。


「ハセプの言う通りだ。 俺はさ、接する人の中のネガティブな感情を取り除きたいんだ。
その一心で熱くなりすぎて、逆にストレス与えてたら本末転倒だよな」


「ストレス感じるのはウチの受け取り方次第だよ」


「不安、悲しみ、怒り、憎しみ、妬み……ストレスも含むネガティブな感情に振り回されて大切な時間や才能を擦り減らしてる人が多過ぎる。ネガティブになる状況を生みだし助長する原因が自分の中のネガティブな感情なんだから、俺はその負の連鎖に一人でも多くの人に気付いて欲しんだ……只それだけだ」


微笑むサキ。


「じゃぁウチの不安も取り除く手伝いして貰おうかな?」


歩調を弱め俺はラークに火を点けた。

「俺に出来る事ならなんでもしてやるよ」


「善ちゃん漫画の事解んねぇぞ、サキ」


「ウチが不安なのは画力とか漫画とかの次元じゃないと思うんだ」


「そうだよな、サキの漫画がプロにも劣らないって事は俺にでも解るよ」


「プロとアマの違いって単純に画力や目先の技術じゃないと思うの。 力強い存在感とか、その人じゃないと描けない世界観みたいなモノ…… ウチの漫画にはそれが足りないと思う。 人を夢中にさせる漫画を描く自信がないんだ」



「サキはさぁ、いつもどういう想いで漫画描いてんの?」


「最初はただ単純に好きで描いてた。っていうか今もそうだね」


「勿論それは大切な事だと思うよ。その積み重ねで今のお前があるんだから。 要するにサキは今まで自分の為に漫画を描いてたって訳だ」


「そうだと思う。だからウチの漫画って中身が無くて好きなモノの寄せ集めみたいに感じるんだ」


「じゃあさ、これからは自分の漫画を読んでくれる人のために描いてみたら? 読者が単純に楽しめるモノでも良いし、 何かタシになる想いを詰め込んだモノでも良いから」


「読んでくれる人のために?」


「そういう事。俺の中でプロとアマの違いはそこなんだ。 自分のためにする事は趣味で、人のためにする事が仕事だ」



俺がそう言うとサキは立ち止まった。


2、3歩進みサキを振り返ると目を伏せている……。


このタイミングでキスの催促ではないとは思うが……ハセプも見てるし。


「出来る・・・出来るよ堀渕さん」


いやココではまずいでしょ……目を見開くサキに驚いて俺は思わず後ずさった。


「描ける気がする!すぐじゃないけど頑張る方向が見えてきた!!」


「ホントかサキ!」


「ホントにホント! 有難う堀渕さん」


俺の手を取ってはしゃぐサキは心から喜んでいた。


こういうケースは本当に稀だ。


俺に悩みを持ちかける人間の大半は、ただ助けを待ってるに過ぎない。


期待している答え以外は全てスルー。どんな金言も彼等には無意味だ。


多分そんな悩みはさほど切実ではないんだろう。


真剣に悩んでいたからこそサキは答えを自ずから導きだした。


『求めよ、さらば与えられん』という訳だ。




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