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第四章 【篤誠会の木庭】 その1

煙草屋の伊藤は恐る恐る鍵を開けて男たちを店内に入れた。


スーツ姿の3人が見渡し、猥雑とした狭苦しい店内に危険が無い事が解ると声を出した。


「木庭さん」


よれたレザージャケットを着た長身の男が歩み出た。


「篤誠会の木庭だ。2、3聞きたい事がある。そこに掛けて楽にしてくれ」


かすれた声に微妙に虚ろな視線が独特の威圧感を与える。


伊藤が唾を飲み込む音が誰の耳にも届く程、店内は静まり返った。


辺りに積み上げたダンボールにぶつかりながら後ずさり腰かける伊藤。


木庭は椅子を手繰り寄せ伊藤の前に静かに腰をおろした。


自分を囲む3人と木庭の顔を見回し状況を掴もうと必死に思考を巡らすと 伊藤は一つの答えに辿りついた……武藤から買い取ったシャブに。


「さっきウチの売人が襲われて1グラムごとパケに入ったシャブを10袋ほどやられた。 末端で約50万の損害だ。気分が悪りぃから俺は誰かにやつあたりしようかと思ってる……」


言い終わると伊藤の顔を見詰めて微笑む木庭……伊藤もひきつった笑いを浮かべる。


「ただしブツを回収出来れば話は別だ。誰も無駄な血を流さずに済む。 そこで単刀直入に聞くが、今晩お前の店にシャブ流した奴はいねぇか?」


慌てて立ち上がる伊藤。


「知らなかったんです。ちょっと待って下さい」


伊藤は壁に埋め込んだ金庫のダイヤルを合せ、 中からシャブを5袋だしてテーブルに置いた。


「2、3時間前に武藤っていうチンピラが持ち込みました」


「そいつ一人か?」


「恐らくつるんでる安西ってのもかんでると思います」

パケをつまみ頷く木庭。


「それでアンタはウチのブツだと知ってたのか?」


「出所については何も……こっちも聞きませんでしたし……」


「幾らで買い取った?」


「……7万です……」


「ずいぶん渋ったね」


木庭が微笑み、合わせて笑顔を見せる伊藤。


連れて来た3人を見回し 「伊藤さん、やり手だよ。お前らも見習え」 木庭は伊藤を持ち上げる。


「20万で買い取ろう」


「は?」


財布からよれた1万円札を出し数える木庭。


20万をテーブルに置き伊藤の前に差し出す。


「ここにあるシャブは俺が20万で買い取る」


「知らなかったとはいえ、もともと篤誠会のブツですし。 お金は受け取れません」


「俺の気が済まねんだ。 やり手の伊藤さんに損させる訳にはいかねぇよ」


戸惑う伊藤は木庭以外の3人に助けを求めるような視線を投げかける。

一人に顎で促され、恐る恐る金に手を置く伊藤。


「納めてくれよ」


伊藤は札を握りしめる。



「じゃぁここからは俺個人と伊藤さんの商談だ」

伊藤の札を握った手から力が抜ける。


「どう言った商談ですか?」

「アンタ、俺から自分の耳買わねぇか?」

「自分の耳?」


思わず耳を触る伊藤。瞬時にナイフをテーブルに突き立てる木庭。


「一見たいした役にたってねぇようだけど、大切だよ耳は。 無くなったら極端に聴力さがるし、第一見た目に良くねぇ」


唾をのむ伊藤……。


「幾らで……売って貰えますか?」


「20万だ」


ヤニで黄色くなった歯を見せ薄笑みを浮かべる木庭。


手を置いていた20万を差し出す伊藤。


「これで……なんとかなりますか?」


「勿論。これはアンタの金だからな。商談成立だ」


20万を握りしめポケットにねじ込み立ち上がる木庭。


木庭の目配せで3人が伊藤を抑え付ける。


髪を掴まれ頬をテーブルに押し付けられる伊藤。


「片耳だけで勘弁してやるよ」 腕まくりをしてナイフを耳にあてる木庭。
「良い耳してんじゃねえか」


「勘弁して下さい」 伊藤は震えた声で哀願する。


「聞こえるうちに良く聞いとけよ。俺に願い事は通用しねぇ。 もう少し気の利いた交渉してみろよ」


伊藤は口を開くが動揺して声が出ない。



「駄目だなコイツ」

耳を引っ張り、付け根にナイフをあてる木庭。


「買い取ります。買い取らせて下さいっ!」


木庭は仲間と目を見合わせる。


「形がいいからな……この耳は30万だ」




「武藤と安西か」


煙草屋から出て来ると木庭が呟く。


「どこの組がケツ持ってるか調べろ!」


木庭はかすれた声を張り上げる。

「それから、そいつらの親族総出でどんくらい金出せるかもな。 追い込みはそれからだ」


パーラメントをくわえる木庭、その中の大柄の方の男が火を点ける。



「篤誠会コケにしたらどうなるか、しっかり教育してやる」




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