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第十一章 【神のプログラム】 その1

「やめろっ!」

甲高い声と共に森下は衝撃を受け弾き飛ばされた。


何者かの体当たりで2メートル先まで転がり観葉植物をなぎ倒してとまる。


手に持っていた注射器は粉々に割れて中身の覚醒剤も全て飛び散った。


床に散った破片を目で追うと、四つん這いになった人影がある。  

その人影が一瞬森下を顧みて詫びるように頭を下げた。 

そして他の連中に向きなおり床に頭を擦り付け土下座をする。


「やめて下さい。お願いします」

「ボブさん……」

涼子の目の前には土下座するボブの姿があった。

「昨日のチビか?」

安西もボブに気付き呆気に取られる。


おいコラッ!」 声を荒げる木庭。
「うちのシャブとポンプおしゃかじゃねえかよ」


「それは不測の事態であります。勘弁して下さい」

床に這いつくばったまま動かないボブ。


「誰だ? お前」

木庭の問い掛けにボブはそのままの姿勢で震える声を絞り出した。

「就職情報ハッピーワーク。アルバイトのボブっちゅうつまらん男であります」


「聞いた事もねえな。で、そのハッピーなんとかのボブさんが何しに来たんだ?」


顔を上げて涼子を見るボブ。

「涼ちゃんを……」

事務所を見渡し涼子を、そして縛られた安西を見るボブ。

涼子も安西も信じられない面持ちで見詰め返す……。

「何があったか知りませんが、涼ちゃんと…… その安西って男、許して貰えませんか?」

再び床に額を擦り付ける。

「お願いするであります!」

安西はボブの思わぬ行動に完全に言葉を失った。


「ボブさんよ、あんたこの二人とどういう関係なんだ?」

「自分は……友達だと思ってるであります」


「今どき珍しいな」

木庭は他の構成員に安西をまかせて、ボブに向けて歩き出す。

「友情なんてモンがあんのは『走れメロス』の中だけだと思ってた」

土下座したボブの真横にしゃがむ木庭、ボブの髪を掴み顔を上げる。

「友達のためにヤクザの事務所に乗り込むなんて、たいしたモンだ。その根性に免じて……」

木庭は戸惑うボブの眼鏡越しの瞳を覗きこむ。


「なんて甘い展開期待してたんだろ?」

ボブの顔面に頭突きを入れる木庭。

「ウッ!」 鼻を抑えた指の間から血が滴る。

「やめろ木庭!」 叫ぶ安西。 「そいつ関係ねえだろ!」


「こう言う奴ムカついてさ、善人面の化けの皮剥がしたくなんだよ。 あと喋り方が意味無くムカつく」


ボブの髪を掴んだまま引き摺る木庭。


ボブは鼻の激しい痛みの中、昨夜安西と対峙した時のような恐怖感がない事に気付いた。

そしてなぜか高校時代の7.5メートルの高飛び込みを思い出していた……前夜からうなされる程怖かった高飛び込み。直前は足の震えが止まらなかった……ところが一度飛び込んだ後は優越感も手伝い慣れるまで何度も何度も飛び込んだ。ただ一つ問題は今回ばかりは怖れが一時的に消えたとしてもいつまで続くか解らない。自分で全く制御できない暴力の前に晒されては……。



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