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第十章 【暴力で砕けるもの】 その2

その瞬間、構成員の手をすり抜けた涼子は、 テーブルの上のアイスピックを取り自分の左胸に突き付ける。


「やめて下さい」


涼子は木庭に向かって叫んだ。

「ナイフを戻して」


木庭は思わず舌うちをした。

「全くウゼぇ展開だ」

「あなたが木庭さんですか?」

「ああ」

「私が死んだら、500万円の回収どするんですか?」

「やめろ涼子」


安西は声を絞り出した。


涼子を捕まえていた構成員の一人、戸田がゆっくり足を踏み出す。

「木庭さん、すいません。どうせハッタリです。すぐ捕まえますんで……」


後退りながら涼子は言った。

「悪いけど、本気ですから」


木庭は安西の足を放し、振り返ると涼子を見据える。


「アンタ死んだらコイツも助かんねぇぞ」


「まずそのナイフをしまって下さい」


「勘違いすんな。アンタが命令出来る立場じゃねんだよ」


木庭はそう言い終わると涼子の表情を値踏みするように伺う。

「じゃあお願します。私の命、500万で買って下さい」


「俺としちゃぁぶっちゃけ二人とも死んで貰っても一向に構わねえ。 いらねぇよ、そんなもん」



「涼子」 安西の声には憤りすら感じられた。

「勝手な事言ってんじゃねえ」


「涼ちゃん、無茶すんな」 武藤も動揺して声を掛ける。
「3人とも生きてここから出るんだ」


涼子は二人の声が届かないかのように木庭を見据えたままアイスピックを握りしめている。


「生憎俺は金になんねぇ事に興味ねんだよ」


木庭の目配せで戸田が動いた。

「アンタの身体なら買ってやる」

アイスピックをもぎ取り、肩で涼子を突き飛ばし倒れたところを手際よくうつ伏せに抑え付けた。


「涼子!!」

木庭に背中に座られ身動きの取れない安西は叫ぶ事しか出来ない。

戸田は乱暴に涼子の左袖を捲り上げ腕を露にして木庭の指示を仰ぐ。


「取り合えず濃いの一発静注してやれ」


その声で森下がアルコールランプに火を点け静脈注射の準備を始めた。



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