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第十章 【暴力で砕けるもの】 その3

「涼ちゃん関係ねえだろ」 武藤は木庭に懇願する。 「やめさせてくれよ」


「武藤、お前は俺の要求に誠実に応えたから評価してんだ。 後であの女輪姦すとき仲間に入れてやっからさ、それまで黙ってみてろ」



「輪姦す?」 動揺する武藤。 「アンタ最低だ……涼ちゃんが何したっつんだよ」




「暴力の前じゃ綺麗事なんて通用しねえ。力のあるモンの欲望だけがまかり通るんだ。 だから弱者のお前等にとっちゃ最低最悪で当たり前。そうだろ? 安西」


黙したまま目を閉じ唇を噛む安西。


「この世界だけじゃねえ。世の中なんてタイガイそんなモンだ! 誰が弱者の言い分に耳、貸してくれんだよ。ここだけが特別じゃねえ。 極端なだけだ。どの世界でも力のねえ奴は丸裸でくたばる運命なんだよ」



「うるせえぞ木庭」 安西が吐き捨てる。

「次に隙見せたら絶対ブチ殺すからな」

「安西やめろ」 武藤が割り込む。 「もう逆らうな」



「安西、お前がいくらキバっても俺には勝てねえ。俺とお前にゃ大きな隔たりがある」



「俺はお前みたいに腐ってねぇからな」


「腐ってる腐ってねえじゃねえ。暴力の質の違いだ。 お前は俺の体を砕こうとする。ところが俺はお前の心を砕く。 目的が違うから質が違う。どっちが強ええか身を持って実感しろ」




「何がそんなに怖いんですか?」



床に抑え付けられた涼子が口を開く。

驚いた木庭は涼子の顔を見て呟く。

「何言ってんだコイツ」


「木庭さん、あなたの話や行いは全部『怖れ』に支配されてる。 私には臆病者の過剰反応にしか見えません」


木庭や安西から涼子の表情は見えない。


しかしその落ち着いた涼子の声からは恐怖も怒りも聞き取れなかった。


「その臆病者の俺にボロボロにされんだぜアンタ」


静脈注射の準備が整い注射器をかざして森下が立ち上がった。


木庭は手をかざし森下を待たせて涼子の返事を待った。


「あなたの暴力が砕けるのも体だけです。心まで砕けると思わないで下さい」



「何が根拠か知らねえが、たいした自信だな」



「私は本当に強い人に逢いました。 そしてその人に『思いが人生に与える影響』を教わったんです。 その思いを司る私の心こそ人生そのもの……誰の自由にもさせません」




「最強だの支配だのアニメの見過ぎじゃねえか? アンタの話にゃ現実味がねえ。 これからじっくり現実の苦痛を経験しな。オオグチ叩いた事を後悔しねぇよう祈るぜ」



木庭が手を降ろすと森下が涼子の傍らに膝をつく。


戸田が手渡されたゴムチューブで手際よく涼子の上腕を縛る。


祈るように何か呟きながら目を閉じる武藤。


自分の愚行の結果を見据える安西。



浮き上がった涼子の静脈に針の先が触れる……。




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