(1)サービス付き高齢者住宅とは
高齢者のみならず、住宅の問題というのは意外にハードルが高い。借りるにしても保証人が求められる。つまり独り身だったりすれば誰かに頼まなければならない。しかし人の為に保証人になるという事は自らの身を亡ぼすことにもつながる場合がある。そうすれば、その保証をしてくれる何かを探さなければならない。
さらに高齢者の住宅事情は輪をかけて大変だ。私の隣の部屋に高齢者が住んでいたが、自宅で亡くなった。そうすると事故物件となり、価値が大幅に下げる。この部屋も完全リフォームして半年以上間をおいて、ようやく新しい人が来た。つまり高齢者を入居させるという事はオーナーにとって家賃が入らない、事故物件扱いになり家賃を下げざるを得ないなどのリスクがあるから、そもそも高齢者には貸したくない。
そうした住宅事情があり始まったのが「サービス付き高齢者住宅」、通称「サ高住」である。以前は「高齢者専用賃貸住宅」、通称「高専賃」として国交省管轄だったのが、介護保険と共に厚生労働省管轄になったというものだ。
そのサ高住、都心を中心にニーズが高まっているが、問題の多い所でもある。
(2)訪問介護の介護報酬を減額させた張本人
サービス付き高齢者住宅には介護サービスを提供しない「一般型」と介護サービスを提供する「介護型」という二種類がある。一般型はあくまで住宅を提供することがメインで、一応ヘルパーはいるが自費サービスで行う。介護型はサービス付き高齢者住宅に訪問介護事業所などが併設されており、そこに入るには原則併設のサービスを使わなければならないというものである。
訪問介護を行っている人なら分かるだろうが、何が問題かと言えば移動の問題である。それは例え10分の移動でも6軒回れば1時間介護報酬を稼げる機会を失う事になる。
しかし例えば団地で業務独占できれば、部屋の移動も楽で効率よく稼げるだろう。
サービス付き高齢者住宅の介護型ではそうした利用者の囲い込みを行う事により利益を上げてきた。
今の報酬規程では同一建物の利用者については減額措置が取られている。そもそもサービス付き高齢者住宅の介護報酬は、一般の訪問介護の報酬よりも低いはずだ。それでも前回の報酬改定で、訪問介護の報酬が下げられたという事は、低い報酬であるにもかかわらずサービス付き高齢者住宅の利益率が高いという事が挙げられていたし、結果全部の訪問介護の利益率が高いとされてしまった。
考えてみればいくら介護とはいえ儲かる事業をする方が良い。訪問介護を行うなら、このような形の方が仕事もしやすいし利益も高くなる。
高齢者の住宅問題にも貢献している。
となればウィンウィンの関係構築になりうるものだが、だからといって経営運営が順風満帆かと言えばそれは別の問題。それが記事の問題だろう。
(3)破産は突然に
我が区でも破産した訪問介護事業所がある。
その時もいきなり人がやってきて「今の時間をもってこの会社は破産しました。」と宣告されるのだ。おそらく従業員も知らなかっただろう。利用者のサービスをどうするか、という事はそのあとの問題である。
介護サービスは法人のみ認可されるものだから、その法人が無くなれば介護サービスを行い報酬を得られる根拠を失う。
だからもし、サービスが継続されえるとなれば、介護報酬のない状況、職員がタダ働きをするか、利用者が自費で支払うかのどちらかになる。
利用者の立場からすれば、次の法人が決まるまで責任もって法人の負担でサービスを行えという事だろうが、そもそもそんな原資は無い。だって破産しているのだから。
経営状況を見越してどうのこうの言っても、そんなことは考えないだろう。儲かれば良いし、ダメなら辞める。それは営利法人だったら当然の考え方だ。
いざとなれば利用者を放っぽり出してやめてしまう事業所があっても、それは営利法人ならそうだろう。それが例えばM&Aで売却するとか、スムーズに移行したとしても、利用者側にすれば新たに契約書を交わさなければならないなどの手間で文句は出る。
「どのように撤退するか」の上手下手というのはあるのだろう。今回の件は「無責任極まりない」と利用者や家族の憤懣やるかたない気持ちは理解できるが、民間企業というのはそういう所ですよ、位の感覚である。
介護保険が始まった時や、グループホームがどんどん開設した時代があった。儲かるかも、と思ったら波に乗り遅れるなとばかりに、昨日まで介護とは関係ない人までもが参入してきた歴史がある。
それでも儲からないとなればさっさと撤退する。今回の問題は倒産が理由だが、すでに今年度は倒産、事業廃止が過去最多となっているという。これからもどんどん撤退は進むだろう。