(1)訪問介護、人材育成
訪問介護の人材不足というのは、もしかしたら介護保険制度が始まってからすぐに言われていたのかもしれない。
まず、介護保険が始まるという段階になって、人材育成、つまり訪問介護員養成研修というのが始まった。これは1~3級まであり、訪問介護員で働くなら2級、ボランティア程度なら3級、出世を目指すなら1級という感じだったと思う。
ちなみにこれは在宅の訪問介護員向けの研修であり、訪問介護の仕事をするにはこの資格が必須となるが、施設で働くには特段必要が無いものである。
介護保険が始まるという事は2025年に団塊の世代が後期高齢者になるという時代を見据えての事であり、同時にそれはビジネスチャンスでもあった。
従って訪問介護員養成研修というのは①職業訓練の要素②カルチャースクールの要素という複合的な要素が相まって大人気の講座となった。
今まで介護というものをじっくり学ぶ機会が無かった事を考えれば、「とりあえず」受講してみて、出来そうと思えば就転職の候補にもなるという感じだっただろう。時はおりしも不況の時代。介護という新しい分野は雇用創出の分野としても期待されていたし、ブラック企業という言葉が出てき始めた頃だから、介護という人との触れ合いに期待した人も多かったと思う。
(2)終わりの始まり
ところが「コムスンショック」を機に「介護は稼げない」という事実が露呈され、介護の人気はあっという間に地に落ちた。
給料の額が問題ではないと綺麗事を言いながらも、やはり給料は高いほうが良い。ましてや訪問介護というのは集約型労働と言われ、時間や曜日もまちまち。入院したり急な休みで穴が開けばその分給料は減る。末期がんなど一週間ずーっと仕事が入ったと思ったらすぐに亡くなってパーになるというのも日常茶飯事。こんな不安定な仕事はない。資格は取ったものの、徐々に見放されていった。
ましてや人との触れ合いというのは良いこともあれば悪い事もある。セクハラやパワハラと言った事も日常的に起こる。いやな思いをして、安い給料。さらに日曜日も急に呼び出されたりする不安定な仕事なんて誰がするか、という当たり前の不満が頻発した。
しかし「介護の仕事をしていない」人の反応はどうだったか。
一例をあげれば、私が訪問介護事業者連絡会の役員をした時、とあるNPO団体の話し合いに参加したことがある。そこは末期がんを方を対象にした団体で、訪問介護に研修の参加を含めた協力要請があった。
趣旨は分かるが、それこそ末期がんの仕事というのは不安定である。そこにどのような保証があるのかと言えば特に無い。しかも「それでもやらなければならない」と主張される。
言い分は一定理解するが、連絡会を背負って参加する以上、負担ばかりかけさせるわけにはいかない。個々の事業所に仕事の依頼をするなら良いが、連絡会全体と言われると、大事な事と分かっていても協力はしないと返事をしたことがある。
「やらなければならない」というのは分かる。しかしこういう不安定な状況を強いるというのは業界が見放されるきっかけになると思った。私だけではないと思うが、今の訪問介護の惨状は何十年も前から予見されていた事だった。
(3)政治家も他人事
また、区議会議員だが区の福祉委員と懇談をしたこともある。「このままではいけない、危機感を持っている」とは言うものの、他党が出した提案はたとえどんなに良い法案でも全力で潰すと与党のK党の議員が言っていた。それも何十年も前の話だ。
今回の選挙では介護職員の待遇の悪さという点がいくつかの政党でささやかれた。国民から介護への不満があったわけではない。それはこれだけ悪い待遇ながら歯を食いしばりながら介護職員が頑張ってきた証だと思う。
しかし政治家というのは国民に不満の声が無ければ、支持者ではない介護業界の苦労など知った事ではない。介護職員の処遇を改善したところで自分の票にならなければ、業界が潰れようがどうでも良い。
今回の話もそんな風にとらえている。
言葉遊びはどうでも良い。
違うというならぜひ頑張ってほしい。