(1)おんぶのおばあちゃん
私がヘルパーをしていた時の話だから、もう15年くらい前の話になる。依頼が来た方は開業医をされていた方の奥様。クリニックの2,3Fが住まいで、その3Fに住んでいる。デイサービスに行くのだが、エレベーターが無いので3Fまでおんぶで上り下りするというのが仕事だ。
小柄で軽い方だったからなんなく出来たが、やはりおんぶされるというのは怖いのだろう。しっかりしがみついてくれるのは良いが、時々首に手を回すので首を絞められることになる。それが苦しかった。今思えばそれも良い思い出だ。
この方のキーパーソンは息子の嫁。
ヘルパーで関わり、しかもおんぶの時間は5分程度であれば、このおばあちゃんに悪い印象はない。しかし嫁の立場というのはそうではない。
(2)医師の家に嫁いできて
嫁に来た時にこの方に言われたことは「外で人に会ったら絶対に頭を下げるな」という事だったらしい。医者は人から頭を下げられる立場であり、人に頭を下げる立場ではないというのが根拠だ。
プライドという事ではないのであろうが、やはり家柄というのを重視していたという事だろうと思う。
代々、その地域で名のある人というのはそういう人もいる。良い悪いではなく、そういうものだ。
最近は一億総中流というか、みんな同じような生活をしている。すごい金持ちや貧困にあえぐ人もいるだろうけど、自分の家は代々こういう家柄で、というのを聞くことは少なくなった。
逆に言えばそのような家だから、それなりの振る舞いをしろという事。外に出てみっともない真似はするなという事でもある。
だからこのお嫁さんにすれば、このように教育されるのはやはり受け入れは難しかったと思う。
そして、この記事のように仏壇に供えてあったものを他人にあげようとして、目の前で捨てられたことがあったそうだ。
(3)それでも人は人
一度、訪問した時にトイレから「助けて…」という声が聞こえた。急いでみるとおばあちゃんが便座から滑り落ちたらしく、便まみれでうずくまっている。私ととお嫁さんで起こして綺麗に拭いた。その後おばあちゃんに「疲れたよね」というとハーッと息をついてうなづいた。
やはりお医者さんの奥さんで、外に出ても恥ずかしくないように振る舞っても、やはり人は人なんだなと思った。
この人も亡くなって、ずいぶん時間がたつ。
介護の仕事をしていると、こういうちょっとしたことで思い出す人がいるという事はよくある。
そんな思い出や経験を糧にして今日も生きるのである。
