【第五話】



前回までのあらすじ


ヴァイトとミンシアとの一悶着も、ミンシアが謝ることで一応の落ち着きを見せた。ヴァイトの頭にふと浮かんだ疑問を口にする。「どうしてそんな言慌てていたんだ?」ミンシアの口から語られる言葉とは・・・



ヴァイトの言葉に、ミンシアは思い出したくないことを思いだしたかのようにハッとした表情を浮かべた。そして、自分でもその言葉を確認するかのように声を絞り出した。



「そうだった・・・そうだったんだよ」



「なんだ? もったい付けずに言えよ」



 うつむきながらうろうろと歩きまわるミンシアが、とても言いづらそうな雰囲気を漂わせながら口を開いた。



「そういえば・・・僕、追われているんだった」



「へ? ヴァイトに・・・だよね?」



「いや、そうじゃなくて。また別の人たちに・・・なんだよね」



 少しばつが悪そうに頭を掻きながら、ミンシアが上目遣いに二人を見つめる。



「えーと、俺は関係ないからな」



「俺も関係ないですよ」



 ヴァイトもネルセンも、ミンシアと視線を合わせようとしない。



「そんな薄情な! これも寄り掛かった杖! 腕振り合えば、また会おうのサイン! って言うだろ?」



「言うか?」



「まあ、でも、こんな時になんなんだけどさ・・・実は、もうすぐそこまで来てたりして。てへっ」



 可愛くおどけてみせるミンシアをよそに、耳を澄ますと遠くから複数の馬のいななく声が微かに聞こえてくる。



「馬って・・・マジか」



「・・・これは、マジですね」



 ヴァイトとネルセンの表情がみるみる強張っていく。



「なんでもっと早く言わねぇんだよ!」



「だって、そんな雰囲気じゃなかったし、すっかり忘れていたし」



「言い争ってる場合じゃないでしょ! 一刻も早くここから離れないと」



 ネルセンの言葉に促されるように、ヴァイトが立ち上がる。



「何だってこんなことに巻き込まれてんだ! 本当によ!」



「巻き込むつもりはこれっぽっちもなかったんだけどさ。勝手に付いて来たのはヴァイトだし、もう行きがかり上、しょうがないよね」



「お前ってやつは」



 屈託なく笑うミンシアの手を、ヴァイトが引く。



「こっちだ、早く来い」



「うわっと!」



「ちょっと待って!」



 引かれるままに駆けだすミンシア。その後を追うネルセン。



「これってどこに向かっているんですか?」



「俺は里に帰る途中だったんだ。このまま里に向かう」



「えー! 獣人族の村!?」



「そうだが? 何か問題あるか?」



「うわー! ワクワクが止まらねぇ! どうしよう・・・ビリビリ来たー!」



「黙れ! ひよっ子!」



興奮して声を張り上げるネルセンの頭にヴァイトの拳が振り下ろされる。鈍い音が響いた。



「そんなに大声出したら、ここに人がいますよーって言ってる様なもんじゃん! 少しは考えておくれよ」



「ごめん」




ミンシアが思わず声を荒げる。馬の足音が大きくなってきている。差が縮まっているのか?




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【第四話】


前回までのあらすじ


男が獣に食われると思った瞬間、「すまん」と言葉を口にする獣。男が全身の緊張がほどけるのを感じながら、獣人族のヴァイトと名乗るその大男と、ネルセンと名乗る騎士見習いの男が、思い違いを正して和解する中、ヴァイトが少女との問題に踏み込む。


「ぎくっ!」



 二人のやり取りの間に少しづつじりじりと後ろに下がっていた少女に、二人の視線が向けられる。



「あ、えーっと、そうですよね。何でしたっけ?」



「何でしたっけじゃねぇよ、このくそガキが! すっとぼけやがって!」



少女に掴みかかろうとしたヴァイトをネルセンが止めに入る。



「まあまあ、少し落ち着いてっ・・・!?」



が、ヴァイトに片手であっけなく振り払われてバランスを崩したネルセンは、右足の小指を岩にしたたかに打ち付けて悶絶する。



「あふっ! 地味に痛いやつ! 地味に」



「いいから、俺に謝れ」



「え? 僕はさっきからずーっと謝ってたじゃない? 聞いてた? 僕の言葉」



「・・・だそうですが?」



「・・・」



「だんまりしてちゃわかんないよ。謝ったけど許してくれなかったのはヴァイトでしょ? 僕はどうしたらいいのかな? ああー、僕の運命はこれから一体どうなってしまうのだろうか。人買いに売られて鉱山で一生穴倉生活!? ああー、怪しいお店で寂しい男たちの慰み物として! 不幸な星の元に生まれてしまった、いたいけな美少女の運命やいかに」



 少女はいちいち大げさな身振り手振りで動きまわり、ヴァイトの気持ちを逆なでするには十分だった。



「だぁー! うっさい! お前のどこがいたいけなんだよ。美少女の“美”の欠片も感じられねぇだろ。青臭いガキなんてもんを買うやつの気が知れねぇな」



「ヴァイトには見る目がないんだなぁ。このつぶらな瞳とか。華奢な手足とか。この良さが分からんものかね」



「ただ目を見開きゃいいってもんじゃねぇし、そのしなやかな筋肉の付いた手足のどこが華奢なんだ?」



「あのー、二人とも論点がどんどん明後日の方向へずれていってますが・・・」



 ヴァイトがゴホンと一つ咳払いをして、少女に背中を向けてからドシンと地面に座り込む。



「とにかくだ! きちんと俺の目を見て謝れ。 えーと、何だお前・・・」



 少女はヴァイトの正面に回り込んで、これでもかと顔を突き付けた上で口を開いた。



「僕の名前はミンシア」



「ちけぇよ!」



 思わずヴァイトが顔を背けると、ミンシアはケタケタと笑いながら話を続けた。



「さっきは本当にごめん。慌てていて周りが見えてなかったんだ。本当にごめんなさい」



 そう言ってミンシアは深々と頭を下げた。



「そうか。なかなか素直だな。それでいいんだ。まあ、今回のことはこれで許してやろう。なんだ、その・・・このひよっ子に感謝するんだな!」



「あの、俺はひよっ子じゃなくてネルセンです」



「別にひよっ子でいいだろ」



「良くないですよ!」



「ひよっ子! ひよっ子!」



ミンシアがネルセンのそばで手を叩いておどけてみせる。



「定着させようとするな! 君、本当に俺に感謝してる?」



「してる、してる」



 納得できない表情のネルセンをいさめながら、ヴァイトがミンシアにふと湧いた疑問を口にした。



「それにしても、どうしてそんなに慌てていたんだ?」







・・・つづく




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【第三話】



前回までのあらすじ

男と獣が対峙する中、獣の一撃を受けた男に駆け寄る少女。

男の様子を見て獣に詰め寄る少女。

話が通じたのか通じてないのか、男の方に向かってくる獣。

まだ思うように体の動かない男の元に、獣がゆっくりと近づいてゆく。




・・・はずだったが、獣は頭を下げただけだった。



「すまん」



「え?」



「だから、すまんと言っている」



なんか、謝られているようだ。獣に。



「え? 言葉・・・話せるの?」



「当たり前だ! 俺をなんだと思ってる」



「人を襲っている・・・猛獣」



「だぁ~! これだから都会の人間ってやつは! 人を見た目で決め付けやがって!」



「あの、えっと、何かすみません」



「ちょっと待ってろ」



 そう言って獣が姿を消すと、茂みから大柄の男が姿を現した。



「俺の名前はヴァイト。獣人族だ」



「へ? 獣人族? うわー! 初めて見た! 本当に居たんだ・・・絵本の中だけの作り話かと思ってた」


「都会に出回っている獣人族の話なんてな、どこかのほら吹きが描いた作り話だろ、本当に迷惑な話だ」




「うわー、そうなんだ。へー」



男はヴァイトと名乗った獣人族の姿をしげしげと眺めては、ほー、へーと言い続け。ペタペタと触っては、ふむふむと頷き。周りをぐるぐると回っては目をキラキラと輝かせた。



「やめろ! 気持ち悪ぃ! 今度は本気でシバクぞ!」



「あ、ごめんなさい。ついつい珍しくて」



「俺は動物小屋の珍獣じゃねぇ! そういうお前は何者なんだよ」



「あ、これは失礼いたしました。興奮のあまり自分の名前を名乗るのも忘れていました。私の名前はネルセン。王都騎士団の騎士見習いをやっております」



「何だ。ひよっ子か」



「そういう言い方はないですよ」



「ひよっ子はひよっ子だろ」



「そうですけど・・・いつか王都随一の騎士になるんです! あ、サインはお断りですよ」



「いらねぇよ。俺が息をしている間になれるといいな」



「ありがとうございます・・・ってそれどういう意味ですか?」



「それよりも、嬢ちゃん。あんたとの問題がまだ解決していないんだが?」



 少女の方を向くことも無く、背中越しに少女へと言葉を投げかけるヴァイト。



・・・つづく



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