かわいく年を重ねる | 風の通り道

風の通り道

主にエッセイを発表します

 

 私は、時々泣く。

 

 偶然上がった、伊藤みどりさんの動画を見た。つい最近の、国際アダルト選手権の時の物である。

 坂本龍一氏の「アクア」の音楽に乗って、氷上を笑顔で、滑らかに舞い踊る。若々しいを通り越して、少女のようにかわいらしかった。年を重ね、ふっくらとしたラインが、彼女をそう見せている要因のひとつだと思う。

 

 私は、彼女の笑顔にくぎ付けになった。

 メダルとか、国民からの期待とか、その他いろんなしがらみから解放された輝き。しがらみを受け入れ、今までのスケート人生を包み込むような、人生大肯定のような、包容力を感じた。

 

 選手時代と、同じことはできない。ジャンプはシングル。しかし、その一回のジャンプは、人の心を打つ。彼女の人生の重み・深みが伝わってくるからだ。

 

 バレエやダンスを習っていた時、年を重ねるほど「内面の輝き」が踊りに出ると聞いていたが、それはこういうことなのだと思い知った。

 

 そういえば、外国の、認知症になった高齢の女性が、白鳥の湖の音楽を聴くと、踊りだす動画も見たことがある。車いすなので、腕だけであるが、その動きはまさに「オデット」だった。

 

 思いもかけず、前にしか進まない時間にしか作れない物を見てしまった時、私は、泣く。