アンダーグラウンド / 村上春樹 | 我が家の本棚

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大好きな読書について書いてます。
お酒や音楽、趣味のバレエ、鉛筆デッサン、ナンタケットバスケット関連話も時々。



もっとはやく読めば良かったのか
今だからこそ
より何かを感じとることが出来たのか
平成最後の夏に
忘れられない一冊となりそうです


地下鉄サリン事件で
被害にあわれた方々が
事件当日のことを語った
インタビュー集です

ブロ友さんの感想を読み
即購入しましたが
あまりのボリュームと
村上氏が直接取材された
62名の方のお話
ひとつひとつを
読み落としてはならないという
気持ちも働き
読了に時間がかかりました

読み進めるうちに
事件そのものに対してだけではない
言葉では表し難い、ある思いが
湧き出てきました



『 アンダーグラウンド 』村上春樹著



1995年3月20日に起きた
地下鉄サリン事件
それから9ヶ月後
取材を許可してくれた被害者への
インタビューを開始した村上氏
全てのインタビューを終えるのに
1年半かかったそうです

村上氏の気配はほとんどありません
被害者の方が語られた内容を
本人が了承した部分だけを
なるべく忠実に文字に起こしたとのこと

年齢、性別、出身地、お仕事、
家族構成や経歴、現在の体の調子、、、

当たり前ですが
誰一人同じではなく
背景も生活も様々です
みなさんどこかに向かうために
電車に乗り、駅を利用していました
通勤時間帯ということもあり
ほとんどの方が
会社へ行く途中でした


もし先日死刑となったオウムの信者達が
この本を読んでいたら
もし事件を起こす前に
このような本を読んでいたら

人は誰もが違うこと
誰もが何かを背負っていること
互いの生き方や性格を理解し合ったり
歩み寄ったり出来なかったとしても
みんなそれぞれの事情で
生きていることを
もう少し想像出来ていたなら

サリンを撒いたりしたのか?

自分で考えることを放棄して
滑稽にしか見えない教祖に
全ての判断を委ねた信者達
自分が楽になりたかっただけのために
考えなくなったのではないかと
読みながら考えました
崇拝している人に白黒つけてもらい
明確に断言してもらえれば
自らの思考は必要が無くなります

ではこの事件とは一体何であったのか
やはりわからないままです


本の最後に
村上氏のこの作品に対する考察が
丁寧に描かれています
村上春樹作品をエッセイ以外
ほぼ読んだことがなく
彼を取り上げた記事や対談なども
ほとんど未読なので
どのような人物なのかを
あまりイメージ出来ずにおりましたが
この一冊で感じた村上春樹さんは

初めて会う62名の被害者の方々に
真摯に向き合い
最大限の配慮と細やかな気遣いと
相手が話してくれたことにだけでなく
一人一人のお人柄に敬意を表す
理知的で佇まいの静謐な
とても格好良い大人の男性でした

ご本人は
数多くの個人的欠陥を抱えた
不完全な一人の作家に過ぎない、と
描いておられましたが
世界中に大勢のファンがいる理由に
今回触れた気がしました