春を恨んだりはしない / 池澤夏樹 | 我が家の本棚

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大好きな読書について書いてます。
お酒や音楽、趣味のバレエ、鉛筆デッサン、ナンタケットバスケット関連話も時々。



2011年8月に出版された作品で
書き下ろしですが
震災後に
新聞や雑誌に書いた文章も
含まれています

久しぶりに読みました

「春を恨んだりはしない」池澤夏樹著

震災直後から
何度も何度も被災地に足を運び
見て聞いて感じたことを
自分の思想や経験と照らし合わせ
慎重に言葉を選びながら
被災した人々に思いを寄せながら
書き綴っています


仙台市の若林区荒浜の海岸で
池澤さんは目を閉じて考えます

「惨劇を想像しなければならない。
押し寄せる水がこの広い一帯を
破壊したさまを、たくさんの人を
溺れさせたさまを、想像しなければならない。今から先のことは、すべて
それらの不意の死から始まる。
この先ずっとこの光景を鮮明に記憶し
できることならば目蓋の裏に彫り込んでおくべきなのだ。」


原発についても書いていらして
読み直してよかったと思います
感情的な部分は無く
冷静な分析と結論に納得です

「ここ2百年ほど、人は新しい発明に
感心してきたが、それを可能にしたのが新しい材料であったことを人は知らない。…中略… 形の前に素材。
原子レベルと核レベルは7桁の差がある。材料工学はまだ原子レベルの技術であり、どう足掻いても核レベルの強度は得られない。」

放射性物質を完全に封じ込める
絶対に安全という容器は
今の段階では作れない、というお話
その他原発の様々な問題点についても
触れていらっしゃいます
そして池澤さんは
「昔、原発というものがあった」という未来を考えています


最後の章にも興味深い文がありました

「災害が起こるといわゆる天譴論が横行する。発言の権利を持つ者、権力の席にある者が災害を利用して自分の意見を強化する。自分自身を天罰の範囲の外に置いた居丈高な論法。
関東大震災では渋沢栄一がこれを唱え
芥川龍之介は批判した。
天災に際してまず大事なのは
「天罰だ、反省しろ」というお説教ではなく、連帯である。
震災と津波はただただ無差別の受難でしかない。その負担をいかに広く薄く公平に分配するか、それを実行するのが生き残った者の責務である。
亡くなった人たちを中心に据えて考えれば、我々はたまたま生き残った者でしかないことは明らかだ。」

当時、前都知事は
居丈高な天罰発言しました
あれは悲しい発言でした

終わりに
「倫理とは想像力」と引用がありました

難解ではありませんが
読んでは考え読んでは考えしながら
読みました

ヒステリックに
誰かを糾弾したり批判したりせず
対立構造に関心を向けず
日本がこれからどのような方向へ
進んでいったら良いのかを
悩みながらお書きなったことが
伝わってきました


再読しての感想


時々読み返して
忘れてはいけないことを
確認します
















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