じぇっとエッセイ
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>

終わらない初詣3

年が明けて一週間が経ち、ブッキングも平常に戻った。
しかし、イワムラ君は帰ってこない。
「ギター1本あれば何とでもなるし、なんとかする。」ってのが当時からの俺の持論で、多少の不安はあったにせよ毎週金曜日の夜はそのまま弾き語りを続けた。
一ヶ月が経ち、二月になった。普通、二月ってのはどこの飲食店も暇になるのだが、なぜか俺の歌う日の客入りは増えていった。
目の前に客がいれば歌うのが俺の仕事だ。けっこう必死になって歌った。全く聴いてくれない人もいれば、涙を流しながら聴いてくれる人もいる。

酔っ払って絡んでくる人もいれば、一生懸命チップをくれようとする人もいる。チップは店のオーナーが「あげちゃダメ、癖になるから!」とか言って断ってたが・・・

親戚の伯父さんがくれる小遣いじゃ有るまいし!



¬(゜~゜)Γ


そんなこんなでそろそろ春になろうかというある金曜日の夜、一回目のステージが終わり、少し休憩。二回目のステージの時間が来たので歌っていると「毎度~っ。」と、ギターケースをぶら下げたイワムラ君が顔を見せた。

「長い初詣やな、しかし!」とステージ上からマイクで突っ込む。
「毎度~っ。」ニヤニヤしながらケースからギターを出し、アンプに繋ぐイワムラ君。

何事もなかったように俺の隣でギターを弾いている。

釈然としないものはあったが、やはり相棒が帰ってきたのが嬉しく、「師匠、なんか嬉しそう!」などと客席にいる女の子たちにからかわれたりしながら歌う。

翌週から客が減っていった。

自分に仲間がいるという意識がどこからか“甘え”を呼んだのである。わざわざ金を払って“甘えさせる”のはキャバクラの客くらいなもんである。

ベースとドラムを入れてバンドでやってみたりもしたが、あまりうまくいかずベースの奴が抜けた(モッズになるとか言ってベスパを買ってたな)のをきっかけにバンドは解散。

そして誰もいなくなった。

終わらない初詣2

とりあえず店に戻る。「きゃーーっ、師匠!」とほかの曜日に出てるユニットを観に来た女の子たちに捉まったりしながら(当時なぜか俺は年下の子たちに師匠と呼ばれていた。たぶん俺が偉そうだったからだと思う。)ウイスキーを飲んで騒ぐ。近隣の店のオーナーがうるさいと怒鳴り込んで来たりしていたがお構いなし。オカマチックなオーナーは多少青ざめたりしていたが長時間のイベントということで客もじっとしてはいない。再入場可ってのもあって入れ替わり立ち替わり騒ぎまくる。気付くと年が明けていた。

「ちょっと生田神社に初詣に行ってくるわ。」ジントニックをしこたま飲んでご機嫌なイワムラ君が言う。「ええけど次の次が俺らの出番やからそれまでに帰ってきてな!」
イワムラ君は付き合い始めたばかりの彼女と初詣に行ってしまった。
「師匠ーーーっ!遊びに行こーーうっ!」「うりゃうりゃーーっ」「エッチーッ!」どさくさにまぎれて女の子たちの胸を鷲掴みにしたりしつつ(無敵モード)ぞろぞろと俺も散歩に出かけた。
大晦日は電車も終夜運行していて三ノ宮の駅裏にも人波が絶えない。顔見知りのストリートミュージシャン(すんごく下手)をからかったりして遊んでいるとチャキチャキと金属を擦るような音が聞こえてきた。

「おいコラ、ワレ、いちびっとったらあかんど!」

頭の悪そうな兄ちゃんが俺にバタフライナイフを突きつけてきていたのだった。

¬(゜~゜)Γ???

じ「いちびってるのはあなたの方ではないですか?」
兄「なんやとコラ、イテまうぞ!」
じ「いいけど、あんまり痛くしないでくださいね(はぁと)。」
兄「ええ加減にしとけよ!」

兄ちゃんはそう吐き捨てて逃げるように去っていった。後ろを振り返ると俺の知り合い(ケンカ強い)が拳を固めて立っていた。

¬(T~T)Γ助かった


そうこうしている内に出番が近づいてきたので再び店に戻る。

あと2、30分もすれば俺の出番だ。

¬(゜~゜)Γあれ?イワムラ君は???


イワムラ君が見当たらない。それどころかセッションを頼んだメンバーが誰一人としてその場にいなかった。さらに悪いことにバンドでやるつもりだった俺はギターを持ってきていなかった。これじゃ弾き語りもできない。
参った。客席にはありえないくらい人が溢れている(100人くらいいた)。いままで観に来てくれていたお客さんが初詣がてら一度にみんな来てくれていたのだ。人が多すぎて入れない人までいる。参った。

参ったが参るわけにもいかず、その場に居合わせたバンドの人たちにセッションしてくれるようにお願いする。ろくに打ち合わせもできないままいざ本番。

ハーモニカを吹きつつ力任せに歌う。俺の曲(ってかネタ)のコード進行はこれ以上ないほど単純なので打ち合わせなしでも何とかなってしまった。何とかなってしまったどころか腰を振って踊りだす子がいたり、ほとんどの人が大きな声で一緒に歌ってくれたりして本格的に盛り上がった。

よかった。こんなの生まれて初めてだ。

セッションしてくれたバンドの人にお礼を言う。

ギター兼ボーカルの人が話しをしようというので外に出た。

「自分、なんで○○○○出すかなぁ?」その人が俺に言う。
俺は酔っ払うと脱ぐ癖があった。その人はさらに続けた。
「いいもん持ってんだからちゃんとやりなよ!」

ありがたい話だ。しかし俺は他人に褒められた経験がほとんどなく、なんだかとても照れ臭かったのでいい加減に笑うのが精一杯だった。
これからはちゃんとしよう。口には出せなかったがそう思った。
「とりあえず戻りましょう。」その人と店に戻りまたウイスキーを飲む。


飲んでるうちに朝になりイベントは終わってしまったがイワムラ君が戻ってくることはなかった。

終わらない初詣

路上で歌うのをやめた俺は件のバーで歌うのを毎週金曜日に変えてもらった(こう書くとバイトのシフトみたいだな)。
ファンクラブを作ってあげるといってくれた人が毎回何人かお客さんを連れてきてくれとても助かった。どうも昔っから人にライブに来てって言うのが恥ずかしいというか苦手なのだ。
例によってイワムラ君に適当なギターを弾いてもらい、俺は俺でもっと適当なギターを弾きながら歌う。思い出すのも恥ずかしいほど酷い演奏だったはずだが、こっちもお客もかなり酔っていたため上手いとか下手とかはどうでもよかったんじゃないかという気もする。所謂「酔っ払った勢い」ってやつである。

ギャラが安く、常に暇な俺はなんだかんだで重宝された。その店は土日になるとバンドを入れるのだがたまにレパートリーが少なくてワンマンができないバンドの対バンが見つからないときなどに助っ人として呼ばれたりした。あるときどこかの大学の軽音楽部のバンドと対バンさせられたことがあった。
アマチュアのバンドのライブの客は一般的にそのバンドの知り合いばかりってことが多い。その軽音楽部のバンドのときも客席を見ると大学生ばかりだった。
とりあえず俺が先に歌って客を温めろってことだったが、目の前にいるのは“知らない人の知り合いの集団”である。普通に歌っても見向きもしてくれない。

どうしたらいい?相手は学生ばかりだ。俺は少し考えた。そして


「どうもこんばんは!これといった芸もないので、一気いかせていただきます!」とウイスキーの一気飲みをすることにした。
ロックグラスになみなみと注がれたワイルドターキーをあおると客席から拍手と歓声が沸き起こった。


よっしゃ、これでこっちのもんや!いちど掴んでしまえば大丈夫。歌も聴いてくれる。小ネタも受ける。対バンの人も喜んでくれた。さらに酒が進む。気がつくとなぜか対バンの打ち上げに参加していて目が覚めるとボーカルの女の子の部屋だった。
「やっちゃいましたか、俺?」
「しっかり二回(笑。」

たぶんなにもしてないが記憶がない。

アルコールってのは恐ろしい。

ジーパンのポケットの中には打ち上げに来てたなかでいちばんかわいい女の子の電話番号が書かれた割り箸の袋が入っていた(かわいい子のことはしっかり覚えてたりする)。


別の日曜日、電話で呼び出されて違うバンドの対バン(俺はひとりだが)をやることになった。客席はいっぱいなのにどうも様子がおかしい。そのバンドは客席を埋めるためにタダでチケットをばら撒いたのだった(どっかのプロレス団体みたいだ)。実際タダでも聴きたくないようなつまらない演奏。まったく盛り上がらない。今回俺の出番はそのバンドのあとだった。アコギの弾き語りってだけで拒絶反応をおこす人もいれば知り合いの演奏が終われば他のは聴かずに帰ってしまう人もいる。客席はスカスカになってしまった。
こういうときはきっちり歌うに限る。アルコールを少し控えなるべく丁寧に歌う。

一曲歌い終えると後ろのほうの席にいた女の子たちが最前列まで移動してきた。そのうち二人はかなりかわいい。俄然やる気になる。かわいい子に見られてると思うと男ってのはがんばってしまうものなのである。


何曲か歌って出番が終わった。最前列に座ってた女の子たちが話しかけてくる。
「すごくよかったです。泣きそうになっちゃいました。」
「そりゃどうも。」

“泣く”までには至らなかったようである。

「なんか封筒にチケットを入れて無理やり送りつけられてイヤイヤ来たんですけど、よかったです。」
かわいい子は何を言ってもかわいい。
とりあえずかわいい子2人の電話番号を教えてもらったりしながらその夜は気分よく帰ることができた。
次の日2人に電話をかけてデートに誘ってみたもののやんわり拒否されたがその子たちとはなぜかしばらく手紙や電話のやり取りなどをした。

歌ったり酔っ払ったりそんなことをくりかえしているうちに少しずつお客さんが増えていった(日によっては3人なんてこともあったが…)。
ある金曜日、イワムラ君とのコンビで歌って酔っ払って帰ろうとしたら店の出口で女の子が待っていた。

(これが“出待ち”ってやつですか!)なんて思いながら通り過ぎようとすると・・・


「あのー、・・・。」(きたきた)
「なに?」わざとぶっきらぼうに答えてみる(アーティスト気取り)。
「あのー、えっとー、・・・・・・・。ギター下手ですね!」








¬(゜~゜)Γなんじゃそりゃ



「いつもおんなじところで弾き間違ってますよ。ところで○○さん(店のバイトの男前)って何時までですか?」
イワムラ君は肩を震わせて笑いを堪えている。
帰ってからしばらくブルーだった。

こんなときはかわいい女の子としゃべるに限る!時間は遅かったがこないだもらった箸袋に書かれた番号に電話してみた(※当時は携帯電話なんて普及してなくて女の子の電話番号は貴重だったのですよ)。
「もしもし。」
「どうしたの?こんな時間に。」彼女は一人暮らしだった。
「じつは今日あーでこーで・・」さっきの出来事を話す。
「ぎゃはははははは」
「ってなわけでデートしてくれ。」
「断る(笑。そのうちライブ見に行くわ。」
ありがたいやら寂しいやら。


次の日、何食わぬ顔でミコとデートした。大阪のミコの実家を訪ね(ケーキ持参)、珍しいことに彼女の母親にも気に入られ、ミコの妹(中3)の作る手料理などごちそうになる。昨日まで他の女の子を口説いたりしたことを後悔した。

¬(゜~゜)Γしかし反省はしていない

そして冬が来た。
コバヤシさんのブルースバンドでハーモニカを吹くために練習スタジオに入る。
ボーカルのアオキ君が新しくやることになった曲(古いシカゴブルース)の歌詞が書かれたノートを見ていた。
輸入盤のレコード(CDも)には歌詞カードの付いていないものも多いのでいざその曲をコピーしようと思えば自分の耳で聞き取って書き留める必要があるのだ。
「この曲ってどんな歌詞なん?」音源ももらわずに適当にハーモニカを吹くだけの俺はアオキ君に訊いた。ノートを隠すアオキ君。

??


隠されたら見たくなるのが心理である。

「ちょっと見せてーや!」と無理やりノートを奪うとそこにはアルファベットではなく意味の分からないカタカナの文字が並んでいた。

「なあこの、“ピテトゥルアメフレヤー”って何?」


「レコード聞いたそのまま書いとんねん。英語分からんし。」

しかしそのノートに書かれた歌詞(?)を見ながら歌うアオキ君の歌は誰が聞いても(アメリカ人を含む)英語に聞こえるのだ。
いまだに不思議である。
ピテトゥルアメフレヤーなんて英語はどこにもないんだから。


やがて練習が終わりバンドのメンバー全員でロイホへ。
新しく入ったベースの子(しょうもない大学のブルース研究会の部員)がバンドの音についてやたら熱く語る。
「もっとシカゴにこだわりを!」

ウザっ!


「真っ黄っ黄ぃの顔さらして何がシカゴじゃボケ!」
その場でバンドをやめた。

年の瀬が押し迫ってきた。バンドはやめたがイワムラ君とのユニットはそのまま続けることにした。ある日のこと、「大晦日にオールナイトでイベントをやるから出てね(はぁと)。」とオカマチックなオーナーが言うので普段とは何か違うことをやろうといろいろ考えた。
考えてはみたものの、相変わらず俺にはこれといった芸も無く困り果ててしまった。


他力本願


困ったときは誰かに頼もう。俺は毎日店に行っては酒を飲んでゴキゲンになってる他の曜日の出演者にセッションしてくれるよう持ち掛けた。

「いいよ。」と、けっこう簡単にメンバーが集まり、当時の俺としては強力なバンドが出来上がった。しかし時は12月、俺以外はみんな忙しく練習スタジオに入ることも儘ならない。結局ぶっつけ本番で大晦日を迎えることになった。

そして大晦日、夜7時からイベントが始まった。
トップバッターのユニットの演奏を聴きながらバーボンをあおり、イワムラ君と軽く今夜の打ち合わせをする。
思い出したように「年越しそばを食べに行こう。」とイワムラ君が言い出したので近所のそば屋に行くことにした。

大晦日だけあって客でごった返すそば屋に入る。
「ご注文は?」と聞かれたので「ビール。」と答える。イワムラ君もそば屋の店員も???みたいな顔をしていたが他には何も頼まなかった。そこの蕎麦は殺人的にマズいことを俺は知っていた。


蕎麦を啜るイワムラ君を見て(マズそう)とか思いながらビールを飲み干し、そば屋を後にする。
あと何時間かで今年も終わりだ。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 最初次のページへ >>