二階堂蘭子シリーズ。修道院の塔での密室殺人。首なし死体。[???]

[被害者及び容疑者]
マザー・プリシラ:聖アウスラ修道院の院長 (55)
シスター・フランチェスコ:修道女長 (50)
シスター・ミリアム:文書庫長 (65)
シスター・マルコ:修道女 (37)
シスター・アソジェラ:修道女 (29)
マザー・エリザベス:同修道院の前院長 (亡)
太田美知子:“尼僧の塔”から墜落した生徒 (昭和43年当時16)
ハルミ・メイヴァース:失踪した生徒 (昭和43年当時17)
白石悦子:太田美知子の元同室生, 二年生 (17)
小島安津子:三年生 (18)
勢カマリア:三年生 (18)
梶本建造:用務員 (25)
梶本稲:厨房係 (52)
トーマス・グロア:首を切られて殺されたアメリカ人司教 (58)
大河内嘉江門:紡績・製糸工場や鉄で財をなした長野の大富豪 (亡)
至福尼:尼僧
景福尼:尼僧
浄福尼:尼僧
聖アルノード・ヴリュコラカス師:聖アウスラ修道院の創立者 (亡)

[脇役]
山田金一:金寿司主人
平野美紀:聖アウスラ修道院の卒業生
シスター・アーネット:東洋カトリック教会の職員
篠田周一:パレス日本支社の編集長
ジェームス・コンウェル:日本カトリック教団信濃町伝道所の神父

[警察官]
田中甫:警視庁捜査一課の課長, 警視
小松新一:同, 刑事
石井五郎:黒姫派出所巡査
宇野正弘長野県警察捜査一課の課長, 警視
好美陸也:同, 警部
大久保武:同, 警部補
篠原佑介:同, 刑事
今村吉夫:豊野署刑事課, 刑事

[名探偵]
二階堂蘭子:主人公

[記述者]
二階堂黎人:私



聖アウスラ修道院。それは様々な奇跡の逸話も多数残る、聖アルノード・ヴリュコラカス師を祖とする修道院であり、聖アウスラ女学院に付属し、その生徒の寮も抱えていた。

その修道院にある、<尼僧の塔>にて悲劇は起きた。塔内の螺旋階段の先、最上階の<黒の部屋>の窓の下に、太田美知子という生徒の転落死体が発見されたのである。そのとき、<黒の部屋>は閂によって固く閉ざされていた。部屋の中に誰も居ない以上は、自殺か事故と見るのが妥当であった。もし、美知子の体に、鋭利な刃物で斬られた多数の傷がなかったならば。

ちょうどその頃、修道院からさほど離れていない地に立つ桜の木に、奇妙な物体がぶら下がっていた。まるで巨大なソーセージとも見えるそれは、逆さ吊りにされた全裸のヒトの死体だった。この地域では、それだけでも充分すぎるほどの大事件であったが、この死体にはさらに警察の興味を引く重要な点があった。あるいは、「ない」ことが重要であると言えるだろうか。本来は首の先に常に付属しているはずの頭部は、主の元を離れ、何処かへと消え去っていた。逆さ吊りの死体は、来日中のトーマス・グロア司教のものと断定された。

美知子の死は表向きは事故死として処理された。しかし、人の口に戸は立てられなかった。聖アウスラ修道院及び女学院の名を毀損するこの事件に対し、女学院の卒業生である平野美紀は心を痛めていた。しかも彼女は美知子と面識があった。彼女は思い悩んだ末、探偵としての評判も知る、旧友・二階堂蘭子に事件解決を依頼することを決意する。依頼の手紙には、美知子から貰った手紙に同封されていた、奇妙な書き付けも添えておいた。それはカタカナ混じりの漢字による、暗号文らしきものだった。

蘭子は、美知子の死だけではなく、グロア司教の死、そして修道院内での過去の惨劇、前院長・マザー・エリザベスの落盤事故死や、井戸の中にその死体が発見された生徒・ハルミ・メイヴァースの死に一連の符号を指摘する。どれもヨハネ黙示録に見立てられるものだったのである。

シスター・フランチェスコが<尼僧の塔>から転落死した。その体には石油が掛けられ、火が点けられていたおり、焼死とも採れる状態だった。これもまた、ヨハネ黙示録の見立てとして符合していた。生前の彼女は蘭子に対し、学院の生徒が事件に関わっているはずはないと断言していた。しかし何らかの疑念も抱いていた様子で、そのために彼女は“黒の部屋”に入ったものと思われる。美知子の場合とは異なり、“黒の部屋”には閂は掛かっていなかったが、施錠はされており、その鍵は死体の手にしっかりと握られていた。

美知子の遺した暗号文が、修道院の地下に隠された迷路の道しるべの一部であることが判明する。暗号文の全文を入手した蘭子は、その奥へと足を踏み入れる。そこには秘宝・水晶の頭蓋骨も存在すると思われた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



宗教的な狂気の影をちらつかせつつ綴られる、ゴシック・ミステリ。しかし作品の雰囲気よりも、単純に分量の多さのほうが重い。文庫なら、なるべく400ページ以内に収めていただきたいw 密室トリックなども扱われているにせよ、理詰めの論理パズル性よりも、冒険小説的側面が強い。もし主人公を院内の生徒として設定すれば、サスペンス的側面が強くなっただろう。

第一の解決編では警察に対しての表向きの説明がされ、それに続く第二の解決編にて蘭子は真相を語り、事件には合理的な解決が与えられる。しかし、最後にスーパーナチュラルを感じさせるエピローグを付与するのが、この作者のお得意の、「ディクスン・カーの某作品」パターン。

部屋の鍵を握って死んでいたシスター・フランチェスコについての説明は荒っぽいし、「見立て」の理由には少々物足りなさを覚えざるを得ない。グロア司教の頭部が切断されていたことについての第一の説明は、まるで後期クイーンを彷彿させるようで、読んでいて気恥ずかしくもなってしまったw そして、たとえばそのグロア司教殺害からの経緯はどうも辻褄合わせっぽく感じてしまう。殺害時に犯人が証拠を残してしまい、それを隠匿するために頭部を切断したというのだが、それだけが目的ならそもそも死体ごと隠してしまえばいいわけで。かと言って、木に吊るして死体を衆人の目に晒したことを、偶発的な状況を利用した演出として見るなら、既にこの時点で犯人はヨハネ黙示録に従った七つの死体を生み出すつもりであっただろうかという疑問が浮かぶ。「犯人はそれを神の意志によるものと捉えたからだ」と言われてしまえば、納得するしかないが。
二階堂蘭子シリーズ。顔を包帯で覆った“地獄の奇術師”が復讐を謳い、実業家一族の皆殺しを宣言する。不可能犯罪。[???]

[被害者及び容疑者]
藤林梅女:藤林家の刀自
藤林明彦:梅女の長男, 故人
藤林祥子:明彦の妻, 故人
藤林義彦:土工建会社(株式会社藤林企業)の社長, 梅女の次男
藤林竹子:義彦の後妻
暮林広美:義彦の長女, 先妻の娘
暮林清美:義彦の次女
暮林秀一:義彦の長男
暮林英希:明彦の長男
暮林順希:明彦の次男, 故人
万釣部亀ゑ門:暮林家の執事
野村福子:暮林家の家政婦
鬼津地紫郎:死んだ?, あるいは“地獄の奇術師”?
久松静江:鬼津地紫郎の婚約者, 故人
屋植教司:考古学者, 暮林広美の元婚約者
絹田次郎:“村山乞食”と呼ばれる浮浪者
横野田徳蔵:フィリピンで戦後22年ぶりに発見された元日本兵
ウイリアム・ジョゼフ・ダマン:カトリック神父
フランシスコ・ジョゼフ・ダマン:ウイリアムの父, エクソシスト, 故人

[警察官]
二階堂陵介:警視庁警視正
大塚道輔:三多摩署署長
中村寛二郎:三多摩署警部
村上郁夫:三多摩署刑事
波川六太郎:三多摩署の検死医
高橋信哉:三多摩署巡査
石山作治郎:派出所巡査

[脇役]
九段晃一:多摩日報の新聞記者
二階堂鏡子:二階堂陵介の妻
朱鶯沢康男:一ツ橋大学教授
貝山公成:喫茶店“紫煙”の店長

[名探偵]
二階堂蘭子:主人公

[記述者]
二階堂黎人:私



暮林家の邸宅たる、通称「十字屋敷」の周辺にて、顔中を汚れた包帯で覆い、片足を引きずりつつ歩き回る不審な男の噂が絶えない時期があった。そして、ある夜、石山巡査長もその目撃者のひとりとなったが、その日以来、包帯男の噂は途絶えてしまう。

そんな怪夜から半月ほどが過ぎたある日、二階堂黎人は義妹・蘭子と、友人・暮林英希とともに、いつものように連れ立って家路を辿っていたときのこと。英希の自宅である十字屋敷の門前に、何か様子のおかしい男を認めると、なんとその姿は噂の包帯男だった。彼は、“地獄の奇術師”と名乗り、英希の叔父・義彦とその家族の命を貰いに来た、義彦がその名を聞けば観念するだろうと告げた。

呆然とする三人を残し、“奇術師”は立ち去った。その後、我に返った三人が、彼を追い掛けようと走り出すと、すぐに彼の背中を視界に捉えた。そこからは慎重に尾行を続けると、彼は防空壕の中へと入っていった。さらに彼を追って入るのは危険とも思われたが、英希は見張りとして入り口に残り、黎人と蘭子は中に入るが、“奇術師”の様子の確認に留めるということになった。

防空壕の中は暗かった。頼りは蘭子の持つペンライトの灯りのみで、慎重に奥へと進んでいった。そのとき、いつの間に背後に回られたのか、“奇術師”に襲撃され、二人は昏倒してしまう。

黎人が意識を取り戻すと、自身の体は固く縛られ、そこには“奇術師”。まるで何かの儀式のように、彼は天井から吊るした少女の死体にナイフを激しく突き立て、顔の肉をこそぎ取った。そして彼の次の標的は黎人たちであった。しかし、いよいよナイフが新たな死体を生み出そうとした、まさにそのとき、それを制止する声。間一髪、英希が助けに来たのである。英希の投げつけた石は“奇術師”には命中しなかったが、相手の矛先を変えさせた。“奇術師”は防空壕の入り口へと走り出し、英希もまたこちらに背を向けて走り出した。黎人はこの隙に蘭子とともに逃げようと思ったが、何か薬物でも嗅がされていたのか、体の自由が効かず、時間だけが過ぎていく。しかし幸いにも、“奇術師”を上手く撒いた英希によって、二人は救出された。

二人が目撃した死体は英希の従妹・暮林清美だった。そしてその死体のポケットには、暮林家の者を皆殺しにするという、“奇術師”からのメッセージが大きく書かれた画用紙と、トランプのダイヤのAが入っていた。

さて、三人は“奇術師”と門前で遭ったときに、小箱を渡されていた。その中には、「キヅチ」と刻まれた指輪をした、左手のミイラが入っていた。思い返してみれば、“奇術師”は常に左手をポケットに入れていた。

義彦は命を狙われる心当たりなどないと頑強に言い張った。しかし「キヅチ」という名を聞いた途端、彼は激しく動揺する。彼にはかつて「奇術師」とあだ名されていた、鬼津地紫郎という友人が居た。しかし鬼津地は親友と言える存在であり、彼を恨むはずもなく、そして決定的なことに、既に戦死しているのだから、鬼津地が“奇術師”であるはずはないというのである。

“奇術師”が誰であれ、犯行は続く。次に狙われたのは、義彦の長女・広美。十字屋敷内で入浴中に襲われるが、悲鳴に気づいた英希が急ぎ駆け付けたためか、軽傷で済んだ。浴槽にはスペードのAのカードが沈んでいた。屋敷周辺は警官が固めていたが、“奇術師”は何処から現れたのかも、何処へと消えたのかもわからなかった。

次は“奇術師”はしくじらなかった。ホテルに逗留していた義彦と、その妻・竹子、長男・秀一の三名が殺された。竹子と秀一は毒殺。現場にはダイヤの3と4。義彦の場合は密室での刺殺であった。現場に残されたカードはダイヤの2。

そして万釣部も、十字屋敷の書斎内で死んだ。3発の銃声を聞き、駆け付けた黎人、蘭子、英希と、屋敷警備に就いていた警官。扉を破ると、中には万釣部の死体と、その傍に拳銃が置かれていた。自殺のようにも見える状況だったが、万釣部の命を奪った弾丸はその銃から発射されたものではないことが判明する。万釣部が“奇術師”を銃撃したものの命中せず、逆に相手の銃弾は見事に命中したものと思われた。現場には当然のように、ダイヤの5のカードが残されていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



第一章を十ページも読まずとも、そこにあるのは江戸川乱歩の世界。これは誰の目にも明らかなオマージュ作品だろう。しかしあるいは本作は、単に乱歩風な作品なのではなく、乱歩自身が本来はこのように書きたかった、ひとつの形なのではとも思わせる。つまりあの幻想的な世界の中に、「本格推理」を持ち込んでいるのだ。

尤も、あまりにも乱歩に忠実すぎるためか、犯人に至るまで乱歩風。乱歩をある程度読んだ読者には、「謎解き」の部分は見え見えになってしまう可能性も高いと思われる。実際に、僕はそうだったw すぐに犯人の目星がついてしまい、その視点で読むと、以降のすべての出来事について、発生と同時にほぼ真相を把握しつつ読むことになってしまったが、それは乱歩の作風をそこまで消化した結果であるとして、むしろ称賛したいw 動機は掴めなかったけど…と言うか、あの動機は物語上必要なだけであって、推理するための謎ではないような。

防空壕での背後からの奇襲。大きな文字で脅迫文が書かれた画用紙と、内容は同様ながらも文章が1行分多く書かれた、手帳から切り取ったような小さな紙片。ホテルの一階に到着したときには誰も乗っていなかったエレベーター。複数の銃から放たれた銃弾。
クリッブ巡査部長シリーズ。死刑執行を待つ女。(「・ω・)「にゃおー [??]

クリップ:スコットランド・ヤード犯罪捜査部部長刑事
ジャウィット:同主任警部
ハワード・クロウマー:写真師
ミリアム:ハワードの妻
ジョーサイア・パーシヴァル:ハワードの助手
サイモン・アリンガム:弁護士
ロティ・パイパー:女優
ウォータロー:キュー地区担当警部
ベル:女看守
ホウキンズ:同
ジェイムズ・ベリー絞首刑執行人



写真館にて、助手・パーシヴァルが毒殺された。彼は酒には目がなく、普段から隙を見ては勝手にワインを取り出し、飲んでおり、それは館主・ハワード・クロウマーも半ば黙認状態だった。当日もパーシヴァルはハワードの留守を預かったことをいいことに、いつものようにワインを飲んでおり、そのグラスに毒が入っていた。自殺とも判断出来る状況だったが、ハワードの妻・ミリアムがパーシヴァルから恐喝されていたことなども判明し、追いつめられた末に、自殺に偽装した殺人を決行したものとして、彼女は死刑判決を受けた。彼女は己の罪状を認め、静かに死刑判決も受け入れたようだった。

しかし、刑の執行を目前に控え、匿名の人物から一枚の写真が内務大臣に届けられ、事態は急変する。その写真は、ある雑誌からの切り抜きで、犯行当日に遠方にて会議に出席していたハワードを写したものなのだが、写真館の毒物棚の鍵が付いた時計を身に付けていることがはっきりと確認できた。

さて、パーシヴァルの死の直後、ミリアムの立ち会いの下で、パーシヴァルの命を奪ったと思しき毒物が収められた棚を開けることになったのだが、鍵はハワードとパーシヴァルが身に付けている二点しかない。そしてミリアムは鍵を持っていなかったので、死んだパーシヴァルのポケットから鍵束を取り出し、棚を開けた。ここで問題となるのが、ミリアムがどのように鍵を入手し、パーシヴァルのグラスに毒を入れたのかということである。

仮に棚の中のワインボトルやデカンターに毒が入れられていたならば、そこに入れる機会も事前にあったものと思われるが、毒が入っていたのはグラスであり、助手が飲む直前に入れられたものであろうと断定された。しかし、ハワードの鍵が手元にないとなると、当然パーシヴァルの鍵を使ったことになるわけで、恐喝者たるパーシヴァルが、被恐喝者たるミリアムに毒物の鍵を無邪気に渡し、そしてその後にワインを飲むとは考えづらい。冤罪の可能性が浮上したのである。

以上のことが検討された結果、警察内部の様々な政治的要因により、クリッブ部長刑事に内密の再捜査が要請されることとなった。しかし、ミリアムの処刑はもう目前。タイムリミットが迫っていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



あとがきで、瀬戸川猛資はこう書いている。「なんだ、トリックや意外性が大したことないのか、それじゃあミステリとしてつまらんじゃあないかと考える人には、おそらく、いつまでたっても現代英米ミステリの魅力はわかってもらえないだろう」「ゲームから小説へ。簡略にいえば、これがここ数十年の英米ミステリの流れである」

言わんとしてることは理解はできるのだが、トリックや意外性を軽視した作品は僕の好みではない。なのだけど、本作は悪くはないですw まあ、実際本作のトリックや謎解きは大したことない。毒物の特定は甘いし、最後の展開はご都合主義、意味ありげに振る舞う死刑執行人・ジェイムズ・ベリーや、彼とミリアムが気にしている彼女の着衣は結局、事件には何の関係もないし。(結果的にベリーは、本人が与り知らぬままに事件解決に役立つことになるけど) 作者が元ネタにしたかどうかは不明だが、モロに超有名作家の最初期作品のネタが使われてるし。読み始めた最初からそれはちらついてたけど、まさかそのままとは、逆の意味で驚いたw ミリアムは既に死刑執行を待つ身ということで、切迫度はそれよりも高くなってるけど、彼女自身はまったくそれを意に介した様子を見せないし、白馬の王子様がそれを必死に回避しようとしている物語でもなく、サスペンスはあまり感じない。

ここ数十年の流れ、現代英米ミステリと言われても、本作はヴィクトリア時代を舞台にしてるということを差し引いても、現代的というよりは、むしろクラシカルな印象を受ける。それこそが現代英米ミステリだと言われたらそれまでだけどw