ペンションでの演劇のオーディション。脚本なしの殺人劇を演じるうちに姿を消していくメンバー。消えたメンバーは本当に殺されているのではないかと疑心暗鬼になる一同。[???]



演劇のオーディションに合格した七人がペンションに集められる。だがそこに演出家・東郷陣平の姿はなく、彼からの手紙に、今後の指示が書かれていた。それは四日間、このペンションを雪に閉じ込められた山荘と設定して、そこで推理劇を演じることを各メンバーの試験とするというものだった。台本もなく、どうしたらいいのか戸惑う面々だったが、このペンションを脱出したり、外部と連絡を取った場合は即刻合格取り消しとなるというので、とりあえずは、ペンション内で流れに身を任せてみるのだった。

やはり何事もなく四日間が過ぎるなどということはなかった。初日の夜、遊戯室でピアノを弾いていた笠原温子が姿を消す。そこに残されていたのは一枚の紙片。死体はピアノの傍に倒れていた、首にヘッドホンのコードが巻き付いており、絞められた痕があるなどと、笠原の“死体が置かれた状況”の設定が記されていた。なるほど、ここで殺害された温子の死体が発見されたということにして、残った者はそれぞれの役を演じるということのようだ。笠原はおそらく近くの別のペンションにでも移動したのではないか。どうやらこの中の誰かが、予め東郷から指示を与えられて、“犯人”役をやっているのだろう。

二日目の夜、久我和幸には一つアイデアがあり、それを本多雄一に持ちかけてみた。きっと今夜また誰かが犠牲者になるに違いないから、今夜は同室で過ごさないか、もし他の誰かが犠牲者になったらお互いにアリバイができるし、お互いのどちらかが犠牲者になったら、残ったほうが犯人と判明する、と。本多はなるほどと、そのアイデアを受け入れた。久我はその証人として、元村由梨江にそれを話した。これでもし久我が“殺され”たら、犯人は本多というわけだ。

その夜、犠牲者に選ばれたのは元村だった。彼女は鈍器で殴られた後に、絞殺されたという設定になっていた。

捜査が始まった。すると、凶器らしき金属製の一輪差しが見つかった。なぜこれが凶器と思われたかといえば、血痕らしきものが付いていたからだ。なんとなく不穏な空気が漂った。それはどう見ても本物の血のようにしか見えなかった。

改めて元村の部屋を調べると、ゴミ箱の中から紙片が見つかった。そこには「この紙を鈍器とする」と書かれていた。そういう設定でこの推理劇を続けろということである。ならば、あの血痕のある一輪差しは…?

これが参加者に緊張感を与えるための、東郷の演出というのは、いかにもありそうなことだった。しかし、あるいはこれは、そんな皆の心理を利用した本当の計画殺人事件なのかも知れないという可能性も、どうしても拭いきれなくなった。

そして四日目の朝を迎えた。どうやら昨夜は犠牲者は出なかったようだ。10時になったらペンションを出て、この事態をはっきりさせられる。しかし朝食を摂ると、皆に急に睡魔が襲ってきたようだった。どうやら睡眠薬を盛られていたようだ。皆が動かなくなると、その人物は起き上がった。そして雨宮京介の首に手を掛ける。最後の犠牲者の完成だった。

皆が目を覚ますと、雨宮の居た所には、「死体の状況、絞殺」の紙片が。残った四人、本多、田所義雄、中西貴子、そして久我はペンションを出た。もう試験は終わりなのだ。そこで久我は言った。「もうこれで終わりなんですよね」 それは犯人に語りかけたものだった。

なぜ笠原は防音室で電子ピアノを弾いていたのに、わざわざイヤホンを使用していたのか? なぜ元村が襲われた時間帯に停電したのか? なぜ本多は久我との堅固なアリバイを皆に披露することを避けたがっているようなのか? 消えた者たちは果たして生きているのか? もしこれが本当の殺害計画なら、そもそもなぜこんな状況を作る必要があったのか? オーディションに落ち、劇団退団から自殺未遂にまで至った麻倉雅美と今回の出来事との関わりは? 久我はすっかり真相を掴んでいた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



雪に閉じ込められた山荘…であるかのようにペンションで過ごすという、まるでミステリの定番パターンのパロディのような設定。だが決してジョーク作品ではなく、犯人にとってはこれは必然であり、登場人物も含めた、この設定なればこその物語となっている。(現実的に考えれば、かなり奇妙なものではあるのだが)

作中の大部分は登場人物の言動が三人称で描かれるが、時折挿入される「久我和幸の独白」というパートにより、彼を主人公として、その視点から描かれた物語と感じさせる作りになっている。作者は東野圭吾なのだから、単に文章に凝ってみましたなんてはずもなく、当然のようにそこには読者へのトリックが仕掛けられており、そしてそれは真相へと至る重要な手掛かりでもある。

注意深く読めば、何かが“久我和幸の独白”以外の部分には決して書かれないということ、そしてそれが指し示す事実にも気づく…かもw なぜ笠原はイヤホンを? なぜ停電した? なぜ本多はアリバイを開示しない?etc. これらの「なぜ」は、すべてそこに結びついている。

悪人になりきれないひとたちの残酷さが作った物語。
<十字屋敷>での殺人。目撃者は人形。[???]



竹宮家の住居は、二階の中央に十字の廊下が走る構造で、東西南北それぞれの廊下の両側に部屋があり、奥にはバルコニーがある。上から見ると十字型になっており、通称「十字屋敷」と呼ばれていた。

南の廊下の西側には竹宮佳織の部屋があり、そこには佳織のほかに、父・宗彦の姿もあった。そのとき、悲劇は起きた。

(ここからはピエロの人形の視点)

その屋敷の中央には十字の廊下が走っていた。僕はその廊下の途中の棚の上に座らされていた。十字路の先、最南端のバルコニーの脇には扉が見える。

その扉が開いたのは、突然の叫び声の直後だった。若い女を両腕で抱き抱えた男が現れた。ふたりとも驚いたような顔をしている。次の瞬間、僕の目の前の階段から女が駆け上がってきた。僕を棚から叩き落すと、十字路に背を向け、そのままの勢いで廊下の端のバルコニーへと出ると、手すりによじ登り、その向こうへと消えた。

「頼子!」 「お母さん!」 扉の前の男女が叫びが聞こえた。


(ここまでがピエロの人形の視点)

北のバルコニーの下には竹宮頼子の死体があった。自殺として処理された。

頼子の死からしばらくして、悟浄真之介という人形師が竹宮家を訪れる。彼曰く、竹宮家にあるピエロの人形は彼の父の作ったもので、過去に何度もその持ち主とその周囲に悲劇を呼んでいるのだという。そんなわけで、それを買い戻したいという申し出だった。それを聞いた竹宮家の者たちは、悲劇を呼ぶ人形という話自体を必ずしも信じたわけではなかろうが、その人形をなんとなく薄気味悪く思っていたため、引き取ってもらうことには特に異存はないようだった。しかし元々それを購入した頼子亡き今、その夫である宗彦の意向を確認しないとなんとも返事できないということで、悟浄は翌日に宗彦と面会する約束をして、十字屋敷を出た。

ところがその面会は叶わなかった。宗彦と、その秘書・三田理恵子が死んだからである。理恵子が宗彦を殺し、その直後に自殺したと見えなくもなかったが、ふたりとも殺害されたという線のほうが有力だった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



ピエロの人形は自力で動くことはできないが、知覚能力のようなものはあり、事件を淡々と眺めている。彼は偽らない。彼の言葉として書かれた部分はすべて事実である。そういう設定で物語は綴られる。

人形の設定はオカルトじみているが、作品はフェアプレイの本格推理物。人形は事実を語っているが、当然そこには読者をミスリードする仕掛けが施されている。この趣向は面白かったけど、この設定にはまださらにいろいろな可能性がありそうな気がする。シリーズ化してほしかった。

宗彦と理恵子の殺害についてはあんまり高く評価できないかな。偶然の事情でそれに関わった者のせいで、強引に話がゴチャゴチャになってる印象。

それに対して、頼子の死については綺麗にまとまってる。教科書的なトリックが用いられ、ピエロ人形の扱いも素晴らしい。

心情を覆い隠し、張り巡らせた糸を引いていた某人物の、時折漏れ出す憎しみの強さ。自信なのか、つい隙を見せたのか、あるいはその両方が絡み合ったかのような挑戦的な台詞。真相を知った上で改めて読めば、その言動に込められいていた重さに気付かされる。

二重解決が美しい上に、哀しみの中にしか救いがなかったエンディングもまた美しい。
密室での死。茶会での死。仲間の死を巡る苦悩。[???]



加賀、沙都子、波香、藤堂、祥子、若生、華枝。T大四年の友人グループだったが、祥子が何の前触れもなく、施錠された自室で自殺する。それを信じられない加賀は、たとえそれが望まざる結論になろうとも、納得できる答えを得ようと、殺害された可能性も含めて調べ始める。

祥子の住むアパートには正面口と裏口があり、正面には管理人が常に目を光らせており、裏口は普段は施錠されている。しかし裏口の鍵は内側からなら簡単に鍵の開け閉めができる。そして各部屋の出入り口の扉は、内側のボタンを押して閉めれば施錠されるものなので、アパート内部の者、あるいは内部に協力者が居る者なら、祥子を殺害し、部屋を施錠し、立ち去ること自体は容易である。

そしてまた仲間の一人を失った。波香が服毒して死んだ。「雪月花ゲーム」という、友人グループと南沢先生による茶会の最中にである。これも自殺というのもあり得ることではあるが、もしそうだとしても、なぜこんな場で…?


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



雪月花ゲーム(皆で札を取って、「花」が立てた茶を、「月」が飲み、「雪」は菓子を食べる)を利用したトリックは凝っている。その手順を文章で簡単に説明するのは困難なので、ここに記すのは省略するが、要は波香が若生か華枝のどちらかに毒を盛るトリックで、これには藤堂が共犯として関わっていて、波香が「月」、藤堂が「花」、若生が「雪」を引くように操作するもの。その「雪」の札に毒が塗られているというのが波香の計画なのだが、それを利用した藤堂が波香に毒を盛った。

凝った割には、それでも2分の1の確率で中止せざるを得ないという、そのトリックのコスパについてはさておく。しかし結局は藤堂は茶杓に毒を仕込むという単純な方法で標的を殺害しているわけで、つまりこの程度の確率で特定の相手に服毒させるだけなら、こんな凝ったトリックは不要で、藤堂か波香が「花」、若生か華枝が「月」という条件が揃った際に茶杓をすり替えるだけで充分なのではなかろうか。彼らは札すり替えのトリックのために、かなりの手間とリスクを背負っているが、それよりは遥かに単純だし、簡単な方法だ。藤堂が思いついたそのアイデアを波香は思いつかなかった…なんて説明も可能だが。

まあ、そもそも論で言えば、こんな複雑な手順を踏んでなお自らを容疑の圏外に置くことすらできぬのに、なぜわざわざこんな状況を決行の場に選ぶのか、もっとマシなチャンスはなかったのかとw

毒の付いた札とすり替えるってのも、あるいは難があるのではと、ちょっと引っ掛かる。すり替えること自体はいいとして、毒の付いた札をどのような状態で所持してるのだろうか。こっそりと素早くすり替える必要があるのだから、しっかりと梱包しておくとは考えづらい。そうなると、自身の衣類や手に毒が付着して、警察に身体検査された際にマズいことになる可能性が高いのでは。

事件の解決後、最後にどんでん返しを予感させつつ、それがなかったのは残念w