館シリーズの長編第2作。“水車館”と呼ばれる風変わりな屋敷内での事件。家政婦の転落死。絵画盗難。容疑者の失踪。焼かれたバラバラ死体。“過去”の事件が語られる中、“現在”の事件も発生する。屋敷の主は車椅子に乗る仮面の男。その妻は美少女と呼ぶのが相応しい、幼き容貌の娘。[???]

[水車館の住人や雇人]
藤沼一成(ふじぬまいっせい):故人, 画家
藤沼紀一(きいち):一成の息子, 事故による傷跡を隠すため仮面を被る
藤沼由里絵(ゆりえ):紀一の妻, 一成の弟子・柴垣浩一郎(故人)の娘
正木慎吾(まさきしんご):紀一の友人
倉本庄司(くらもとしょうじ):執事
根岸文江(ねぎしふみえ):“過去”の住み込みの家政婦
野沢朋子(のざわともこ):“現在”の通いの家政婦

[水車館の来訪者]
大石源造(おおいしげんぞう):美術商
森滋彦(もりしげひこ):M**大学・美術史教授
三田村則之(みたむらのりゆき):外科病院の院長
古川恒仁(ふるかわつねひと):藤沼家の菩提寺の副住職

島田潔(しまだきよし)



藤沼紀一は自らの引き起こした交通事故によって大きな怪我を負い、仮面を被り、車椅子の上での生活を送ることとなった。それをきっかけとして、既に実業家として巨万の富を築いていた彼は、風変わりな屋敷、“水車館”を建て、移り住み、ほとんど外部との接触を拒むようになった。そんな彼にとって唯一の例外と言えるのが、年に1回、父・一成の命日である。その日だけは大石源造、森滋彦、三田村則之、古川恒仁の四名が屋敷を訪れるのであった。彼らと紀一やその亡父とは、古くからの関係があり、無下に断るわけにもいかず、このような慣例となってしまったのだ。

事件が起きたのは1985年9月28日で、一成の命日。彼らが水車館を来訪する、毎年恒例の日だった。その始まりは家政婦・文江の事故だろうか。古川がタクシーで到着するほんの少し前に、バルコニーから川に転落したと思われる彼女は、そのまま川を流れていった。外は激しい雷雨で、川の流れは速い。とても助けられる状況ではなかった。後に溺死と判明する。

その夜、北回廊に飾られた絵画が一枚紛失する。屋敷内は騒然とし、皆が集まる中、古川だけが姿を現さなかった。当然彼に疑惑の目が向く。しかし非常に不可解な点があった。古川が自室から外に出るにはホールを通らねばならないが、そこにはずっと森と三田村がおり、彼らは、誰も通らなかったと証言したのだ。ならばと古川の自室を調べてみれば、窓は人間が通り抜けるにはやや小さすぎる上に、内側から施錠されている。窓から逃げ出すこともできないとなると、いったいどのように姿を消したのか。ともかくこの嵐の夜である。屋敷周辺で、古川が潜んでいそうな場所は限定されるだろうと、正木は屋敷の外へ捜索に向かう。

その騒動も一段落した頃、地下室への階段部屋の扉が半開きになっているのを不審に感じた執事・倉本が室内に入ると、そこには紛失したあの絵画があったのだ。報告しようと、紀一の部屋へと向かう倉本。不意に背後から襲撃され、意識を失う。

意識を取り戻した倉本は、紀一の妻・由里絵から、窓の外に人影を目撃したという話を聞く。さては古川が自分を殴り倒して逃げたに違いないと激昂する倉本だが、ふと気づけば、煙突から煙が上がっていた。その煙突は地下室の焼却炉から伸びるものである。そう言えば、絵画は地下への入り口に置かれていたのだ。そこには何か繋がりがあると、屋敷に居る者、皆を集めて、階段部屋に入ったが、問題の絵画は既に消え失せていた。

ともかく地下へと向かう一同。焼却炉の中からは、身元の判定ができぬほど激しく焼け爛れた死体が発見された。しかもそれは、頭、胴、両腕、両脚、六つに分割されており、さらに左腕からは薬指が欠損していた。指は火掻き棒の傍に落ちていた。指の指輪の跡、そして後に警察の鑑定により、これは正木のものと断定された。そして古川の行方は、杳として知れなかった。


その事件から一年が経ち、また一成の命日がやって来た。一人欠けたが、また恒例の来訪者を水車館が迎える日である。その日、島田潔という人物もこの屋敷を訪れた。屋敷の主としては、当初はもちろん追い返すつもりであった。しかし彼の話を聞くうちに、なんとなく彼の来訪を受け入れてしまった。

そして、またもや殺人事件が起きた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



“現在”の物語の中に“過去”が挿入され、両者が同時進行で進んでいく構成で、“現在”編では、探偵・島田潔が“水車館”を訪れ、“過去”と“現在”、二つの事件の真相を解明する。

外の世界を知らぬまま成長した美貌の幼妻、その彼女を娶った車椅子の仮面の富豪、彼らが隠遁する奇妙な屋敷で起こるバラバラ殺人事件、さらには不可能状況という設定だけでも嬉しくなってしまう読者もそれなりに多かろうw このシリーズでは、秘密の仕掛けが施された、からくり屋敷が毎回登場するが、事件の謎はそれに頼ったものではないところがポイント。「密室殺人だ!」「実は秘密の抜け穴があり、ここから犯人は脱出したのです!」じゃ、興醒めだもんね。ノックス神父も本作をアンフェアとは言うまいw

前作もそうだったが、本作でも探偵・島田潔はきっちり事件を調べ上げ、その謎の真相に到達しているにもかかわらず、なんとなく事件への関わりの薄さを感じさせ、どこか傍観者のような雰囲気がある。それは物語の大部分が島田不在で進行するためだろう。彼の存在とは無関係に謎が解かれたかのような印象すらある。わずかな行動で事件の真相を見抜く、「コスパの高い探偵」と言えるかも知れないw

犯行計画は二つの目的を同時に達成できるアイデアだったが、それによって、犯人は大きなジレンマを抱えてしまう。犯人は、望みのものを得ることに成功するも、その代償として、大切なものが失われていくのを知りつつも、それを傍観することしかできなくなってしまった。そして、まさしく因果は巡るという状況となってしまう…。

使用人たちの設定が重要なデータとなってるのは、上手いね~。



(1) “過去”。家政婦・文江、バルコニーから川へ転落。流され溺死。バルコニーに不具合あり。ちょうどそのとき、古川がタクシーで水車館に到着。
(2) 深夜。北回廊の絵画が一枚紛失。勝手口が開放されている。古川、失踪。
(3) 古川の部屋は二階にある。窓は頭を出せる程度の大きさで、人間が通り抜けることはまず不可能。さらに内側から施錠されていた。外部に出るには階段を下り、ホールを抜けねばならないが、ホールには森と三田村が居た。彼らは古川の姿を見ていない。
(4) 正木、古川捜索のために館の外へ出る。
(5) 執事・倉本、廊下の濡れた足跡を追い、地下への階段部屋の扉が閉じていないことに気づく。中に入ると、そこに紛失した絵画が置かれているのを見る。紀一への報告に向かう途中で背後から襲撃され、気絶。
(6) 紀一、拘束された倉本を、食堂にて発見。何があったのか訊き出すと、すぐに由里絵の様子を見に行く。
(7) 由里絵、怯えた様子。窓の外に、森へと向かう人影を見たと言う。
(8) 紀一、地下室の焼却炉から伸びる煙突から煙が出ているのを見る。倉本が見た絵画のこともあり、地下室へと向かう。絵画はそこになかった。
(9) 地下室。火掻き棒の傍に切断された指。指輪の跡からして、正木のものである可能性が高い。焼却炉の中には、頭、胴、両腕、両脚、六つに切断され、焼け爛れた人間の死体。左腕は薬指が欠けている。
(10) 焼却炉に放り込まれた死体の損傷は激しく、人物特定は困難だったものの、左薬指から、死体の主は正木と断定された。犯行経過は以下のように推定された。絵画を盗難した古川が、自身を追ってきた正木を殺害し、その死体を切断、焼却して証拠隠滅を図った。その際、高価な指輪を奪うために、正木の指を切断した。被害者・正木は、別件での強盗殺人未遂の重要参考人であることも判明。逃亡したと見られる古川の行方は不明。
(11) “現在”。家政婦・朋子、焼却炉のある地下室に異臭を感じる。
(12) 紀一の自室前にメッセージが書かれた紙片。「出ていけ。この家を、出ていけ」
(13) 廊下に朋子の死体。由里絵の自室内に三田村の死体。どちらも他殺。三田村の死体は右手で左手の指輪を握っている。
(14) 秘密の地下室発見。中には古い死体が一つ。
館シリーズの長編第1作。建築家・中村青司が命を落とす惨劇の舞台となった無人島・角島に建つ、“十角館”で起こる連続殺人事件。滞在する七名の関係者のもとへ届いた謎の手紙。「お前たちが殺した千織は、私の娘だった」 千織は、十角館を作った青司の娘である。[???]

[十角館に滞在する、K**大学・推理小説研究会の面々]
エラリイ
カー
ルルウ
ポウ
アガサ
オルツィ
ヴァン

[推理小説研究会会員及び元会員]
江南孝明(かわみなみたかあき):推理小説研究会の元会員, 在籍時の呼び名は“ドイル”
守須恭一(もりすきょういち):推理小説研究会会員
中村千織(なかむらちおり):推理小説研究会の元会員, 青司の娘, 故人
東一(ひがしはじめ):推理小説研究会会員

[青屋敷事件の当事者]
中村青司(なかむらせいじ):建築家
和枝(かずえ):青司の妻, 旧姓・花房
北村(きたむら):使用人夫婦
吉川誠一(よしかわせいいち):庭師

[その関係者]
紅次郎(こうじろう):青司の弟
政子(まさこ):吉川誠一の妻

[その他]
島田潔(しまだきよし):寺の三男坊



K**大学・推理小説研究会のメンバーの一人である“ヴァン”の伯父のつてによって、彼を含めた七名は、無人島・角島に建つ“十角館”で合宿することになった。これは天才肌の建築家・中村青司の作であり、もう一つの彼の作である“青屋敷”の別館である。その青屋敷は、かつてのある事件の際に焼け落ちている。その事件とは、青司とその妻・和枝に加え、使用人夫婦も死亡し、庭師・吉川誠一は失踪、屋敷は焼失という凄まじいもの。和枝の左手が切断され失われていたというのも、この事件の謎めいた要素の一つであった。

そんな惨劇の地は、推理小説研究会などという連中の合宿の場には、いかにも相応しい。期間はほぼ一週間。迎えのボートが来るまでは、外部との連絡手段もない島に閉じ込められることとなる。その状況もまた彼らに相応しいものだ。

二日目の朝に異変があった。中央ホールのテーブルに、前夜にはなかった七枚のプラスティック板が置かれていたのである。それぞれに、「第一の被害者」「第二の被害者」「第三の被害者」「第四の被害者」「最後の被害者」「探偵」「殺人犯人」と書かれている。彼らは当然連想した。これはアガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」などでお馴染みの、“嵐の孤島”での連続殺人のお膳立てだ。この中の誰かのちょっとした悪戯のようでありつつも、そこには不安を感じさせるものがあった。

三日目の朝、やはり事件は起きた。“オルツィ”が絞殺されていたのである。その部屋の扉に貼られた板には、「第一の被害者」とあった。そしてその夜、今度は“カー”が毒殺される。翌朝には、彼の部屋の前に「第二の被害者」の板が貼り付けられていた。彼らの死体からは左手が失われていた。

五日目、“ルルウ”と“アガサ”が死亡。ルルウはなぜか一人で屋外に出て、海に面した岩場へと向かい、戻ってきたところを殺されたらしい。現場には犯人のものと思われる往復の足跡が、岩場のほうへと続いていた。“エラリイ”は、島を出入りする外部犯の可能性に思い当たる。

十角館に滞在する七名のうち、生き残ったのは、今やヴァンとエラリイ、そして“ポウ”の三名だけであった。犯人は外部犯なのか、それとも――


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



綾辻行人のデビュー作。天才肌の建築家・中村青司作の奇妙な屋敷を舞台とする“館シリーズ”の第一作でもある。当初はシリーズ化のことはあまり考えていなかったらしく、探偵役として登場する“島田潔”の命名については、安易過ぎたと後悔したという。

本作を含め、彼の基本的な作風はフェアプレイの論理パズル風ではあるが、それよりも叙述トリックに重きを置いたもの。

孤島に閉じこめられた七人が、奇妙な屋敷にて次々と命を落とし、殺人者の影に怯えるという、あざといほどにベタな設定の物語。だが、それが良いw 本作は、状況の割にサスペンスは少々弱いが、その分、推理に集中しよう。

一応のエクスキューズはされているものの、作中の犯行計画に必然性はあまり感じられない。被害者たちが恐怖を味わって、罪の重さを感じるようにさせたいだけなら、睡眠薬でも飲ませて拘束し、徐々に殺害していくだけでも充分だろう。犯人がミステリ好きゆえの計画と納得するしかないw

印象深いのは、何をさておいても第十章の最後の1行。その、たった数文字で世界がひっくり返るのである。登場人物たちが妙なニックネームで呼び合い、江南孝明のことを「コナン」と呼ぶという稚戯に、「厨二病も甚だしい」と苦笑するのみだった無邪気な読者は、それこそが読者に仕掛けられたトリック、木を隠す森であったと気づき、驚愕するしかない。このトリックは、ミステリのまったくの初心者よりも、古典的名作を既にある程度読んだ者に対して、より効果が高いものであると思われる。



(1) 一日目・島。K**大学・推理小説研究会の七名が、無人島・角島に建つ、通称“十角館”を訪れる。六日後に迎えのボートが来るまでは、島に閉じ込められるということである。十角館は、通称“青屋敷”の別館。この二つの建築物は、ともに天才建築家・中村青司によって建てられたものであり、彼自身の邸宅として使用された。しかし青屋敷は、青司が命を落とすことになった凄惨な事件の際に焼失している。その事件とは、青司とその妻・和枝、使用人夫婦と見られる四名が殺害され、庭師・吉川誠一が行方不明になったというものである。
(2) その十角館に滞在できることとなったのは、推理小説研究会のメンバーであるヴァンの伯父のつて。当人のヴァンは体調不良のため、一足先に自室へと下がる。
(3) 一日目・本土。中村青司の名で、江南孝明に手紙が届く。「お前たちが殺した千織は、私の娘だった」 千織は江南が途中退席した三次会で、急性アルコール中毒となり、死んでいる。
(4) 江南、東宅に電話、彼は既に角島に行ってしまい不在だったが、家族から、彼にも同様の手紙が届いていることを訊き出す。三次会に居合わせた他のメンバーにも電話するも、皆不在で確認できず。
(5) 青司の弟・紅次郎宅を訪問。彼らにも同様の手紙が届いていることを知る。紅次郎の友人・島田潔と知り合う。島田、江南を「かわみなみ」ではなく「こなん」と呼ぶことにする。推理小説研究会在籍時の江南は呼び名は、コナン・ドイルから取った「ドイル」で、当時からの友人は、未だにそう呼ぶことも多いらしい。
(6) 江南、帰宅した守須と連絡を取る。彼にも手紙が届いていることを確認する。
(7) 島田、江南、守須、集合し、手紙の謎と、“青屋敷”の事件について語り合う。江南、事件調査に乗り気。
(8) 二日目・島。十角館のホールのテーブルに、七枚のプラスティック板。「被害者」が五枚、「探偵」「殺人犯人」がそれぞれ一枚ずつ。ホールに集まった七名は、皆が自身の関与を否定。エラリイ、それを食器棚の抽斗にしまう。
(9) ヴァン、依然として体調不良。微熱を示す。
(10) 二日目・本土。島田、江南、青屋敷事件の際に失踪した吉川誠一の妻・政子と面会。午後9時過ぎに紅次郎宅を訪問するも留守。守須を訪ね、三名で“青屋敷”事件や手紙の謎について語り合う。守須、他人の心に踏み込むことに良心の咎めを感じると、事件調査から降りる。
(11) 三日目・島。アガサ、オルツィの部屋の扉に「第一の被害者」の板が貼られているのを見て、悲鳴を上げる。皆が自室から出てくる。ポウ、オルツィの部屋に入り、ベッドの上に横たわる彼女に駆け寄り、その姿を見ると、他の者の接近を制す。彼女の身体を調べた後、部屋を出るように皆に促す。彼女は絞殺されたと告げる。現場保存のため、部屋を閉ざす。
(12) ポウ、死体の状況について、皆に語る。首にはナイロン紐、激しく抵抗した形跡なし、死体の姿は整えられていた、左手首の先が切断され持ち去られている。
(13) 島を探索するも、やはり外部と連絡を取ることは困難と知る。探索中のルルウ、何か引っ掛かるものを見た記憶があると感じるが、それが何なのか思い出せない。中村青司生存・潜伏・犯人説が提起される。
(14) アガサ、カップに入れたコーヒーを用意する。砂糖とミルクは各自にお任せ。各々がそれを手に取り、飲み始める。カー、呻き声を上げて倒れる。ポウ、服毒と推測し、その場で可能な処置を取るも、数時間後、カーは死んだ。毒を盛る機会は誰にでもあると結論。
(15) 三日目・本土。島田、江南、青屋敷事件の調査継続。青司は生存していて島に潜伏し、どこかに隠してあるボートで食料などを調達してるのではと、島田は語る。
(16) 四日目・島。カーの部屋の扉に、「第二の被害者」の板。浴槽には、カーの左手首。
(17) 青屋敷を探索、地下室を発見。入り口の足元にはテグスが張られ、エラリイは転倒し、負傷。内部には清掃されたような痕跡。テグスはポウの持ち物と判明。
(18) 四日目・本土。島田、千織の父は紅次郎なのではないか、青司から和枝の左手首が送られてきたのではと、彼を追及。紅次郎、左手首の行方について認める。青屋敷事件の真相については、青司の無理心中という線で、ほぼ解明される。
(19) 守須、江南を訪ね、紅次郎との面会の結果を知る。
(20) 五日目。ルルウ、記憶に引っ掛かっていたものの正体に気づき、部屋を出る。
(21) アガサ、心身ともに疲れ果てていた。化粧は一段明るめにする。
(22) ヴァン、洗面所の扉が半開きであることに気づき、様子を見に行く。アガサの死体を発見。口紅に毒。
(23) エラリイ、ポウ、騒ぎに気づく。アガサの死体だけでなく、ルルウの部屋の扉に「第三の被害者」とあるのを見る。部屋の中にルルウの姿はない。エラリイ、ポウ、ヴァンを玄関に残し、ルルウ捜索に出る。
(24) 青屋敷跡にルルウの撲殺死体を発見。死体の周辺には岩場のほうへと続く足跡。一つはルルウのものと思われる、こちらに向かうもの。そしてあと二つ、何者かの往復の足跡。エラリイ、近くの“猫島”に潜む犯人が、この島と行き来しているという推理を披露する。
(25) ポウ、死亡。煙草に毒。
(26) 十角館の秘密の地下室を発見。中には、既に半ば白骨化した死体。
(27) 十角館炎上。エラリイは焼死。
Mは妻を殺害し、保険金を得ることにも成功したが、正体不明の恐喝者によって、その身の安全を脅かされる。そして、Mについての記事が週刊誌に掲載に至っては、もはや一刻の猶予もない。早く恐喝者の正体を暴いて、抹殺しなければならない。その記事を読んだ麻里は怯えた。そこに書かれたMの人物像があまりにも自分の夫・水島康一郎を思わせるものだったからである。[?]

M:殺人者
美登里:Mの最初の妻
高野由紀:Mの愛人
片山春美:由紀の元同僚
並木清:由紀の元恋人
水島康一郎:株式情報会社社長
小島麻里:水島康一郎の妻
柴田ひとみ:麻里の元同僚
望月慎也:水島康一郎の元同級生
望月博子:望月慎也の妻
目加田哲男:ルポライター
水島敏子:康一郎の母
水島昭次:康一郎の弟
水島光恵:康一郎の妹



Mは妻・美登里の殺害を目論んでいた。別に愛人がおり、妻と縁を切りたいというのもその理由の一つだが、金銭的な理由もあった。彼の会社の経営状態はあまり良くないのだ。妻が死ねば、五千万円の保険金が入る。

Mは妻に毒を盛り続けていたのだが、彼女はなかなかしぶとかった。彼は薬物に関してはまったくの素人であり、その精度がいまいちというせいもある。しかし長く研究しているうちに、自然にそれなりのものも作れるようになった。これなら確実に死ぬだろうというものができたが、どうせなら自分にはアリバイを作って、別人に実行させたほうがなお良いと、Mは考えた。

美登里は死んだ。Mの愛人・由紀が毒を盛ったのである。これでMと結婚できると思う由紀だったが、ある日、彼は浮かぬ顔で彼女に告げる。美登里の死に警察が不審を抱き、死体が解剖されることになったという。もはやこれまでと、Mは由紀に心中を提案する。由紀はそれを受け入れるが、死んだのは彼女一人だけ。Mは生き残った。最初からMには死ぬつもりなどなかったのだ。愛人が彼の妻を邪魔と考えて殺害するというのは、Mの体面も悪いが仕方ない。その程度の苦労は受け入れなければならない。Mは知っていた。由紀が身籠った子は、自分との間にできた子ではないと。Mは彼自身も浮気の身でありながら、彼女の浮気は決して赦せなかったのである。


保険金も入り、経済的に余裕もできたMは、何食わぬ顔で日常に戻っていたが、匿名の電話の相手から恐喝される。美登里の死の真相を嗅ぎ付けたらしい。聞き覚えのある、その声の主の正体を早く掴まねば、Mの身の破滅である。

Mについての疑惑に関する記事が、週刊誌に掲載された。それを読んだ麻里は愕然とした。まさかこれは自分の夫である、水島康一郎についてのものなのではと。夫には秘密主義なところがあり、仕事部屋には麻里を入れさせないし、過去についても多くを語ろうとしない。体調を崩し、夫から栄養剤と称される薬を渡されるに至っては、もはや疑惑は決して拭い去れないものとなっていた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



パズラーではない。冒頭では、謎の人物・Mの犯罪が描かれ、そのMの正体を探る物語であることはすぐに窺えるが、その後、Mを恐喝する者が登場することにより、同時に恐喝者の正体を探るものであることもわかる。一筋縄ではいかないサスペンス・ストーリーで、恐怖に怯えるのは、夫に不審を抱く麻里だけではなく、恐喝に晒されるMもまた同様なのだ。もっとも、登場人物が少なく、条件に該当する人物がかなり限定されてしまうので、Mの正体が明かされた際のインパクトは弱い。

作者・折原一は叙述トリックや、二転三転のどんでん返しがトレードマークなので、当然本作のストーリー展開も捻りが効いている。Mの正体が暴かれるまでだけでも一つの物語として成立するのだが、その後の展開が超展開というか、あるいは無茶苦茶というかw 麻里の夫・水島康一郎が失踪し、彼女の家には彼の家族が押し掛ける。彼らはすっかり住み着いてしまい、監禁された麻里は次第に弱っていく…。これはおそらく、ヒュー・ウォルポール作「銀の仮面」をモチーフにしたのだろう。何せ作者は本格物ミステリをパロったりしていることだし、これも一種のパロディと見てもいい。(そういや、「銀の仮面」のプロットは荒木飛呂彦作「魔少年ビーティー」の一エピソードにも用いられたなぁ。「ジョジョ」で使われたのは石仮面だったがw)

全体的な整合性はいまいちというか、どうも展開が米国のTVドラマシリーズ「24 -TWENTY FOUR-」的な印象。話をその場の勢いで転がし過ぎて、最初と最後ではすっかり別の話みたいな、登場人物の性格設定も別人みたいなw 折原作品の多くは複雑な構造ながらも、カッチリと組み立てられてる印象があるけど、本作についてはツギハギっぽい。水島の失踪の経緯もまったく不明だし、細かい部分まで詰めたようでもない。

作風が読者を誤解させることに重点を置いたものであるとしても、まったく同じようなキャリアを重ねる水島と望月の設定は、作為的に過ぎるかなぁ。行動パターンまで似通い過ぎ。

裏表紙には「鬼才折原一と劇中のM氏が企む完全犯罪」とあるが、作品の出来はともかくとしても、作中でのMのよる犯行は、完全犯罪を狙うにしては、かなり雑なもの。



① M、保険金を狙って妻の殺害を計画する。
② 病気がちな美登里、夫に勧められた栄養剤を飲んでいる。体調はなかなか回復しない。
③ 由紀、妊娠。愛人・Mから彼の妻の殺害を持ち掛けられ、実行する。
④ M、心中する振りをして由紀を殺害。
⑤ 麻里、水島と出逢い、結婚。水島には秘密の影。水島の同窓会の通知ハガキを本人はそのまま捨てたが、麻里はこっそり欠席に印を付け返信する。少しでも夫の情報を知りたいと、軽い気持ちで行なったことだが、それをきっかけに水島の元同窓生である幹事の望月から連絡が入るようになってしまい、それを水島に知られたくない麻里は、困った事態に陥ってしまう。それを適当に誤魔化すため、そして水島の情報を得るため、麻里は望月と面会するようになる。
⑥ M、匿名の人物から恐喝される。前妻の殺害の件に直接関わっていることを嗅ぎ付けたのだという。殺害を断固否定し、突っぱねたものの、相手が手を引く気配なし。相手の声が聞き覚えのあるものと気づく。
⑦ 麻里、匿名の相手からの電話で、水島の前妻の死についての疑惑を仄めかされる。入室を禁じられている水島の仕事部屋に入る。トリカブトについての記述のコピーを見つける。
⑧ M、目加田というフリーライターから、前妻の死についての取材を受ける。週刊誌に「M氏」についての疑惑を書き立てた記事が載る。Mは焦る。
⑨ 麻里、「M氏」についての記事を読む。否定したいと思いつつも、「M氏」とは水島のことではないかという疑惑が拭いきれない。
⑩ M、再び恐喝電話を受ける。Mには子種がなく、だからこそ、由紀が身籠った子が自分との間にできた子ではなく、別の相手と浮気した結果と悟り、彼女も殺害するに至ったのだと指摘される。Mは折れる。しかしすんなりカネを渡すつもりなどない。この手合いの要求には際限がないことは、充分にわかっていたから。とにかく相手の正体を掴むことが肝要であり、そしてMと深く関わる者が情報を流していることも確実なのだ。Mは妻への疑惑を持ち始めた。
⑪ 麻里、体調が優れず、水島から栄養剤を与えられる。それを望月に渡し、分析を依頼する。
⑫ M、自室に誰かが入ったのを確信する。妻への疑惑はほぼ確かめられた。恐喝者と妻を、両者の心中という形で片付けることにする。
⑬ 麻里、水島とともに信州で静養することになる。望月に依頼した薬の分析結果を得る。トリカブト毒が検出されたという。この旅行は、水島による麻里殺害の罠と確信。望月と相談した結果、その罠に乗った振りをして、犯罪の証拠を掴むという罠を逆に仕掛けることにする。
⑭ 麻里、間一髪、水島の魔の手から逃れたと思いきや、Mの正体は望月と判明。水島は恐喝者だった。水島からの栄養剤にトリカブト毒が検出されたというのはまったくの嘘で、実際には分析すらしていないという。望月は麻里を人質に取り、勝ち誇るが、一瞬の隙を突かれ、転落死する。その死は事故死とされる。
⑮ 麻里の妊娠が判明。
⑯ 麻里、望月の妻・博子の訪問を受ける。望月の犯罪が明らかになったので、警察は彼の持ち物を証拠物件として調べたのだが、その際、水島からの栄養剤もその中の一つに紛れ込んだ。すると、そこからトリカブト毒が検出されたのだ。つまり、Mの正体は望月であるが、水島もまた麻里の命を狙う殺人者ということになる。その薬は麻里が望月に渡したものであることを、博子は麻里に認めさせようとするが、自分と望月との関わりを認めると、望月殺害が明るみに出る恐れがあるため、断固否定する。麻里、博子もまた妊娠していることを知る。
⑰ 水島が失踪する。麻里、水島に望月の情報を流していたのは博子ではないかと気づき、その二人の浮気を疑う。博子を訪ねる。
⑱ 麻里、博子の子は、水島との間にできた子であることを確信する。Mすなわち望月には子種がないのだ。彼女の妊娠を知った水島が彼女を殺害し、その死体を望月が転落死した杖突峠に捨てても不思議はない。麻里、到着した杖突峠で、水島を思う。
⑲ 麻里、警察に水島の失踪を知らせることは避けたい。博子と駆け落ちされたなどと見られるのも嫌。水島の実家に連絡すると、彼の母と弟と妹の三名がやって来る。彼らは麻里の家に住み着き、段々と図々しく振るまい始める。
⑳ 麻里、体調がどんどん悪くなる。彼の家族は麻里の死亡保険金を狙っていると確信。水島とは似ても似つかぬ見知らぬ男がやって来る。彼の家族たちは、その人物こそ水島と言い張る。麻里はほとんど監禁状態で、精神的にも肉体的にも限界が近づいている。