館シリーズの長編第2作。“水車館”と呼ばれる風変わりな屋敷内での事件。家政婦の転落死。絵画盗難。容疑者の失踪。焼かれたバラバラ死体。“過去”の事件が語られる中、“現在”の事件も発生する。屋敷の主は車椅子に乗る仮面の男。その妻は美少女と呼ぶのが相応しい、幼き容貌の娘。[???]

[水車館の住人や雇人]
藤沼一成(ふじぬまいっせい):故人, 画家
藤沼紀一(きいち):一成の息子, 事故による傷跡を隠すため仮面を被る
藤沼由里絵(ゆりえ):紀一の妻, 一成の弟子・柴垣浩一郎(故人)の娘
正木慎吾(まさきしんご):紀一の友人
倉本庄司(くらもとしょうじ):執事
根岸文江(ねぎしふみえ):“過去”の住み込みの家政婦
野沢朋子(のざわともこ):“現在”の通いの家政婦

[水車館の来訪者]
大石源造(おおいしげんぞう):美術商
森滋彦(もりしげひこ):M**大学・美術史教授
三田村則之(みたむらのりゆき):外科病院の院長
古川恒仁(ふるかわつねひと):藤沼家の菩提寺の副住職

島田潔(しまだきよし)



藤沼紀一は自らの引き起こした交通事故によって大きな怪我を負い、仮面を被り、車椅子の上での生活を送ることとなった。それをきっかけとして、既に実業家として巨万の富を築いていた彼は、風変わりな屋敷、“水車館”を建て、移り住み、ほとんど外部との接触を拒むようになった。そんな彼にとって唯一の例外と言えるのが、年に1回、父・一成の命日である。その日だけは大石源造、森滋彦、三田村則之、古川恒仁の四名が屋敷を訪れるのであった。彼らと紀一やその亡父とは、古くからの関係があり、無下に断るわけにもいかず、このような慣例となってしまったのだ。

事件が起きたのは1985年9月28日で、一成の命日。彼らが水車館を来訪する、毎年恒例の日だった。その始まりは家政婦・文江の事故だろうか。古川がタクシーで到着するほんの少し前に、バルコニーから川に転落したと思われる彼女は、そのまま川を流れていった。外は激しい雷雨で、川の流れは速い。とても助けられる状況ではなかった。後に溺死と判明する。

その夜、北回廊に飾られた絵画が一枚紛失する。屋敷内は騒然とし、皆が集まる中、古川だけが姿を現さなかった。当然彼に疑惑の目が向く。しかし非常に不可解な点があった。古川が自室から外に出るにはホールを通らねばならないが、そこにはずっと森と三田村がおり、彼らは、誰も通らなかったと証言したのだ。ならばと古川の自室を調べてみれば、窓は人間が通り抜けるにはやや小さすぎる上に、内側から施錠されている。窓から逃げ出すこともできないとなると、いったいどのように姿を消したのか。ともかくこの嵐の夜である。屋敷周辺で、古川が潜んでいそうな場所は限定されるだろうと、正木は屋敷の外へ捜索に向かう。

その騒動も一段落した頃、地下室への階段部屋の扉が半開きになっているのを不審に感じた執事・倉本が室内に入ると、そこには紛失したあの絵画があったのだ。報告しようと、紀一の部屋へと向かう倉本。不意に背後から襲撃され、意識を失う。

意識を取り戻した倉本は、紀一の妻・由里絵から、窓の外に人影を目撃したという話を聞く。さては古川が自分を殴り倒して逃げたに違いないと激昂する倉本だが、ふと気づけば、煙突から煙が上がっていた。その煙突は地下室の焼却炉から伸びるものである。そう言えば、絵画は地下への入り口に置かれていたのだ。そこには何か繋がりがあると、屋敷に居る者、皆を集めて、階段部屋に入ったが、問題の絵画は既に消え失せていた。

ともかく地下へと向かう一同。焼却炉の中からは、身元の判定ができぬほど激しく焼け爛れた死体が発見された。しかもそれは、頭、胴、両腕、両脚、六つに分割されており、さらに左腕からは薬指が欠損していた。指は火掻き棒の傍に落ちていた。指の指輪の跡、そして後に警察の鑑定により、これは正木のものと断定された。そして古川の行方は、杳として知れなかった。


その事件から一年が経ち、また一成の命日がやって来た。一人欠けたが、また恒例の来訪者を水車館が迎える日である。その日、島田潔という人物もこの屋敷を訪れた。屋敷の主としては、当初はもちろん追い返すつもりであった。しかし彼の話を聞くうちに、なんとなく彼の来訪を受け入れてしまった。

そして、またもや殺人事件が起きた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



“現在”の物語の中に“過去”が挿入され、両者が同時進行で進んでいく構成で、“現在”編では、探偵・島田潔が“水車館”を訪れ、“過去”と“現在”、二つの事件の真相を解明する。

外の世界を知らぬまま成長した美貌の幼妻、その彼女を娶った車椅子の仮面の富豪、彼らが隠遁する奇妙な屋敷で起こるバラバラ殺人事件、さらには不可能状況という設定だけでも嬉しくなってしまう読者もそれなりに多かろうw このシリーズでは、秘密の仕掛けが施された、からくり屋敷が毎回登場するが、事件の謎はそれに頼ったものではないところがポイント。「密室殺人だ!」「実は秘密の抜け穴があり、ここから犯人は脱出したのです!」じゃ、興醒めだもんね。ノックス神父も本作をアンフェアとは言うまいw

前作もそうだったが、本作でも探偵・島田潔はきっちり事件を調べ上げ、その謎の真相に到達しているにもかかわらず、なんとなく事件への関わりの薄さを感じさせ、どこか傍観者のような雰囲気がある。それは物語の大部分が島田不在で進行するためだろう。彼の存在とは無関係に謎が解かれたかのような印象すらある。わずかな行動で事件の真相を見抜く、「コスパの高い探偵」と言えるかも知れないw

犯行計画は二つの目的を同時に達成できるアイデアだったが、それによって、犯人は大きなジレンマを抱えてしまう。犯人は、望みのものを得ることに成功するも、その代償として、大切なものが失われていくのを知りつつも、それを傍観することしかできなくなってしまった。そして、まさしく因果は巡るという状況となってしまう…。

使用人たちの設定が重要なデータとなってるのは、上手いね~。



(1) “過去”。家政婦・文江、バルコニーから川へ転落。流され溺死。バルコニーに不具合あり。ちょうどそのとき、古川がタクシーで水車館に到着。
(2) 深夜。北回廊の絵画が一枚紛失。勝手口が開放されている。古川、失踪。
(3) 古川の部屋は二階にある。窓は頭を出せる程度の大きさで、人間が通り抜けることはまず不可能。さらに内側から施錠されていた。外部に出るには階段を下り、ホールを抜けねばならないが、ホールには森と三田村が居た。彼らは古川の姿を見ていない。
(4) 正木、古川捜索のために館の外へ出る。
(5) 執事・倉本、廊下の濡れた足跡を追い、地下への階段部屋の扉が閉じていないことに気づく。中に入ると、そこに紛失した絵画が置かれているのを見る。紀一への報告に向かう途中で背後から襲撃され、気絶。
(6) 紀一、拘束された倉本を、食堂にて発見。何があったのか訊き出すと、すぐに由里絵の様子を見に行く。
(7) 由里絵、怯えた様子。窓の外に、森へと向かう人影を見たと言う。
(8) 紀一、地下室の焼却炉から伸びる煙突から煙が出ているのを見る。倉本が見た絵画のこともあり、地下室へと向かう。絵画はそこになかった。
(9) 地下室。火掻き棒の傍に切断された指。指輪の跡からして、正木のものである可能性が高い。焼却炉の中には、頭、胴、両腕、両脚、六つに切断され、焼け爛れた人間の死体。左腕は薬指が欠けている。
(10) 焼却炉に放り込まれた死体の損傷は激しく、人物特定は困難だったものの、左薬指から、死体の主は正木と断定された。犯行経過は以下のように推定された。絵画を盗難した古川が、自身を追ってきた正木を殺害し、その死体を切断、焼却して証拠隠滅を図った。その際、高価な指輪を奪うために、正木の指を切断した。被害者・正木は、別件での強盗殺人未遂の重要参考人であることも判明。逃亡したと見られる古川の行方は不明。
(11) “現在”。家政婦・朋子、焼却炉のある地下室に異臭を感じる。
(12) 紀一の自室前にメッセージが書かれた紙片。「出ていけ。この家を、出ていけ」
(13) 廊下に朋子の死体。由里絵の自室内に三田村の死体。どちらも他殺。三田村の死体は右手で左手の指輪を握っている。
(14) 秘密の地下室発見。中には古い死体が一つ。