モース警部シリーズの長編第3作。殺された聴覚障害者。[???]

ニコラス・クイン:海外学力検定試験委員会の審議員
トム・バートレット:同事務局長
フィリップ・オグルビー:同事務局長代理
モニカ・ハイト:同審議員
ドナルド・マーチン:同
クリストファー・ループ:同委員
ジョージ・ブランド:元審議員
チャールズ・ノークス:同管理人
アーメッド・デュバル:アルジャマラ首長国の族長
リチャード・バートレット:トムの息子
エバンズ夫人:クインの家政婦
フランク・グリーナウェイ:クインの隣人
ジョイス・グリーナウェイ:同
ジャーディン夫人:アパートの家主
マーガレット・フリーマン:クインの秘書
ストレンジ:主任警視
ルイス:部長刑事
モース警部:主任警部



事務局長のトム・バートレットと委員のクリストファー・ループがお互いに反目し合っているのは、海外学力検定試験委員会の誰の目にも明らかに見えた。だからループがクインを推したのは、あるいはバートレットに対する当て付けだったのかもしれない。そんな経緯はともかく、耳に障害を抱えるニコラス・クインが新たな審議員として選出された。

クインは電話対応などには不安を抱えるものの、己の能力には自信を持っており、やる気に満ち溢れ、彼の前途は洋々に思えた。


来訪したアルジャマラ首長国の一団とのお別れパーティーの席で、クインはしばしの休息を取っていた。少し酒を飲み過ぎたせいだろう。まだ多くの人々が語り合っている。クインは彼らの口元を眺めた。たとえそれが小さな囁きであったとしても、読唇術で読み取った言葉は、彼の頭の中では大声で叫んでいるのと同様に“聞き取れる”。これは彼の密かな楽しみだった。


11月25日、火曜日。ニコラス・クインは自宅で死んでいた。毒物によるものだった。月曜に職場に現れなかった彼の様子を見に来た同僚が死体を発見した。そのときに死後72から120時間が経過していたと、後に判断された。モース警部はとりあえずその中間、94時間が死後経過時間、死亡時刻を金曜日の正午前後と推定した。

しかし関係者の証言を集めるに連れ、次第に死亡推定時刻がどんどん後ろにずれ込んでしまい、クインがいつ殺されたのか、モースは断定しかねるのだった。そしてなぜクインが殺されたのかということも、依然として謎だった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



モースが仮説から推論を導き出し、その誤りが判明して新たな推論を構築するパターンは当然今回も不変。一般(あくまでもミステリ・ファンの中での一般)的にはこのシリーズは最初の2作が代表的な作品で、(本作を含む)それ以降の作品の評価はやや低め。

コリン・デクスターの作品は元々特異な強い個性を持つスタイルゆえ、マンネリズムを避けるのは却って難しいだろう。初期2作では筆の勢いに自然に任せて書けば良かったのが、そろそろ意図的に変化を付けようとしたり、作品のクオリティ以外の部分まで考えざるを得なくなってきたのかもしれない。(高い評価を得た絵師がキャラクターのパターンを使い果たし、無理矢理に変化を付け、魅力のないキャラを描くようになるのと同様か)

また、このシリーズは“解決編”が複数存在するような構成なので、最後の解決が最も素晴らしいとは限らず、やや尻すぼみとなりがち。それが目立つようになってきたのだろうか。

本作の中心となっている謎は、クインがいつ殺されたのかということ。関係者の証言を集めていくうちに死亡推定時刻がどんどん後ろにずれ込んでしまうが、モースは自身の(乱暴な)推定に事実を合わせるがごとく証言を崩してゆき、ついに真の死亡時刻を暴く。しかし結局のところ、それによって容疑者がさほど絞られたわけではなく(裁判の材料としては重要だろうが)、せいぜい委員会内部の人物と限定された程度のものでしかない気も…。

ある人物を逮捕させたモースは、それまでさほど気に懸けていなかった点に唐突に重要な事実を見出し、誤った推理を最終結論とする難から危うく逃れたのであった。



[プレリュード] 海外学力検定試験委員会の新たな審議員の選考。バートレット事務局長はニコラス・クインの聴力に難があることを問題視するが、ループ委員の演説が決め手となり、投票によってクインが選出される。
[なぜ? 1] 委員会メンバーによる夕食会の後、クインがモニカの部屋を訪れるが、彼女は留守。「3時に帰ります」というメモが机の上に置かれている。委員会におけるバートレットの方針は、外出は自由だが、その居場所を彼にわかるようにしておかねばならない。
[2] クインは面と向かっての会話は読唇術でなんとかなるが、電話は苦手。マーチンとモニカは男女の関係。しかし妻帯者であるマーチンの誘いに対してモニカは距離を取り始めている。
[3] アルジャマラ首長国の一団は委員会とのお別れパーティーを開く。クインは酒を飲み過ぎたのか気分が悪くなり、離れた所でアルジャマラの族長・アーメッドと委員会のメンバーが話す姿をぼんやりと眺めている。
[4] 11月21日(金曜日)の12時、委員会のオフィスで防火訓練が行われた。全員が寒い戸外に15分間立たされた。オグルビー、バートレットの部屋に侵入し、何かを捜す。バートレット、それに気づいていたが口には出さず。何か取られるようなものの心当たりがない。
[5] 11月25日(火曜日)、クインが自宅アパートにて死体となっている。毒殺。死後数日。クインが委員会に現れなかったため、様子を見に来たマーチンが発見した。部屋の屑籠にA・エバンズからクイン宛てのメモが捨てられている。6時過ぎにまた掃除に来るという内容。
[6] モース、クインの部屋を調査するが、特にこれというものは見当たらず。衣装掛けのグリーンのアノラックに気づく。
[7] モース、委員会メンバーを尋問。
[8] クインのオフィスの捜索。アルジャマラ教育省の公用書簡紙にタイプされた手紙。消印は今年の3月3日。クインの前任者であるG・ブランド宛となっている。内容は夏期試験問題の発送に関するもの。文中に20日の金曜日という日付があるが、今年の3月から7月のいずれの月にもそんな日付はあり得ない。
[いつ? 9] モース、クインの秘書・マーガレットを尋問。金曜日の10時45分頃にクインと会い、口述筆記を行なっている。午後には彼に会っていないが、グリーンのアノラックが椅子の背に掛かっているのは見た。彼女のイニシャルM・F宛の短い置き手紙もあった。ルイス、委員会の紙屑ゴミを調べるが、その置き手紙は見つからず。防火訓練についての全職員への通達で、クイン宛のものが見つかった。11月21日(金曜日)の12時に火災警報が鳴りいかなる理由があろうとも建物の中に留まらず、駐車場に集合せよとの内容。モース、管理人・ノークスを尋問。モースはクイン殺害日時を金曜日の昼頃と推測していたが、ノークスは午後5時10分前頃に彼が車で帰って行く姿を見たという。
[10] エバンズ夫人の証言。金曜日の午後4時頃にクインの部屋に彼女は置き手紙。午後6時15分に再訪。クインの部屋には彼から彼女宛ての置き手紙。「E夫人 ちょっと買い物に――すぐ帰ります。N・Q」
[11] モース、マーチンを尋問。彼とモニカは金曜日の午後1時10分にオフィスを出て彼女の家に行き、午後4時15分前に彼はそこを出た。モース、オグルビーを尋問。彼は午後3時30分からずっとオフィスにいたと答えたが、午後4時15分から5時までそこに誰もいなかったという、ループとノークスの証言と合わない。
[12] クインの所持品の中に映画の切符の半券。座席番号は93550。モース、それについて映画館に尋ねると、先週にも似たようなことを電話で尋ねた男がいたという。
[13] クインの下宿先は共同電話を使用している。
[14] モース、ループの疑わしい点を挙げる。第一に彼は石油系の会社に在籍していたことがあり、有力者たちと繋がりがあり、大きな利益を生む不正行為に関わっていたかもしれない。(ブランドが何かの不正行為に関与していることはほぼ明らか) 第二に彼は化学者であり、毒物の知識を持っている。第三に問題の日時であろう21日(金曜日)の午後4時半頃にタイミング良く委員会のオフィスにやって来て、審議員の各部屋を覗いて回るというのも不自然。第四に彼とバートレットとの間に奇妙な敵意が存在し、その衝突がクインの処遇を巡って起きたというのも興味深い。第五に彼とクインはお互いにその教育を同じ地域で受けており、旧知の仲であったかもしれない。モース、ループを尋問。ループの21日の行動についての証明に本人も協力するが、立証されず。
[15] モニカとマーチンは21日に映画館にいたことを認める。クインもそこにいたことには気づかなかったという。
[16] モース、オグルビーが映画館にいたのか、追及するも不発。
[17] モース、妙な点を挙げる。a)クインのテーブルが隙間風の吹き込む位置に置かれている。b)マッチの燃えさしが部屋にもクインのポケットにも見当たらない。c)バターが充分にあるのに、さらに買い増ししている。d)E夫人宛の手紙は漠然としている。それらから導き出される推測は21日の夕方にガスを点け、バターを買い、置き手紙を残したのはクイン以外の人物ではないかということ。クインは自力で帰宅しなかったのではないか。モース、グリーナウェイ夫人から話を訊く。金曜日の午後5時5分にクインの車が自宅車庫に入るのを見た。共同電話で彼が別の男と話すのを聞いた。盗み聞きするつもりではなかったため、内容はほとんどわからず。モース、筆跡鑑定の結果を知る。エバンズ夫人宛の置き手紙はクインの筆跡。
[18] モース、クインの電話の相手としてバートレットを追及するが不発。
[19] バートレット宅のモースのもとに、オグルビー殺害の一報。火かき棒による撲殺。発見者はモニカ。所持している鍵を使って彼の家に入った。バートレットが電話の件について答える。試験問題漏洩の犯人としてバートレットをクインは名指ししたという。オグルビーの所持品から映画の切符の半券が見つかる。手帳にはクインの切符の半券を書き写した図が書かれている。
[20] モース、入院中のモニカと面会。誰かが映画館に入るところを見なかったか尋ねるも、彼女は否定する。
[21] モース、マーチンを尋問。モニカとともに映画館へ行ったことを隠し、彼女の家にいたと偽った理由を追及。彼は彼女の言う通りにしただけで、その理由はわからないという。
[いかにして? 22] アルジャマラの学校の答案の採点。5名中4名は不合格点。1名はほぼ満点に近い出来。ブラント、クイン殺害の知らせを受け取る。
[23] オグルビーは血液の病気でせいぜいあと1年半の命だった。バートレットの息子は精神分裂病。
[24] ループを逮捕。
[25] モース、ループに推理を披露。ループ、反論する。モース、ループを釈放する。
[26] ディクソン刑事、男を尾行。
[27] モースが暗号を解読。クインとオグルビー殺害の容疑者が逮捕される。
[28] モース、推理を披露。
[29] モース、聴覚障害者のクラスを見学。pやbやmで始まる単語は判別が困難であることを知る。建物から出る時刻の合図のベルが鳴る。教師は何の反応も示さずに出席簿に印を付けている。バートレット、モースに電話するが、不在。
[30] 会議室に委員会の面々が集合。モースの独演会。犯人として一人の人物が指摘される。
[31] モース、ルイスに説明。
[誰か? 32] モース、委員会の書簡用紙にある審議員の名前を何気なく見て、あることに気づく。ルイスにその名前を読ませる。
[エピローグ] 試験の不正が暴かれた。
“切り裂きジャック事件”を題材。犯人の残忍な手口の理由。[???]

カール・シュワンツ:殺人課の刑事, モニカの恋人
ペーター・シュトロゼック:同, カールの相棒
ハインツ・ディックマン:同
オラフ・オーストライヒ:同
レオナルド・ビンター:同捜査主任
モニカ・フォンフェルトン:風紀課署員, カールの恋人
クラウス・エンゲルモーア:同, モニカの同僚
モーガン:巡査
メアリー・ベネター:娼婦, ベルリン切り裂き魔事件の第一の被害者
アン・ラスカル:同, 同第二の被害者
マーガレット・バクスター:同, 同第三の被害者
ジュリア・カスティ:同, 同第四の被害者
キャサリン・ベイカー:同, 同第五の被害者
クリス・ユンゲル:同
マインツ・ベルガー:雑誌記者
レン・ホルツァー:パンクボーイ
エルケ・ゾルマー:レンの情人
クリーン・ミステリ:切り裂きジャック研究家



1988年、西ベルリン。街角に立つ娼婦が殺害された。それもただ殺されただけではなく、腹を裂かれ、腸を引き摺り出されるという残忍な手口だった。しかもその夜に殺されたのは彼女一人ではなかった。同様の手口で殺されたのは、彼女も含めて計三名。皆なぜか顔に青インクを掛けられた痕跡があった。

翌日、警察の厳しい警戒をかいくぐり、再び娼婦が二人、惨殺された。彼女たちの顔には青インクは掛かっていなかったが、一人はやはり腸を引き出され、もう一人も犯人に後少しの時間があれば、そうされたのは間違いなかった。

「後少しの時間があれば」というのは、そのとき逃亡する男の後ろ姿を警官が目撃しているからだ。後にその男、青インク入りの水鉄砲を手にした人物の正体が判明し、その男は逮捕されるが、彼は自身を連続殺人犯とは認めなかった。

そんなとき、“切り裂きジャック研究会”のクリーン・ミステリなる怪人物が現れ、青インク男は犯人ではないと言う。犯人と思しき男を捕らえたものの、彼を有罪に持ち込むには証拠が弱いことを認めている捜査主任は、真犯人を知るという怪人物の提案に乗ってみることにした。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



現実の19世紀のロンドンを震撼させ、今でも多くの研究家の興味を駆り立てる“切り裂きジャック”事件を題材にした作品。その迷宮入りの実在の過去の事件と、それをなぞるかのような現在の事件の解明に挑む。ポイントを「犯人が被害者の腹を裂き、臓物を引き出した理由」という一点にほぼ絞ったところが成功。

過去の事件とそれを模倣したような現在の事件を交互に描いているため、両者の内容の被り部分にややクドさは感じるが、全体的な分量は短めなので、読み疲れるほどではない。

別々の時代の事件を同時に扱い、歴史上の謎にも挑んでいる体裁だが、スケール感よりもまとまりの良さのほうが印象に残る。



[プレリュード] 西ベルリンの風景。
[1988年、ベルリン(1) 1] 娼婦が四人。ピンクのワンピースの女を押さえている。「見習い研修中の新入りに、仕事のやり方を教えてやって」 その場を通り掛かったレン、引き受ける。
[1988年、ベルリン(1) 2] モニカ、恋人のカールから宝石を貰う。
[1988年、ベルリン(1) 3] レン、切り裂かれたかつての情人・エルケを妄想。水鉄砲に青インクを吸い込ませる。娼婦たちを撃つつもり。
[1988年、ベルリン(1) 4] 9月25日未明、モニカ、クラウスととも街をに巡回。女の悲鳴。娼婦・メアリがうずくまっている。駆けて行く男をクラウスが追うが捕り逃す。メアリの世話をするために残ったモニカ、あまりの惨劇に呆然としている。メアリは死んでおり、腹を裂かれ、臓物が引き摺り出されている。
[1988年、ベルリン(1) 5] レン、エルケを妄想。
[1988年、ベルリン(1) 6] モニカ、帰宅。カールの指先に青インクの染み。
[1988年、ベルリン(1) 7] メアリ殺害後、アンとマーガレットも殺されていたことが判明。死体の状態は似通っている。三名とも顔に青インクを掛けられた痕跡。
[1988年、ベルリン(1) 8] 9月25日深夜、雨の中でモニカもカールもパトロールに動員されている。0時を過ぎ、モニカはカールとその相棒・ペーターに挨拶して帰宅の途に着く。悲鳴が上がり、カールとペーターは手分けして声の主を捜す。カール、壁に妙な落書きを見る。「ユダヤ人は、みだりに非難を受ける筋合いはない」 ペーター、刃物で切られ意識不明のモニカを発見。そのときさらに別の二つの小路で、それぞれ女の死体が発見される。犠牲者はどちらも娼婦。ジュリアとキャサリン。キャサリンについては犯人に時間がなかったためか臓物は引き出されていないが、それでも多数の刺し傷が残っており、充分すぎる惨殺死体。モニカは奇跡的に一命を取り留めたが、一生右脚を引き摺る可能性大の重傷。
[1988年、ベルリン(1) 9] 捜査会議。a)最初の晩の被害者たちの顔には青インクが掛かっているが、次の晩の被害者たちにはそれがない。b)前日の惨劇によって警官が多数配置され、厳重警戒中の晩にあえて犯人は犯行を重ねている。c)五名とも英国あるいはアイルランド系で顔見知り。一緒に行動することも多かった。d)マーガレットの大腸の一部は持ち去られている。
[1888年、ロンドン(1) 1] 娼婦のメアリー・アン・ニコルズが殺される。
[1888年、ロンドン(1) 2] アニー・チャップマンが殺される。たまたまそのそばに落ちていたレザーエプロンのために、無関係な人物が疑われたりもする。
[1888年、ロンドン(1) 3] エリザベス・ストライドが殺される。キャサリン・エドウズが殺される。「ユダヤ人は、みだりに非難を受ける筋合いはない」ろいう殴り書きが発見されたが、騒動を恐れた当時の警視総監の指示によってすぐに消されてしまう。
[1888年、ロンドン(1) 4] “切り裂きジャック”名義の手紙が送られてくるようになる。
[1888年、ロンドン(1) 5] メアリー・ジェーン・ケリーが殺される。
[1988年、ベルリン(2) 1] 殺害されたマーガレットの大腸の一部がベルリン署の交通管制センターに届く。
[1988年、ベルリン(2) 2] ベルリンの一風景。
[1988年、ベルリン(2) 3] レン、ベルリン切り裂き魔事件の容疑者として逮捕される。その手にある水鉄砲には青インクが詰まっている。
[1988年、ベルリン(2) 4] レンはメアリ殺害事件の際に逃亡した人物の風貌に当て嵌まる。青インク入りの水鉄砲を所持している。レンは連続殺人事件や壁の落書きへの関与を否定。メアリー殺害事件の当日、レンが多くの娼婦に青インクを掛けていたことについては大勢の目撃者あり。しかし掛けられた者の多くはそれ以上の被害は受けず、生きている。
[1988年、ベルリン(2) 5] モニカ、カールの指先に青インクが付いていたことを思い出す。
[1988年、ベルリン(2) 6] “ベルリン切り裂きジャック”を名乗る者からの手記が新聞に投稿される。手記にあったホテルの207号室の滞在者は“クリーン・ミステリ”と名乗る東洋系の英国人らしい。彼はレンは犯人ではないと主張する。そして真犯人を知っているという。
[1988年、ベルリン(2) 7] クリーンはまずクラウスとの面会を希望。クリーンはクラウスに殺害された五人の遺体の護衛を依頼する。しかしクラウスは家族が待っていることもあり、できれば遠慮したいという。クリーンはあっさりとそれを受け入れ、クリーンは帰宅する。クラウスとの面会の間、クリーンは右手でガラス玉を弄んでいたが、相手はまったく気に留めず。クリーン、駐車場からすぐの部屋に五つの棺桶を移動。クリーンとビンター主任、それを見張るために隠れる。
[1988年、ベルリン(2) 8] クリーン、かつてのロンドンに住んでいたマリア・コロナーの話をする。
[1888年、ロンドン(2) 1] マリア、キャサリン・エドウズに依頼されたドレスを届ける。マリア、婚約者から貰った宝石を見せる。娼婦たちはそれを強奪し、マリアを床に押さえる。通りがかりのウィリー・ハモンド、マリアを強姦。娼婦たちの誰かが宝石を呑み込む。
[1888年、ロンドン(2) 2] 帰宅したマリア、ナイフを手に街へ出る。
[1988年、ベルリン(3) 1] 棺を見張るクリーンとビンターの視界の中に誰かが現れる。その人物は棺を開けた。
[1988年、ベルリン(3) 2] クリーンは話し終え、去って行く。迎えの男がいる。彼らは日本語らしき言葉を交している。
[1988年、ベルリン(3) 3] 詩。
[エピローグ] ビンター主任はロンドンの“切り裂きジャック研究会”を問い合わせたが、そこにクリーン・ミステリなる人物は存在しなかった。
モース警部シリーズの長編第2作。家出した少女の捜索。捜査中に少女の関係者が殺害される。推理は二転三転。(「・ω・)「にゃおー [???]

バレリー・テイラー:ロジャー・ベイコン校の女子学生
ジョージ:バレリーの父
グレース:バレリーの母
ドナルド・フィリップソン:校長
シーラ:ドナルドの妻
ミセス・ウェッブ:ドナルドの秘書
レジナルド・ベインズ:教頭
デイビッド・エイカム:フランス語の助教諭
リチャード・エインリー:主任警部
アイリーン:リチャードの妻
ジョニー・マガイア:“ペントハウス”の客引き
ジョゼフ・ゴッドベリー:横断歩道の元誘導員
イボンヌ・ベイカー:高級娼婦
ストレンジ:警視正
ルイス:部長刑事
モース警部:主任警部



バレリー・テイラーの捜索。それはまったく彼好みの事件ではなかった。

モース主任警部には死体が必要だった。だからつまらない家出人捜索など、やる気の出ようはずがない。だが彼はその事件に何か怪しげな香りを嗅ぎ取ったのか、あるいは――こちらのほうが妥当と思えるが――これは単純な家出人捜索などという退屈な作業ではないと、無意識にうちに自分に言い聞かせたのか、これはバレリー殺害事件なのだと断じるのだった。


バレリーが失踪したのは2年以上前。だが数日前に彼女からの(モースは偽物と確信していたが)手紙が届いていた。彼女の居場所は知らせずとも、その無事を知らせる内容である。消印は9月2日となっている。

ところでバレリー失踪事件については、モースには前任者がいた。その彼――エインリー――は9月1日にロンドンからの帰路にて、交通事故(この事故自体には不審はまったくない)で亡くなっている。

エインリーが死んだのは9月1日。バレリーからの手紙が送られたのは9月2日。モースはこれを単なる偶然とは見做さなかった。エインリーはバレリー失踪事件について何か重大なことを掴み、ロンドンへ行ったのではないだろうか?


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



モース警部の論理の迷宮。仮定を重ねて推理を組み上げては壊れ、壊れてはまた複雑に組み上げる――

僕はこれは再読だが、失踪した娘を捜す話だという漠然とした記憶しか残っておらず、読み進めても内容をほとんどまったく思い出せないことがわかったw

本作はモース警部シリーズ中の最高傑作と言われることも多い代表作。…なのだが、個人的にはどうもピンと来ない。確かにモースの推理が二転三転する展開は面白いのだが、最後がなんとなく唐突で、尻すぼみで、すっきりしない。ベインズ殺害犯の指摘は付け足しみたいで、それは誰でもいいような。緻密な推理の末の、最後に残った唯一の解答という印象がない。

モースの「私にはそれが必要だ。だがわれわれには死体がない」という台詞は素晴らしい。まさにそのとおりで、やはり物語には死体があったほうが面白いんだw ところが本作は家出人捜しという題材で、そのバレリーが生きているのか死んでいるのかはっきりしない、――殺害された死体のない――もやもやしたままの状態で、長く物語が進行するのも物足りないところ。(読み終えてみると、中盤でようやく発生するベインズ殺害事件は、ストーリーを引っ張るためだけの付属品でしかないと思えなくもない)



[プレリュード] 面接からの帰路に着く男が女と知り合う。
[1] モース、家出人捜索を命じられる。「親愛なるパパとママ あたしは大丈夫よ。バレリー」 手紙の消印は9月2日(火曜日)、ロンドン、EC4。
[2] 前担当者のエインリーはロンドンへ向かう途上で交通事故死している。何か考え事でもしていたのだろう。事故の日は9月1日(月曜日)。バレリーからの手紙が送られた前日。
[3] モース、エインリーの自宅を訪れ、エインリー夫人に出迎らえる。エインリーの卓上日記の9月1日の欄を見る。「サウサンプトン・テラス42番地」
[4] キドリントンのロジャー・ベイコン総合中等学校の校長宛に、テムズ・バレイ警察から手紙が届く。ロジャー・ベイコン総合中等学校からカーナフォン市の学校に移ったデイビッド・エイカムが庭の芝を刈る前に雨が降り出す。女を部屋に引っ張り込んだ男が別の女に責められている。バレリーの父・ジョージが仕事中に娘を思い出している。連続爆破事件の容疑者が多数逮捕される。それについてのモース警部の貢献度はゼロに等しかった。
[5] モース、家出人特集の新聞記事を読む。バレリーの顔を初めて見る。
[6] モース、ルイスとともに報告書の検証。モースの神託。「もし失踪直前のバレリーが袋か何かを持っていたなら(事実そうであろうが)、彼女は死んでいるだろう」
[7] 目撃者ジョゼフ・ゴッドベリー、バレリーが左手に何か袋のようなものを下げていたことを証言。モース、バレリーのノートの入手に成功。
[8] モース、ジョニー・マガイアを尋問。バレリーの妊娠について尋ねる。
[9] モース、ドナルド・フィリップソンを尋問。
[10] バレリーの手紙の筆跡の検証。バレリーからの新たな手紙。それによると彼女は自身を捜されるのを望まない。
[11] モース、グレースを尋問。バレリーの妊娠については否定。家の中に別の誰かの気配。
[12] モース、ジョージを尋問。
[13] モース、エイカムと電話で会話。ベイズと面会。
[14] ルイス、モースの方針に不満。
[15] モース、エイカムに電話するが不在。重要なことではないので後回し。
[16] モース、数々の仮定を経てバレリーの腹の中の子の父親をフィリップソンと推理。バレリーからの2通目の手紙はモース自身が作ったものと告白。
[17] フィリップソンとベインズとの間に火花。
[18] モース、バレリー失踪事件について考えながら眠りに就く。ベインズ、予期せぬ訪問を受ける。
[19] ベインズ、背中をナイフで刺され、死んでいる。部屋の中から表紙にバレリーの名が署名されたノートが見つかる。挟まった紙にはバレリーの筆跡を練習したような痕跡。まだ新しいと思しき電話帳。記入された番号は14あった。そのうち事件と関係ありそうなものは三つ。エイカム、フィリップソン、テイラー。
[20] ジョージとフィリップソンには不完全ながら尤もらしいアリバイ。エイカムはオックスフォードでの会議に出席中と、エイカム夫人は答える。
[21] モース、酒場でのひととき。
[22] 時計の針を戻す話。
[23] トマス夫人、ベインズの家を珍しく女が訪問したことを語る。女はピンクのコートを身に着けていた。
[24] フィリップソン夫人、ベインズの家の戸口を叩いたことは認めた。しかし彼には会えず引き返した。そのとき彼女はエイカムを目撃。
[25] モース、エイカム夫人と会う。
[26] エイカム、ベイスンを訪ねたが会えなかったと語る。
[27] モース、バレリー殺しとベインズ殺しの犯人の正体を確信。
[28] ルイスの推理。テイラー夫人によるバレリー殺害説。
[29] モースの推理。ルイスの推理をさらに推し進めたもの。
[30] 生前のベインズの経済状況はかなり良好。
[31] モースの推理の補完。
[32] モース、バレリーの妊娠中絶の報告書を受け取る。彼の推理が崩れ落ちる。
[33] モース、イボンヌ・ベイカーと面会。バレリーの相手は口髭を生やしたフランス語教師らしい。マガイア、何処かへと去る。
[34] モース、エイカム宅を訪ねる。
[35] モースの推理。バレリーによるエイカム夫人成り済まし説。モース、住人の戻らぬエイカム宅に入る。
[36] エイカム夫人の帰宅。モースの推理、崩壊。
[37] モース、崩壊した自身の推理の検証。
[38] モース、イボンヌと電話で会話。
[39] モース、列車で移動。
[40] モース、イボンヌに推理を披露。
[41] フィリップソン夫人、ベインズ殺害を自供。
[42] バレリー・テイラーの独白。
[エピローグ] バレリーは未だにテイラー夫妻のもとへは戻っていない。