雨のあとに虹・Part2 その37
覆面パトカーを運転している菊池が赤信号で止まった時に桜田の携電話が鳴って桜田が出ると
「私だよ。」
岸田が電話の向こうで言った。
「何かありましたか?」
桜田は言った。
「耳よりな情報があるから教えてあげようと思ってね。」
岸田が言うと
「耳寄りな話とは何でしょうか?」
桜田は言った。
「君なら僕が止めてもやるよね?」
岸田は意味ありげに言った。
「それは何とも言えないですね。」
桜田が言うと
「君は興味を持つと思うよ。」
岸田は言った。
「お忙しいところすみません。」
総武企画の社長室で
桑田清純は俊之に言った。
「それは気にしないでください。」
俊之は桑田の目を見て言った。
「天門先生と高村さんのエピソードがやっと本になりましたよ。」
桑田は嬉しそうに言ったのである。
「それはおめでとうございます。」
俊之が言うと
「これが高村さんにお渡しする一冊です。」
桑田は出来上がった漫画の本を取り出して言った。
「こうやって本になると嬉しいですね。」
俊之は本を捲りながら言うと陽子がノックして珈琲を持って社長室に入って来た。
「どうぞ。」
桑田の前に珈琲を置いて陽子が言うと
「ありがとうございます。」
桑田は言った。
「次の準備はゆっくりでいいよ。」
俊之が言うと
「かしこまりました。」
俊之の前に珈琲を置いてから陽子は言った。
「気を使わなくてもいいよ。」
俊之が言うと
「ごゆっくりしてください。」
陽子は会釈をしてから言うと静かに自分の席に座った。
「高村さんは凄い出世をしましたね。」
桑田は驚いて言った。
「そんな事はないですよ。」
俊之が言うと
「高村俊之の強運と題して一冊描こうかな?」
桑田は笑顔で言った。
「このあとは北京入りまで大学で練習だね。」
チームメイトの寺田ゆき乃が言うと
「北京では自分との戦いだから気を引き締めないといけないね。」
育子は言った。
「育子は強いからいいね。」
ゆき乃が羨ましそうに言った。
「私だって弱気になる時はあるよ。」
育子は言うと汗を拭った。体育館は夏の空気で温度はかなり上昇していて休憩しているだけで汗が出てくるのであった。
「育子は卓球だけではなく合気道でも強いね。」
ゆき乃が言うと
「相手を倒すのではなくて相手の力を利用する技を身に着けるために合気道をしただけだよ。」
育子は言った。
「それで初段を取るのは才能があるよ。」
ゆき乃が言うと
「霊感と共振すると凄い力になるのは確かだよ。」
育子は言った。
「私もその霊感が欲しいな。」
ゆき乃が言うと
「あと30分練習したら終わろうよ。」
育子は言った。
「久美子さん?」
電話の向こうで春香が言った。
「すっかりご無沙汰して失礼しました。」
久美子は言った。
「話をして大丈夫ですか?」
春香が言うと
「休憩時間ですから大丈夫です。」
久美子は言った。
「それなら大丈夫ね。」
春香は安心したように言った。
「店長はそんなに厳しい事は言わないから安心です。」
久美子が言うと静かな休憩室がアナウンスの声が響いていた。
「高村さんと育子さんへのサプライズで久美子さんのアイディアも聞かせてくれないかしら?」
春香は言った。
「何か驚かす事でも出来ればいいですね。」
久美子が言うと
「ふたりとも同じ日が誕生日だから何か出来ればいいけれどね。」
春香は言った。
雨のあとに虹・Part2 その36
「町島たちが帰って行きますね。」
菊池が覆面パトカーの中で言うと
「今日の仕事はこれで終わりにしましょう。」
桜田は表情を崩さずに言った。
「何もしなくていいのですか?」
菊池が言うと
「官房長からはおとなしくしろと言われていますからね。」
桜田は言った。
「解りました。」
菊池は言うと町島たちのあとを目で追っていた。
「社長の予定を確認できますか?」
社長室に入って来ると恵子は言った。
「今週は外出が多いですね。」
陽子が言うと
「それなら来週の方が良いかな?」
恵子は言った。
「重要な取引先なの?」
陽子が言うと
「首都圏大学の研究グループとメガビューティの神宮社長との顔合わせよ。」
恵子が言った。
「メガビューティの神宮社長とのご対面とは厄介ね。」
陽子が顔を曇らせて言うと
「できれば避けたかったけれどしょうがないわよ。」
恵子は言った。
「立花さんに会わせた時には大変だったと聞いたわよ。」
陽子が言うと
「神宮社長は異常なほど男嫌いだから大変だったわよ。」
恵子は笑いながら言った。
「研究の方はどうだい?」
珍しく首都圏大学の研究室にを訪れていた増田は敏弘に言った。
「順調に進んでいますよ。」
敏弘は明るく表情で言った。
「総武との提携も順調に進んでいるようだね。」
増田が言うと
「来週には総武の高村社長と会う予定ですよ。」
俊之は言った。
「いよいよ高村に会うのか?」
増田が言うと
「すでに一度お会いしていますよ。」
敏弘は言った。
「高村に会ったのか?」
増田が言うと
「人質事件に巻き込まれてしまいしてね。」
敏弘は言った。
「総武遊園地で人質立てこもりがあった事件の事か?」
増が言うと
「話せば長くなってしますよ。」
敏弘は珈琲を飲みながら言ったのである。
「僕がついていながらご心配をかけて住みませんんでした。」
湧本たちを残して倉庫から出て来て歩きながら関口が言うと
「あんな事になるとは思っていませんでした。」
泰子は小さい声になって言った。
「私は騙された事があるからとても気になってどうにもならなかったのよ。」
直子が言うと
「僕は女性に騙されてみたいですよ。」
翔太は冗談交じりに言った。
「そんな失礼な事を言ってはダメですよ。」
育子は言った。
「関口さんのお怪我は大丈夫ですか?」
久美子が言うと
「大丈夫です。」
関口は言った。
「少し怪我をしているみたいだね。」
俊之が言うと
「俺が治してやるよ。」
矢島が構えると関口の腕を捕まえて言った。
「本当に大丈夫ですよ。」
関口が言うと
「春香さんも正義感が強いからね。」
俊之は言った。
「春香さんから俺に電話があったからな。」
矢島が言うと
「泰子さんに被害がなくて良かったよ。」
俊之は優しく言ったのである。
もうひとつの物語・7月の空
梅雨が明けて本格的な夏がやって来た。猛暑と言うにふさわしい日に私はいつもように珈琲ショップに立寄った。駅ビルの中には落着いた音楽が流れていてところどころに夏を実感させる植物や写真が飾ってあった。エスカレーターで上に行くと込んでいるように見えたが手前の席が開いていた。
「いらっしゃいませ。」
店長が言うと私と目があって軽く会釈をした。
「ケーキとブレンドをお願いします。」
私は言った。暑くてもホットがおいしいのである。この店で飲む珈琲は各別な味があるのであった。私はいつもの席に座って大きく呼吸をして周囲を見回していた。少しずつ心が落着いてくるのが自分で解った。暑さにホットの香り混ざって南国のリゾート気分を味わえる瞬間であった。が良いのだ。口に含んだ最初の一口がおいしかった。
「暑くなりましたね。」
店長さんが横に来て話しかけてくれた
「梅雨が明けたから暑い日が続くと思うよ。」
私は言った。
「2ヶ月は暑いでしょうね。」
店長さんが言うと
「2ヶ月は長いようで終われば短いかもしれないね。」
私は言った。
「インドネシアはもっと暑いですよ。」
親しみを込めて店長さんは言った。
「赤道直下にあるインドネシアの暑さは東京の比ではないだろうね。」
私は今更のように言ったのである。
「彼女は元気にしているかしらね?」
店長さんは彼女を思い出すように言った。私が彼女を見ていたのは秋から冬を越えて春の息吹が感じる頃までである。コートに身を包む彼女は想像できても灼熱の太陽で肌を焼いている彼女は想像するのは難しかった。
「彼女の事だから元気だと思うよ。」
私は言った。カウンターに客が多くなってくると
「失礼します。」
店長さんは言って戻って行った。そんな何気ない日常であるがここで過ごす時間には私には癒しがあった。
「やっぱり店長と何か意味深な話をしていたでしょ?」
若い女性店員さんが言って私のとなりに来ていた。
「特に別に意味深ではないよ。」
私は言った。
「凄く意味深ですよ。」
若い女性店員さんが言った。
「そう見えるのかな?」
私が言うと
「女は感が鋭いですからね。」
女性店員さんは言った。
「そう言われても普通に暑いとか天気が良い話をするだけですよ。」
私は言った。
「そこから何かが始まるのです。」
若い女性店員さんが言うと
「言われてみればそうだね。」
私も納得して言ったのである。
「やはり何かある顔ですよ。」
若い女性店員さんが私の顔を覗きこんで言った。
「そうかな?」
私が言うと
「その何かがあるだけで他人より若くしていられますよ。」
若い女性店員さんは悟ったように言った。
「僕は若いだろうかね?」
私が言うと
「とても胸がときめいているような顔をしますよ。」
若い女性店員さんは言うと持ち場へ戻って行った。私はなるほどと思いながらもその先は考えなかった。
「ありがとうございました。」
私が帰る時に若い女性店員さんが言うと店長さんと私は目を合わせていた。
「ごちそうさま。」
私が言うと店長さんは会釈をしてくれた。
「ありがとうございました。」
若い女性店員さんが言うと
「また来ます。」
私は背を向けて言った。私の声が届いただろうか?ふたりに聞こえればそれでいい。インドネシアへは届かないその声がふたりに届けばそれだけでよかったのだ。