雨のあとに虹・Part2 その41
「京野育子さんですね。」
桜田が言うと育子は振り向いて桜田と視線を合わせていた。桜田の横にいる菊池も育子はしっかり観察をしたのである。桜田も菊池も何処にでもいる中年のような風貌でありながら眼光だけは鋭かったのである。
「そうです。」
育子が言うと
「捜査ではないのですがご協力を願えませんか?」
桜田は警察手帳を見せて言った。
「久美子さん。」
翔太が繁華街に近く人の流れも多い場所で久美子に言うと久美子はすぐに翔太を見て微笑んでいた。翔太はどこかに謎の部分がある反面に親しみがあったのである。
「いつもお疲れ様です。」
久美子は明るく言った。
「三田選手がしつこいく久美子さんに接触して来ていますね。」
翔太が言うと
「先日は育子さんが三田選手の手首をひねっていましたよ。」
久美子が笑みを浮かべて言うと
「あとは僕と関口で何とかしますよ。」
翔太は言った。
「無理はしないでくださいね。」
久美子が言うと
「泰子さんも協力してくれるはずですから期待していてください。」
翔太は言った。
「高村さん。」
俊之は銀座の大通りに面しているビルの前で白仁正樹が言うと
「はい。」
俊之は言った。
「高村さんもたまにはこういう店に来てもいいと思うよ。」
正樹は言うとエレベーターのドアが開いてふたりが乗ってドアが閉まった。
「時間を作って顔を出すようにします。」
俊之が言うと
「ママの店は情報収集が出来るよ。」
正樹は言うとエレベーターが開いた。
「いいお店ですね。」
俊之が言うと
「今夜は高村さんが主役だからね。」
正樹は言った。
「岸田さんでしたか?」
増田は携帯を耳に当てて言った。
「こんな時間に申し訳ない。」
岸田が言うと
「私は仕事が溜まっていたので大丈夫ですよ。」
増田が言うと
「近いうちに会いたいけれど会えるかい?」
岸田は言った。
「明後日ならいいですよ。」
増田が言うと
「会いたいのは高村俊之さんだけどいいかね?」
岸田は言った。
「高村の予定を知らないから約束は無理ですよ。」
増田が言うと
「急がないから近いうちに段取りをしてくれないだろうかね?」
岸田は言った。
「お先に失礼します。」
残業のしていた同僚が言うと増田は軽く手で合図をした。
「無理がない範囲で頼むよ。」
岸田が言うと
「近いうちに何とかしますよ。」
増田は言った。
雨のあとに虹?Part2 その40
「春香!」
ケンは笑顔で待合せの喫茶店に入って来て言った。
「ケン!」
春香はケンの顔を見て懐かしそうに右手を上げて言った。
「久しぶりだね。」
ケンは笑顔で言った。
「年明けに日本に帰って来て依頼だから半年ぶりね。」
春香が言うと
「半年も経つのか。」
ケンは言った。
ロンドンではケンにお世話になったわね。」
春香が言うと
「お互い様だよ。」
ケンは言った。
「高村さんにも会ってあげてね。」
春香が言うと
「せっかく来たのだから俊之にも会わないと帰れないよ。」
ケンは言った。
「ケンはすぐに日本に戻って来るような気がするわ。」
春香が言うと
「当社が日本に支社を出す事になったからね。」
ケンは言った。
「責任者として日本に赴任できるのでしょう?」
春香が言うと
「それは社長の決裁待ちだよ。」
ケンは言った。
「サッカーの三田選手だ!」
誰かが言うと久美子は声の方に視線を向けていた。久美子の目に家電量販店のテレビから三田がインタビューに応じている映像が見えていた。
「俺が出ればどんな試合でも勝てるさ。」
三田が言うと
「先日は惨敗でしたよ。」
女性アナウンサーの朝日園子が言うと
「あれはチームメイトがミスをしたからだよ。」
三田が言った。
「三田選手のゴールも全然決まりませんでしたよね。」
園子が言うと
「それは相手チームにハンデをあげただけだよ。」
三田は言った。
「三田選手は意外に傲慢な男性ね。」
いつの間にか久美子に横に来ていたひとみがテレビを見て言った。
「こんなところで珍しいですね。」
久美子がひとみに言うと
「本社に行った帰なのよ。」
ひとみは言った。
「店長も本社の会議に参加してお店を管理するのは大変ですね。」
久美子が言うと
「今日は良い事があったからうれしいわ。」
ひとみは言った。
「陽子!」
国分に言われて陽子は足を止めそうになったのであるがすぐに歩くスピードを速めていた。国分は陽子にとっては会いたくない相手であった。
「迷惑だから来ないで!」
陽子が言うと
「そんな事を言うなよ。」
国分が陽子に追いついて来て言った。
「川嶋さん!」
それを待っていたように俊之が走って来て言うと
「社長!」
陽子は振り返って俊之を見た。
「帰るところなのにすまないね。」
俊之は言った。
「どうかされましたか?」
陽子が言うのを国分はただ見ているだけだった。総武企画を中心とする総武グループ本社ビルの前であるために警備員が国分を意識して警備をしていたのである
「たまには川嶋さんと食事をがしたくてね。」
俊之が言うと
「本当ですか?」
陽子は嬉しそうに言った。
「嘘はつかないよ。」
俊之は言った。
「とても嬉しいです。」
陽子は言うと俊之に自分の腕を絡ませてきたのであった。
「どこかおしゃれな店にでも行こうよ。」
俊之は陽子をエスコートして歩き出すのを国分はただ見ているしかなかったのである。俊之と陽子は国分が見えない所まで歩いて来ると立花と恵子が笑いながら立っているのが視界に入ってきた。
「さすが社長ですね。」
恵子が言うと
「エキストラの経験が生かされていますよ。」
立花が言った。
「主演男優賞ですよ。」
恵子が言うと
「私も社長に男を感じましたよ。」
陽子が言うと
「川嶋さんまで冗談を言うと調子が狂ってしまうよ。」
俊之は言った。
「これもかわいい秘書のためですよね?」
立花が言うと
「歴代社長の中で部下のために演技をしてくれたのは高村社長だけですよ。」
恵子は言った。
「僕だけがダメな社長みたいだね。」
俊之は微笑んで言うと
「反対にとても優秀な社長ですよ。」
陽子は俊之に言った。
もうひとつの物語・9月の雲
夕立があって周囲の誇りが洗い流されたように街路樹から木漏れ日が差していた。私は少しだけ弱くなった日差しを受けて足早に歩いていた。都会にも少しずつ緑が回復されつつある状態を知るのは本当に嬉しい事である。ビルの谷間に元気よく背を延ばす木が大きく見えて駅前広場では人の行き来が激しかった。その半面で駅の混雑は季節を忘れさせてくれる。春も夏も秋も冬もここでは関係なく人が移動していた。私はいつものように駅ビルのエスカレーターに乗ったのであった。
いつもの階でエスカレーターを降りて目的の珈琲ショップを除と少し遅い食事にはタイミングよく空いていた。私が入って行くと
「いらっしゃいませ。」
店長さんは聞きなれた声で言った。この店に来るたびに聞こえるいつも声を私は何度聞いたであろうか?
「ブレンドとカルボナーラをひとつね。」
私が言うと声はだけが大きく響いていた。いつもの落着いた空間がそこにあった。
席について大きく呼吸をすると気分はとても落着くのである。この店は時には時間が止まったように私の心を落着かせてくれていた。早いものであれから半年が経とうとしていた。私は夏でもホットを飲み続けたのには理由があった。この店で飲む珈琲はホットでなければいけないと私はそう決めていた。
「お待たせいたしました。」
いつもの笑顔で女性店長さんが言うとスタを持って来てくれた。
「ありがとう。」
と短く答えた私に
「お昼が遅いですね。」
店長さんが話しかけてくれた。
「前の打合せが長引いてしまってからお腹が空いてしまったよ。」
私が言うと待っていたように
「彼女は遅い夏休みで旅行中です。」
店長さんが言った。
「彼女の夏休みは遅いね?」
私が言うと
「今の時期のほうが海外は空いていて楽しいそうですよ。」
店長さんは言った。
「今日はそれでよかったのかも知れないね。」
私が言うと店長さんは理解できないような表情をして
「どうしてですか?」
と私に言った。
「今日でちょうど半年ですよ。」
私が言うと
「半年?」
店長さんは言うと表情を止めていた。
「インドネシアに行く彼女と最後に会ってからちょうど半年ですよ。」
私が言うと
「もうそんなに経ちましたか?」
店長さんは言った。
「半年経ったとは嘘のようです。」
私が言うと
「時間が経つのは早いですね。」
店長さんは言った。私が言い終わるのを待っていたようにレジが少し込み合ってくると
「失礼します。」
店長さんは言いながら戻って行った。
いつもように数十分を過ごして珈琲カップが空になると時間の流れが速くなったように私は席を立つのである。次の場所へ移動しなければいけない時間である
私がレジの前を通る時に店長さんは
「これは旅行中の彼女から届いた写真です。」
と言って写真を取り出した。
「早くも写真が来たのですね。」
私が言うと
「見てあげてください。」
店長さんは言った。私がその写真を見るとインドネシアから送られてきた彼女と同じポーズをとって学生の彼女が微笑んでいた。
「どこの海岸か知らないけど似たようなところがあるものだね。」
私は言った。
「そっくりでしょ?」
店長さん言うと
「しかも彼女と同じポーズで写真に収まっている。」
私が言うと
「半年経ったら違う彼女から写真が送られてくるとは人気がありますね。」
店長さんは私を少しだけからかうように言った。
「そうだと嬉しい事ですよ。」
私は嬉しさが隠せないで言った。私にとってこの店は不思議な思い出をくれる貴重な空間であった。
「またいらしてください。」
店長さんは優しく言った。その声を背に私はエスカレーターを降りて行った。外にはまだ夏が残っていて。暑さは体力を少しだけ奪っていた。それでもビルの谷間から見上げた空は確実に秋になっていた。空が澄んだような青さで雲が高くなっていて東京の空はは少しずつ秋へと向かっていたのであった。