悲しい気持ち
 明日になったら消えるのかな
 そう思って 眠った


 だけど すぐに目が覚めて
 また 悲しい気持ちを思い出す

 その繰り返しで 朝が来た
 でも 消えない


 この前の悲しい気持ちは
  すぐに消えたのに

 その前の悲しい気持ちは
  夕方には消えたのに

 今回の悲しい気持ちは
  もう 3日


 いつになったら 消えるのかな
 いつになったら 思い出さなくなるのかな

 短くても 長くても 悲しい気持ちは
 胸のあたりが 苦しくて
 自然に涙が出てきちゃう
 
 そんなの早く 消したいのに
 悲しい気持ちは
 言うことを聞いてくれない


 もしかしたら ずーっとこのままかもしれない


 いつになったら 消えるのかな
 いつになったら 悲しい気持ちと

 上手につきあえるのかな

わらってるけど
 わたし
 本当は きず ついているの


 わからないのでしょう?
 きづかないのでしょう?


 だって みんな楽しそうだもの
 うれしそうだもの


 みんなと ちょっとちがう
 あしが ちょっとみぎにむいたまま
 もどらない

 わたしがあるくと みんなが わらう


 おかあちゃんに いったら
 おかあちゃんが なくから
 いわない

 わたしがないたら
 おかあちゃんが もっとなくから
 わたしは なかない


 だから わらってるの

 みんな しらないのでしょう?
 みんな きづかないのでしょう?

 だから みんなわらうのでしょう?


 もし わかっていて わらっているのなら
 わたし どうしたらいいんだろう?


 いっしょうけんめい かんがえたけど 
 ああ やっぱり
 わらってるしかないね


 私ね。


 お姫様になりたい。


 世界一綺麗で みんなに愛される お姫様になりたい。

 そしたら

 まりちゃんは 私を家来みたいにしないだろうし

 ごろーちゃんは 「ぶす」って言って たたかないだろうし

 ゆうこちゃんは 私をつきとばして ぶらんこの順番を
                    先に行ったりしないだろうし

 たかしちゃんは 「変なかおのでぶ」って 言わないだろうし

 みんなで 仲間はずしにしないだろうし

 先生も よしこちゃんみたいに ひいき してくれるだろうし

 きっと みんな優しくしてくれる

 りょうこちゃんみたいに おゆうぎ会で お姫様になれる

 れーすがいっぱいついた ワンピースを着た時
 お店のおねえさんが ついていない ワンピースを持ってきたりしない。

 聞こえたよ。

 「あの子には 似合わないわよ」

 お店のおねえさんが、そう言って笑ったの。


 お姫様になりたい。

 世界一綺麗な お姫様になりたい

 こんな まるい顔で 鼻のあなが見えてて 

 目が細くて ぶくぶく太ってて…。

 ママは かわいいって言うけど
 おばあちゃんは 元気そうで 良いって言うけど

 だめなの 学校のみんなが そう言ってくれなきゃ

 だめなの 世界中のみんなが そう言ってくれなきゃ


 本当はね。


 お姫様になれなくてもいいの。


 今のままでもいいの。

 みんなが 仲良くしてくれたら

 みんなと 楽しく遊べたら


 お姫様になれなくても

 いいの。

広い広い海の向こう 小さな黒い点が ボクに向かってやってくる。
 その黒い点がだんだん大きくなって やがて舟の形になる。
 そして、ボクは 両手を大きく振りながら叫ぶんだ。

「とうちゃん。おかえり!」

 波の音や 舟のエンジンの音 かもめの声
 そして 潮風の黒板消しで ボクの声は 
 本当にこの港に近づかないととうちゃんに聞こえないらしい。

 とうちゃんは、たった一人で海に出て魚をとってくる。
 
 「ボク。大きくなったら、とうちゃんみたいな漁師になるんだ」

 ボクが、むねをはって にこにこしながら言うと
 とうちゃんもにこにこしながら ボクの頭をなでてくれた。
 だけど、かあちゃんだけは 

   ボクがそう言ってもいつも何も言わなかった。

  
 「けんちゃんちのおとうちゃんみたいに サラリーマンもいいかもよ」
 かあちゃんが、時々とうちゃんがいない時ボクの目を見て言った。

  学校で時々  
 「お前 魚くせー」
 って ボクに 意地悪を言うやつがいることを知っているのかな。

 だけど、白いTシャツは とうちゃんが 他のとうちゃんより
 一番似合うと思うよ。参観日の時に いつも思う。
 
 それに くみちゃんは 言ってくれる。

 「うみ君の パパがとった お魚、昨日 おばあちゃんと食べたよ。
  とってもおいしかった。おばあちゃんも うみ君のパパのお魚が
 一番新しくて良いって言ってたよ」

 って。

  そんな時 ボクはとっても うれしくて じまんな気持ちになる。

 ボクは けんちゃんのとうちゃんが、疲れた顔で 家にいるのを
 何度もみたことがあるんだ。
 日曜日に遊びに行った時だよ。
 青白い顔で ふらふらって 椅子に座って だまって 新聞を読んでた。

 ボクのとうちゃんは、魚がとれないと 不機嫌な顔になるけど
 いつも元気だ。


       でも、やっとわかったんだ。


 かあちゃんが、なんで あんなことを 言うのか。


 とうちゃんが、嵐の日から まだ 家に帰って来ない。


 かあちゃんは、毎日ボクを抱きしめて 泣いてる。


 かあちゃんは、こんなことが 起こるかもしれないと思って
 ボクが とうちゃんみたいな漁師になりたいって言っても
 とうちゃんみたいに よろこんでくれなかったんだね。

 きっと、そうだね。

 ボクは、かあちゃんにそのことを聞いていない。

 今は 聞けない。なぜか 聞いちゃいけないって思うんだ。


 でも、とうちゃん。 

 ボクは きっと とうちゃんみたいな漁師になるよ。

 だって、ボクは海が 大好きだし
 もし サラリーマンになっても ボクは 楽しくない気がするから。

 それにね。

 とうちゃんは きっと 「海の何処かで 

         魚をとっている」とボクは思っている。

 いつか、ボクがそこへ行くのを待っていてくれているんだと思う。

 かあちゃんに そう言ったら
 泣きながら とうちゃんみたいにならないでほしいって 言った。
 
 かあちゃんは さみしいんだね


 かあちゃんの気持ちもわかる。

 ボクだって 嵐の日から毎日港に むかえに行っているんだよ。
 だけど 小さな黒い点が とうちゃんの舟になることがないんだ。


 「とうちゃん。おかえり!」


 何度もそう言うけど、潮風の黒板消しがすぐに消してしまう。

 夕暮れまで待って とうちゃんが帰って来ないと
 ボクは とても さみしい気持ちになる。

 だから、かあちゃんの気持ちがわかる。

 かあちゃんも ボクもとっても さみしいんだよ。

 でも ボクは信じてる とうちゃんは 絶対 海の何処かで
 魚をとっているって。

 だから ボクが そこに行くまで がんばって
 魚をいっぱい とっていてね。

 いつか かあちゃんを舟に乗せて 連れていくよ。

 ボクは とうちゃんみたいな 漁師になるんだ。

 ボクは 漁師になるんだ。
 
 だって、ボクは とうちゃんに会いたいんだ。


その人は すいすいと 漕いでいた
少しでこぼこした歩道を 車椅子の舟で すべるように 進んで行く

その傍らに 近づくことも 離れることもなく
その人の舟に 丁度良い 距離を保って 赤毛の犬がいた


突然 舟が 止まった


舟は、右に曲がりたいらしいのだが 低い 低い 段差がある
私なら 段差がある事さえ気づかずに
歩いて過ぎるだろう 

なのに、その高さに 舟は 止まった


思わず 私の体が 舟へ走りよりそうになった


その時だった

赤毛の犬は その舟から出ている  白いハンカチを
くいっ と
引っ張った

しかし 舟は 後ずさって その高さを超えられない
  赤毛は あきらめずに また 引っ張る


きっ


舟は 小さな音を立てて 後ずさる


「もう 一回」

赤毛と その人は 何かでつながっているかのように
息を合わせて 進もうとする


きっ


何度か 車輪の音がした後 ふいに 舟が  すっと  右に曲がった


「good boy!」


その人の 弾む声に 赤毛は 誇らしそうな
そして いとしそうな目をして
その人を見ていた


立ち止まる私の横を たくさんの人が 通り過ぎて行く
そして その人々のカーテンが
その舟と 赤毛を 一瞬被い隠し すぐに 開いた その時
すでに 二人の姿は 見えなくなっていた


私は 空を見上げた

私は自分の舟を どんな風に 漕いでいるのだろう
その人も 赤毛も 私も 同じ時間に この場所にいた
そして みんな 生きている
それぞれの違う人生を 生きている
きっと 私にも 気がつかないだけで 赤毛が いるのかもしれない
そして 私が赤毛になることもあるのかもしれない

空は 青く 高く 晴れ渡っている


    さあ


自分の舟を 一歩前に出して
一秒毎 前へ 前へと 
漕いでいこう

  • 55 ピーの最初へ

    大変です。

    下にいた動物達も気づいて叫びました。もうピーと地面の間は、ほんの少しです。そして、ピーが地面にたきつけられそうになった瞬間、

    「あっ」

    何処からか白はとのホワイトがやって来てシュッとピーを受けとめました。

    そして、ピーを背中に乗せたまま

    「ピー。ママと今 会ってきたよ」

    と、ホワイトが言いました。

    「えっ?ママは 元気?」

    「ああ、ピーが良い子でいっぱいごはんを食べて早く大人になって欲しいって言ってたよ」

    ホワイトがほほえみながら言いました。

    「ほんと?ねえ、ぼくもママの所へ連れていって!」

    「だめだよ、ぼく一人で行くのだって とても、とても大変だったんだ。とても、ピーを乗せて行ける様な高さじゃないんだよ。ピーには はねがないしね。それより、早く 大人になれるように、元気にごはんをいっぱい食べようね!」

    ピーは 少しさみしそうに下を向いたあと、

    「わかったよ。 ママは 良い子が好きだから、僕良い子でいるよ」

    と、ぽつりといいました。

    ホワイトがゆっくり ピーを地上に降ろして ホーおじいちゃんにピーと話した事を言いました。

    「あれで良かったの?」

    「ああ、それで良い。あの子が 大人になって われわれに ありがとう と言ってくれるように見守っていけば 良いのじゃよ」

    ピーは、おやつのビスケットをかじりながら、 地面につきそうな枝の先に

    星を一つかざりました。 おしまい

  • 55 ピーの最初へ

    ピーはてっぺんにつくと、辺りを見回して さけびました。

    「ママ!ぼくだよ。ママ!近くに来たよ」

    しかし、何の返事もありません。

    その様子を見ていたポッポおばさんが

    「ママは、もっと もっと 高い所にいるのよ」

    と、やさしく言いました。

    すると、

    「ねえ。どうやったら 行ける?」

    と、ピーは涙でいっぱいの目をして聞きました。

    「そうね。それは…大人にならないと 行けないわね」

    ポッポおばさんも今にも泣き出しそうです。

    「ピーでもね。いつか 必ずいける所だから、それまで、良い子でいっぱい ごはんも食べて 大人にならないとね」

    ポッポおばさんは、やっとの思いでほほえみました。

    しかし、ピーは 下を向いたままです。

    そして、突然

    「ママ ママ ママに 会いたい!」

    そう言ってピーは、木のてっぺんから飛んでしまいました。

    「ピー!」

    ポッポ おばさんは 驚いて ピーを受け止めに 急降下しました。

    必死でポッポおばさんは、落ちて行くピーを追いかけるのですが、追いつきません。

    「ピー、あぶない」         つづく

  • 54 それぞれの世界へ

     今年もクリスマスの飾りつけを森の子供達みんなでしています。

    森で一番高くて大きな もみの木にみんな集まっています。

    上は鳥、真中は木登り上手な動物達に飾りつけをお願いします。

    おや、ねずみのピーが飾りを持ったまま 空を見上げています。

    すると、みんなの様子を見ていた 長老のホーおじいちゃんがやって来て言いました。

    「おや? ピーどうした?」

    「うん。あのね。ぼく、木のてっぺんに 行きたい」

    ピーは数ヶ月前、ママが天国へ行ってから、ずっと 元気がなく、ごはんもあまり食べません。

    心配した、ホーおじいちゃんと ピーのパパが クリスマスの飾り付けにピーを連れ出したのでした。

    ホーおじいちゃんは、すぐに 山鳩のぽっぽおばさんを呼んで こそこそと話しをしました。

    すると ぽっぽおばさんは、ウインクをして

    「ピーちゃん。おばちゃんの背中に乗って、木のてっぺんに連れて行ってあげるから」

    と言いました。

    「えっ いいの?」

    「いいわよ!」

    ピーは 喜んでぽっぽおばさんの背中に乗りました。そして、空高く舞い上がりました。 つづく

  • 54 それぞれの世界 最初へ

    ルカとジョナは、お互いの場所をながめながら、うなずきました。

    「あの雲間の小さな青空が小さな海だったらいいのにな」

    ルカが言うと

    「おいおい。そしたら、けっきょく 海にいることになるぞ」

    と、ジョナが、笑いました。

    スワは、くるっと 宙返りして、

    「それじゃ、伝言 伝えたからな」

    と言って、森の方へ飛んで行きました。

    「明日は、親友と会うんだ」

    ルカが嬉しそうに言いました。

    「なんで、あんたの親友なのに つばめが言いに来るんだ?」

    ジョナが不思議そうに聞きました。

    「だって、シュンはうさぎってものだから。森の生き物だ」

    「へえ。それじゃ、お互いの境目まで行かないといけないな」

    「うん。今のぼくときみと同じようにお互いの境目で話しするのさ。そして、どちらの世界にも踏み込んで行かない。でも、とっても仲良しなんだ」

    「あれだ。お互いの世界があって、それにちょっかい出さないから親友でいられるんじゃないか?」

    ジョナが、笑いながら言いました。

    すると、ルカは まじめな顔をして

    「本当に、そうかもな」

    と、言いました。  おしまい

  • 53 コノハとハナコ最初へ

    いるかのルカが水面で6月の雨雲のすきまにある青空をながめていました。

    「いいなぁ。空が泳げたらなぁ」

    そうつぶやいた時、すーと かもめのジョナがやって来ました。そして、ルカのそばに浮かぶと、言いました。

    「そっちこそ、いいよ。おいらも、海の中が飛べたらって思うぜ」

    「なんで?」

    「だってさ。好物の魚だらけじゃないか」

    「ああ…。そういうことか」

    すると、森の方から つばめのスワがやって来ました。

    「ルカって君か?」

    「うん、ぼくだ」

    「シュンが、明日遊びに来るってさ」

    「おぉ。そうか」

    スワは、シュンからの伝言をつたえに来たようです。

    ルカは、世界中を旅するスワに、ジョナとの話しを言いました。

    すると、スワは

    「おれっちが思うに、人間って空も森も海も走れるじゃないか」

    「うん」

    ルカとジョナが、うなずきました。

    「だけど、森以外は乗り物が必要だろ。

    そして、その乗り物がこわれたら命を落としちまう」

    「そうだな」

    「だからさ。それぞれの生きる場所ってあると思うんだ。それぞれのルールってあると思うし。

    それを、こえてそれぞれの場所に入ると、まずいことになると思うんだ」

    「そうか」

    ― それぞれの場所 (世界)で、満足して 生きていくべきなのでしょうね―  つづく