まぼろしの女
織守きょうや 文藝春秋 2024年8月
本所一帯を縄張りに、十手を預かる若い岡っ引きの佐吉。
「相生町の親分」と呼ばれた亡き父の人徳で、周囲の人々に顔を立ててもらってはいるが、いまだ自分の生業に自信が持てずにいる。
ある朝、大川で若い女の死体があがった。裸に剥かれ、真新しいあざと傷だらけ。顔は腫れあがり髪まで剃られているという惨たらしい有様だった。
佐吉はさっそく女の身元を調べ始めるが、いくら聞きまわっても杳として知れない。
下手人は誰か。それ以前に、殺された女はいったい誰なのか?
町医者の秋高とタッグを組み、突き止めた事件の真相とは――
新婚早々に殺された妻と消えた夫。
死体のそばに二十四文銭を残す辻斬り。
寿命が尽きる寸前に殺された男……
男たちの意地。女たちの覚悟。執念と因縁が渦を巻く。
江戸を舞台に仕掛ける大胆不敵なトリック。
著者渾身の時代物本格ミステリ連作集。
織守きょうやさんの新刊を 手にとったら、時代小説だった。
時代ものは、あまり読まないのだが、この作品は、当たり。おもしろかった。
親の後を継いだ岡っ引きの佐吉が、町医者の秋
高の助けを借りて、事件を解決していく。
現代のような科学捜査などない中で、聞き込みや状況だけで、真実を見極めていく。
武士と町人の身分の違い、密通の現場の成敗はお咎めなしなど、この時代ならではのことと、現代につながるジェンダーのことなどをうまくミックスさせたミステリーとなっている。
解決したあとの 一押しがあり、ほっこりしたり、ゾッとしたり……
愛情を感じるものや 自分の将来を見据えての行動を描いたものがお気に入り。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
科捜研の砦
岩井圭也 角川書店 2024年6月
たとえ神に見放されたとしても、科学は彼を裏切らない
科捜研トップと言われる鑑定技術力と幅広い知識、そして、信じられないほどの愛想のなさで警察内部でも有名人の土門誠。科学鑑定に並々ならぬ熱意を捧げ、「科捜研の最後の砦」と呼ばれる土門は、遺体や現場に残された、少しの違和感も見過ごさない。そこに隠されているのがどれほど残酷な事実だったとしても、土門は必ず真実を追究する――。
「最後の鑑定人」の続編。
だが、時代は、さかのぼり、土門誠が科捜研で働いていた時の話。
後頭部が陥没した白骨死体が、数カ所に分散して埋められているのが見つかる。
交通事故で男性一名が車外に投げだされ死亡。同乗者 二名も軽症を負った。
一人暮らしの二十代男性が自宅マンションで亡くなっているのが発見される。
火災があり、出火元の部屋から男性一名の遺体が見つかる。
ここでも、 遺体や現場に残された、少しの違和感も見過ごさず、真実を追求している。
それが、どんな事実であっても、追求の手をゆるめない。
最後の話は、切なかった。
科警研の尾藤との出会いや夫婦生活、また、よく利用するラボの菅野の大学講師時代の過去の話もあり、土門の内面に少し触れた気がした。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
わっしょい!妊婦
小野美由紀 CCCメディアハウス 2023年7月
がんばれ、生きろ。どすこい女!
すべての女にハードモードな社会で、子を産むということ。
「じゃ、ママ、診察室Dへ」
……マ、ママぁーーーー??!!
フレディ・マーキュリーのように、私は心の中で絶叫した。
35歳、明らかに“ママタイプ”ではない私に芽生えたのは「子どもを持ちたい」という欲望だった。このとき、夫45歳。子どもができるか、できたとしても無事に産めるか、産んだとしてもリタイアできないマラソンのような子育てを夫婦で走りきれるのか。それどころか、子どもが大きくなったとき、この社会は、いや地球全体は大丈夫なのか? 絶え間ない不安がつきまとうなかで、それでも子どもをつくると決めてからの一部始終を書く妊娠出産エッセイ。
魂の歌が聞こえるか
真保裕一 講談社 2024年3月
また、芝原修は、送られてきたデモ音源の中に素晴らしい曲を見つけ、名もなき新人バンドのベイビーバードのデビューに力を注ぐ。
このベイビーバードは、本名と顔は明かさずに音楽活動をしたいという。
それはなぜなのか?
というミステリー。
音楽業界のたいへんさを知ることができた。
今は、AIにより、 盗作疑惑も簡単に調べられる。
週刊誌の報道により、人気が左右される。
人気ミュージシャンとして活動続けることの難しさを感じた。
芝原修は、ミュージシャンに寄り添っていて、会社との板挟みになりながらも、ミュージシャンのことを信じている姿がよかった。
ベイビーバードの仲間を思う強い気持ちに感動した。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
天国からの宅配便 時を超える約束
柊サナカ 双葉社 2024年4月
依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人・七星が贈る感動のシリーズ第三弾!
姉を許せないまま生き別れた女性に届いた小包み。高校生が通う大好きな食堂の営業最終日。
子供の頃ファンレターを送った漫画家からの思いがけない返事。老人が美術展で知り合った少年と交わした〝賭け〟。
心温まる四編+エピローグを収録。
この作品、シリーズもので、以前に2作品あることを知らずに読んだが、とてもよかった。
依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人・七星は、少しの手がかりから、配達先を探す。その仕事ぶりに感心。
受け取った人は、思いも寄らない遺品をもらって、戸惑うが、それが新しい発見につながる。
パンドラの秘密箱
弓月の姉陽子は、結婚式の日に、映画の「卒業」のラストシーンのごとくマルコという男が結婚式場から新婦陽子を連れ去る。そんな姉に弓月は昔から振りまわされていた。
食堂ミツコ最後の日
高校生の中江路真智は大好きな食堂のことをSNSでつぶやいたことから、今までお馴染みさんしか訪れなかった食堂に客が押し寄せるようになり……
いつかのファンレター
小学生の時に 月刊誌の漫画にファンレターを出していた。
その作者から遺品が届く。
孔雀石の母子像
戸倉勝義は招待券をもらったので展覧会を見に行ったが、 文部科学大臣省をとった絵を見ても良さがわからないでいた。その絵の前で美大を目指している高校生と言葉をかわす……
今話題になっているSNSの炎上、闇バイトなどの話も盛り込まれていた。
知人や家族のおもわぬ一面を知ることができたり、新しい家族との付き合いが始まったり……
人生を見直すきっかけとなったり……
優しい気持ちになる物語だった。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
あの空の色がほしい
蟹江杏 河出書房新社 2024年の6月
お絵描きが大好きなマコは小学四年生。ある日、風変わりな家に住む、近所で変人と噂される芸術家に、絵を習いたいと頼み込むが !? 二人の奇妙な交流を描く落合恵子さん絶賛の感動小説!
マコは絵を描くのが大好きな女の子。
思ったことをすぐ言ってしまうし、行動にうつすし、片付けのできない子だった。
マコは、自分から頼み込んで、魅力的な家の美術教室に通い始める。
マコに絵を描くことを教える吉本太。
マコのことを唯一無二の存在と言うママ。
マコは天才と絵のことを褒めるパパ。
友だちのユウ。
彼らに囲まれて、のびやかに過ごすマコの姿があった。
しかし……
給食委員会での出来事……
「普通」って何だろう?
理不尽だと思うことがあった時、別の方法で向き合ってほしいというママの言葉は、マコの心に届いただろうか。
吉本太は、芸術のことに夢中で家族のことは二の次。孤独な芸術家といった印象だ。
それでも、マコといる時は、「へたくそ」といいながら、表情が柔らかかった。
変人とうわさされている吉本太とも、普通のように付き合いし、交流を深めていくマコの両親がすてきだ。
途中、悲しい出来事があったけど、最後の方、思わぬ出会いがあって、よかったと思う。
芸術は奥深いと思った。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐
白紙を歩く
鯨井あめ 幻冬舎 2024年10月
天才ランナーと小説家志望。人生の分岐路で交差する2人の女子高生の友情物語。
ただ、走っていた。
ただ、書いていた。
君に出会うまでは――。
立ち止まった時間も、言い合った時間も、無力さを感じた時間も。無駄だと感じていたすべての時間を掬い上げる長編小説。
「あなたをモデルに、小説を書いてもいい?」
ケガをきっかけに自分には“走る理由”がないことに気付いた陸上部のエース、定本風香。「物語は人を救う」と信じている小説家志望の明戸類。梅雨明けの司書室で2人は出会った。
付かず離れずの距離感を保ちながら同じ時間を過ごしていくうちに「自分と陸上」「自分と小説」に真剣に向き合うようになっていく風香と類。性格も好きなことも正反対。だけど、君と出会わなければ気付けなかったことがある。
ハッピーでもバッドでもない、でも決して無駄にはできない青春がここに“在る”。
定本風香は陸上の選手。
本を読むのが苦手。読書家に憧れている。
定本は、ケガで走れなくなり、走る意味がわからなくなり、「走れメロス」を読んで答えを見つけようとする。
小説家志望の明戸類。
学校の司書室に入り浸り、小説を書いている。
「物語は人を救う」と信じている。
運動は苦手。マラソンは友情破壊スポーツと思っている。
この正反対のふたりが出会った所から物語は始まる。
明戸の伯母の店「アトガキ」でふたりは過ごすようになる。
といっても、定本が本好きになるわけでもなく、友情を育むわけでもなく、ふたりの考え方はすれ違っている。
自分の生い立ちからか、ハッピーエンドが書けないと悩む明戸。
走る意味が見つからない定本。
「人生はストーリー」
「人生は一冊のメモ帳」
どちらの考えも共感できる。
いろいろ悩み、考える時間こそが重要なのだと思う。
ふたりを否定しない大人の関わり方もよかった。
ラスト、マラソンは「友情破壊スポーツ」という考え方が変わってよかった。
つかずはなれずのふたりの関係がよい。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
魔者
小林由香 幻冬舎 2024年8月
誰も知らないあなたの過去が、もし、小説で暴かれていたらーー。
言葉で私たちを攻撃する魔者は誰だ?
SNSの炎上、加熱する週刊誌報道……人の不幸を喜ぶ人間がいる。
──お前たちを守るため、人間を喰おう。そうしよう。
週刊誌は事実を報道。
小説は事実でなく創作でよい。
どこまでが事実なのだろう。
お気に入り度⭐⭐⭐⭐
ウバステ
真梨幸子 小学館 2024年9月
逗子の実家に独りで暮らす駒田世津子は小説家。20年前、自身の作品『ウバステ』がTVドラマ化された縁で、元TV局プロデューサーの小野坂哲子、シナリオライターの舘川信代、女優の千田友枝、監督の妻だった谷崎寿々の5人で食事会を続けている。世津子の還暦パーティから三年たった冬、寿々が千駄木のアパートで孤独死したという知らせが入った。謎多き死に一同は憶測をめぐらす。年が明けると、寿々の元夫である梶谷も不審死を遂げた。食事会のメンバーにはそれぞれ、2人から遺書めいた年賀状が届いていた。
孤独死した 時の身元確認とか、引取先とか、住んでいた住居の後始末とか、問題が多い。
たいへん!
おひとり様の終活。
読んでいくつうちに、だんだんとおそろしくなってきた。
高級老人ホーム「ユートピア逗子」
お金のある者と別館の入居者の待遇の違い……
これはひどすぎる。
お金は必要。それに加えて健康でないといけないと思い知らされる。
おひとり様でない場合、遺産相続で、もめることもある。
終活ノート、元気なうちに、書いておかなければーという思いが強くなった。
お気に入り度⭐⭐⭐

















