藍を継ぐ海

伊予原新 新潮社 2024年9月




 

 

172回直木賞受賞!

数百年先に帰ってくるかもしれない。懐かしい、この浜辺に―ー。
徳島の海辺の小さな町で、なんとかウミガメの卵を孵化させ、自分ひとりの力で育てようとする、祖父と二人暮らしの中学生の女の子。年老いた父親のために隕石を拾った場所を偽ろうとする北海道の身重の女性。山口の見島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男。長崎の空き家で、膨大な量の謎の岩石やガラス製品を発見した若手公務員。都会から逃れ移住した奈良の山奥で、ニホンオオカミに「出会った」ウェブデザイナーの女性ーー。
人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。



月まで三キロ 」八月の銀の雪」に続く

科学的な内容を盛り込んだ短編集。


新しい知識が得られてよい。



夢化けの島
地質調査のため山口県の見島に何度も来ている久保歩美は、見島土を探す三浦光平と出会う。
ふたりの出会いが陶芸の世界に広がっていく。

狼犬ダイアリー
奈良の山奥 に移住しフリーランスとして活動を始めるが、仕事がない30歳のまひろ。
彼女は、狼の遠吠えを聞く。

狼犬と出会ったことで、まひろは、やるべきことを見つける。

祈りの破片
 長崎で空き家対策を担当している小寺。
空き家からたくさんの割れたガラス製品や陶磁器が見つかる。

黙々と破片を集め整理する。見返りもないのに、何か強い意志を感じた。


星隕つ駅逓
道内の遠軽町に火球が落下。隕石を探しにアマチュアの団体が来る。
隕石の話と郵便局の話がどうつながるのかと思つたが…
親のためにと嘘を……

藍を継ぐ海
高知県姫ヶ裏のウミガメの卵を持ち帰り自分で孵化し育てようとする小学生の沙月だったが……

以前、弱っていた子ガメと自分の境遇を重ね合わせていた沙月は、このカメの成長を知り勇気をもらう。

 


自然や、狼、ウミガメといった生きものの生きざまが、人に影響を与える。
人との出会いが新しい未来へとつながっていく。

そんな希望の見えるお話だった。

郵便局の歴史や
ハイダ-グワイの トーテムポールの話から黒潮へとつながる話など興味深い。

気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


坂の中のまち

中島京子 文藝春秋 2024年11月




 

 

隣に座るって、運命よ」
文豪ひしめく坂だらけの町の、不思議な恋の話。

大学進学を機に富山県から上京した、坂中真智は、おばあちゃんの親友・志桜里さんの家に居候することになった。
坂の中にある町――小日向に住み、あらゆる「坂」に精通する志桜里さん。書棚には「小日向コーナー」まであり、延々と坂について聞かされる日々が始まった。

ある日、同級生の誘いで文学サークルに顔を出すことになったが、集合先のアパートは無人で、ちょっと好みのルックスをした男の子が一人やってくる。
一緒に帰ることになった真智に、彼は横光利一の『機械・春は馬車に乗って』を「先生の本」といって渡して来、米川正夫、岸田國士、小林秀雄がいまも教鞭をとっているかのような口ぶりで……


ひょっとして、この人、昭和初期から来た幽霊なのでは?

江戸川乱歩『D坂の殺人事件』の別解(⁉)、
遠藤周作『沈黙』の切支丹屋敷に埋まる骨が語ること、
安部公房『鞄』を再現する男との邂逅、
夏目漱石『こころ』みたいな三角関係……

風変わりな人たちと、書物がいろどる
ガール・ミーツ・幽霊譚





こよなく坂を愛する志桜里さん。

坂に関係した書物を集めた書棚もある。


坂に関係した本の話が、空想の世界に広がって、不思議な物語を作っていた。



夏目漱石の「こころ」は既読だが、他の作品は未読。書物の内容を知っていたら、もっと楽しめたのかもしれない。

もちろん、読んでなくても、いろいろな考え方は面白かった。


私には、小日向の土地勘がないのが残念だった。



坂中真智の下宿先の志桜里さん。

おばあちゃんの親友ということだが、彼女の過去に驚きだったが、愛情が感じられた。


隣に座るって、運命?

真智の隣に座った人と友だち?

真智の隣に座った人と恋人?


そんな人間関係を読んでいくのは楽しい。


 そして、この本の装丁が好き。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


さいわい住むと人のいう

菰野江名 ポプラ社 2024年9月



 

 

ある日、豪邸に住む高齢の姉妹が二人とも亡くなった。
老姉妹は、なぜこんな豪邸に二人だけで住んでいたのか―?

地域福祉課に異動になった青年・青葉が紹介されたのは、大きな屋敷に住む八〇歳の老女・香坂桐子だった。桐子は元教師で顔が広く、教育から身を引いてからも町の人から頼りにされていた。妹の百合子と二人だけで暮らしているという――。
物語は二〇二四年から二〇年ごとに遡り、姉妹の人生が少しずつ紐解かれていく。戦争孤児で親戚をたらいまわしにされてきた彼女たちは、いつか自分たちだけの居場所を手に入れて、二人で幸せになろうと誓った。しかし、ある選択を迫られて……。







元教師の桐子は、キリッとしていて 厳しそうだけど、弱い者の立場にたって考えてくれる人で、元教え子など地域の人から信頼されている。

桐子の妹の百合子は料理がうまく、やさしいおばあちゃんって感じの人。

その姉妹がふたりだけで豪邸に住んでいた。

なぜ、こんな豪邸にふたりで住んでいるのか?
20年ごと年代をさかのぼり、その事情が明らかになっていく。


桐子と百合子は、戦争孤児で親戚の家をたらい回しにされていたので、気兼ねなくふたりで住む家を持つことが夢だった。

その夢に向かって、何かを犠牲にし、厳しい現実と向き合ってきた。

桐子は、妹に負い目を感じ、妹のために、家を持つのだとがんばってきたが、妹は、それを望んでいたのか。

百合子は、自分が犠牲になればと思ってうけいれた生活に小さな 幸せを感じるようになっていた。

桐子の気持ちも百合子の気持ちもわかるなあ。


幸せって何だろう?
幸せの定義が、その時その時によって違ってきてもいいのではないだろうか。


桐子は、目標があったからこそ、仕事もがんばれたし、真摯に教師という仕事に取り組んできたからこそ人徳も得ることができたのだろう。

百合子は、 毎日の生活の中に、喜びを見つけられるすばらしい人だ。

生き方も考え方も違う姉妹だけれど、力強く生きた人生がそこにあった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

レモンと殺人鬼

くわがきあゆ 宝島社 2023年4月




 

 

第21回 『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作!

十年前、洋食屋を営んでいた父親が通り魔に殺されて以来、母親も失踪、それぞれ別の親戚に引き取られ、不遇をかこつ日々を送っていた小林姉妹。
しかし、妹の妃奈が遺体で発見されたことから、運命の輪は再び回りだす。

被害者であるはずの妃奈に、生前保険金殺人を行
なっていたのではないかという疑惑がかけられるなか、

妹の潔白を信じる姉の美桜は、その疑いを晴らすべく行動を開始する。





から次へと、想像を裏切られる展開は、読んでいて面白かった。


登場人物達の曲がった考え方が、恐ろしく、狂っているけれど、独特で、こういう考えで行動していたのかと彼らなりの道理を見た気がした。

題名の意味に気づいた時、ゾゾゾー
寒気がした。

お気に入り度⭐⭐⭐



あなたに心はありますか?

一本木透 小学館 2023年9月



 

 

AIに心は宿るか。慟哭の社会派ミステリー

東央大工学部特任教授・胡桃沢宙太は、交通事故で家族を失い、自身も半身に瑕疵を負って車椅子生活を余儀なくされている。
彼はAIロボットに心を持たせるべく、盟友の二ツ木教授と産学官共同の巨大研究開発プロジェクトを立ち上げ、世間の耳目を集めていた。
しかし、キックオフイベントとなる講演会でパネリストとして登壇した教授の一人が壇上で倒れ、帰らぬ人となってしまう。
その後、胡桃沢を含む他の三人の教授たちにも殺害予告が届く。標的にされた胡桃沢たちは、AIの軍事利用に激しく異を唱えていた。





AIロボットに心は宿るのかというのがテーマ。



東央大工学部特任教授・胡桃沢宙太は、交通事故で家族を失い、車椅子生活を送っていた。



彼は二ツ木教授とAIは心を持てるのか?という研究をしている。

そのキックオフイベントとなる講演会でパネリストとして登壇した教授3人と胡桃沢に脅迫状が届く。


彼らは、AIの軍事利用に反対していた。


そのための嫌がらせなのか?


軍事利用を訴える権堂教授と ムロイ重工の室井社長が、すごい嫌なやつだった。


AIとのむきあい方を考えながら読んでいたが……



そんな中で、胡桃沢 教授の助手の結衣が作ったロボットムウバアが可愛いい。

癒やされる。




後半、

これまでの違和感が回収された時、読者は真実を知ることになる。

ええーという驚き。


これは、エンターテイメントではないよ。

人間って恐ろしい。


ロボット もいろいろだろうし、心の定義がどういうことなのかにもよるけれど、このロボットには、心があったと言いたい。

相手の気持ちを思いやる素晴らしい心だと。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



あの日の風を描く

愛野史香 角川春樹事務所 2024年10月



 

 

京都市にある美大の油画科を休学中の稲葉真は、従兄の稲葉凛太郎の声がけで狩野探幽の血縁であり、父が狩野派を破門された清原雪信の娘・平野雪香が描いた襖絵の復元模写制作を手伝うことになった。
チームメンバーは修士二年・土師俊介と修士一年・蔡麗華。
襖絵は、十二面の花鳥図だが、現存するのは九面と切り貼りされた一部のみ。
果たして三人は、復元模写を完成させることができるのか?
創作することの苦悩と幸福を濃やかに描き切った感動長篇





復元模写制作について詳しく知ることができた。

襖絵の、元の絵を模写するだけかと思ったが、そうではない。一部しか残ってないところから、何が描かれていたかを想像し完成させていく。


原本が持つ感動まで模写する〉

という、とんでもない作業なのだ。



美大の油画科の稲葉真は、人気バンドのパフォーマーとして活躍していたが、バンドから外され、大学を 休学、ひきこもる生活を送っていた。


従兄の稲葉凛太郎の勧めで、修士二年・土師俊介と修士一年・蔡麗華と共に、襖絵の復元模写制作に取り組むことになる。


 一から取り組む真の努力、仲間との協力、亡き父との確執、稲葉凛太郎の想い、などが描かれている。


この製作に関わることで、成長していく真の姿がよかったし、芸術の奥深さを感じた。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



星が人を愛すことなかれ

斜線堂有紀 集英社 2024年8月



 

 

解散寸前だった地下アイドル「東京グレーテル」を、ひとりのカリスマ―赤羽瑠璃―が躍進させた。
人気グループとなり輝きだした「東グレ」。しかし光の中のアイドルたちも、ステージを降りれば人生が待っている。
推される側の”恋”と”生”の物語。

「見ててね。私が最高の人生、使い切るところ――」




地球が平らになりますように 

短編のなかにあったが、アイドルと押しに関係した恋愛の物語。



アイドルとしての仕事を優先したいから、恋人と別れようとする雪里。


ルイがファンと関係を持ったことが許せない希美。

ルイを炎上させたことで別れることになる。

それでも、まだ、ルイのことが忘れられない。





赤羽瑠璃は、

愛じゃないならこれは何
では、無名の地下アイドルだったが、今は人気が出てテレビにも出演するようになっていた。


地下アイドルだった赤羽瑠璃は、めるすけの理想になるように してきたことで、次第に人気がでる。

赤羽瑠璃は、めるすけのことをファンのひとりとしてではなく、彼に恋をしていた。



赤羽瑠璃を全力で応援するめるすけ。

それは、押しとして。

めるすけの恋人は冬美。

押してくれるめるすけに恋をしている赤羽瑠璃。


押しに嫉妬する冬美。


めるすけに声をかければ、付き合うこともでかるかもしれない。けれど、 それはめるすけの理想の赤羽瑠璃でなくなるかもしれないと悩む赤羽瑠璃。



仕事としてのアイドルと、私生活の恋人。

どちらを優先させるのか?


アイドルたちの葛藤をリアルに感じる。


それぞれが真剣なだけに、どうなるのが一番の幸せなのか、よくわからなくなってきた。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐







罪名、一万年愛す

吉田修一 角川書店 2024年10月



 

 

横浜で探偵業を営む遠刈田蘭平のもとに、一風変わった依頼が舞い込んだ。九州を中心にデパートで財をなした有名一族の三代目・豊大から、ある宝石を探してほしいという。宝石の名は「一万年愛す」。ボナパルト王女も身に着けた25カラット以上のルビーで、時価35億円ともいわれる。蘭平は長崎の九十九島の一つでおこなわれる、創業者・梅田壮吾の米寿の祝いに訪れることになった。豊大の両親などの梅田家一族と、元警部の坂巻といった面々と梅田翁を祝うため、豪邸で一夜を過ごすことになった蘭平。だがその夜、梅田翁は失踪してしまう……。




探偵の遠刈田は宝石探しで、米寿祝いの梅田翁のいる島を訪れるが、梅田翁が失踪してしまう。

孤立した島、外は台風で大荒れ……

1970年代に多摩ニュータウンで起きた主婦失踪事件と関わりはあるのか?



遺言書や三つの映画の中にヒントがあり、先が気になり一気に読んだ。


現実味のない話だと思ったが、

戦争孤児の話は、事実なのだろう。

つらいものだった。

それだけに、一緒にすごした人との時間は大切なのだろうと思う。


お気に入り度⭐⭐⭐


六色の蛹

櫻田智也 東京創元社 2024年5月



 


昆虫好きの心優しい青年・魞沢泉。彼は行く先々で事件に遭遇する度、真実を解き明かすと共に、巻き込まれた人々の悲しみに寄り添うのだった……。ハンターたちが狩りをしていた山で起きた、射殺事件の謎を追う「白が揺れた」。花屋を訪れた客たちの注文から、ある人間関係の真相が浮かび上がる「赤の追憶」。埋蔵文化財センター宛に届いた、工事現場から不穏な埋蔵物が出たという連絡がきっかけで、過去の捏造騒動の真実を暴く「黒いレプリカ」など全六編。




サーチライトと誘蛾灯」「蝉かえる」に続く魞沢泉シリーズ、第三弾。

今回も、魞沢の虫好きと推理力が光る。



白が揺れた

へぼ取りで初冬の山に入った魞沢。蜂を追ううち師匠と離れ、鹿の狩りをしていた串呂と行動を共にするが、腕を振っている三木本の所に行くと梶川が撃たれて倒れていた



赤の記憶

春の季節にポインセチアを売っている花屋。「ミヤマクワガタ入荷しました」という広告に昆虫と勘違いした魞沢が花屋に……


黒いレプリカ

遺骨発掘現場で遺骨が見つかり……


青い音

音楽に疎い魞沢が知人からもらったコンサートに行くが、その街の文具店で知り合った古林の話を聞く




黄色い山

白が揺れたの続編


緑の再会

赤の記憶の続編


色が短編の題名となっている。


赤の記憶とそれに続く緑の再会、青い音がお気に入り。

親子の愛情が感じられ、だまされ感がさわやかだった。


魞沢の人に寄り添う優しさが好き。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


蝉かえる

櫻田智也 東京創元社 2020年7月


 


 

 

ブラウン神父、亜愛一郎に続く、"とぼけた切れ者"名探偵である、昆虫好きの青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていたーー。 16年前、災害ボランティア中の青年が目撃した、神域とされる森に現れた少女の幽霊。その不思議な出来事に対し、エリ沢が語った意外な真相とは(表題作)。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件の謎を解く、「コマチグモ」など5編を収録。注目の若手実力派・ミステリーズ! 新人賞作家が贈る、ミステリ連作集。




六色の蛹」の前の作品ということで、この本を手に取ったが、これよりも前に「サーチライトと誘蛾灯」があったとは!


順序は前後してしまうが、この作品から読んだ。


蝉かえる

ボランティアに参加した時見た幽霊の正体は?


コマチグモ

団地で起きた負傷事件に向かう救急車が、交差点で起きた交通事故の現場を通るが……


彼方の甲虫

魞沢が招待されたペンションに、中東からきた青年も泊まりに来ていた。

彼は朝食の時間に食堂にあらわれなかった


ホタル計画

編集長の斎藤に、バッタくんから、繭玉カイ子さんがいなくなったと電話があった。



サブサハラの蠅

魞沢の大学の同期であり「越境する医師たち」に参加する江口と魞沢は空港で再会するが、江口はハエのサナギを持ちかえっていた




昆虫の名前が短編の題名となっている。


魞沢は、昆虫好きで、ひょうひょうとした感じだけど、鋭い視線で事件を解決していく。


昆虫のうんちくと出来事の謎がうまくからまって、おもしろいミステリーとなっていた。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐