ななしのこや
泥棒は刑務所から脱走した。
町に爆弾が落ち、刑務所の壁が壊れてしまったのだ。
だから、泥棒は町へ逃げ出した。
だけど、すぐに指名手配されたから、泥棒は山にかくれた。
山には一軒の小屋があった。泥棒は、その小屋を盗んで自分のものにしようと思った。
でも、それは、ななしのものだった。
「なんだ、おまえ、ここに住んでんのか?」と泥棒はいった。
ななしは何も答えなかった。
「でも、俺は泥棒だ。今日からこの小屋は俺のものだ。わかったな? さからったら、ひどいめにあわすんだからな」
それで、泥棒とななしは一緒に暮らすことになった。いくら泥棒がでていけといっても、ななしはでていこうとしなかった。
だから、仕方なく、泥棒はななしと一緒に住むことにした。
泥棒は気が向くと、町にでて、宝石や金を盗みにいった。
盗んだものは、ななしの小屋に隠しておくことにした。
だけど、ある日、泥棒は失敗してしまった。罠にかかってケガをしてしまったのだ。
泥棒はすぐに逃げたのだけど、足から流れ出る血のあとをたどられて、たくさんの警察がななしの小屋にやってきた。
泥棒は屋根裏にこっそりと隠れた。
それで警察はななしを泥棒だと思って逮捕した。
「やい、おまえ」と警察はいった。「お前、名前はなんていうんだ?」
だめだめ、と泥棒は思った。ななしには名前なんてないんだから。
でもななしは答えた。
「俺の名前は、ロロだよ」
それは、泥棒の名前だった。
そして、泥棒は連れて行かれ、小屋に、またななしが残った。
やせんびょういん
白衣の女の子は、野戦病院にいた。
何か技術を持っていたわけじゃない。
とにかく、人手が足りないからって、国から呼び寄せられたのだ。
毎日、病院に誰かが運ばれて、その分だけ、誰かが死んでいった。
ある朝、二人のけが人が運ばれてきた。
一人は、S国人で、もう一人は、自国の兵士だった。
S国人は、足をなくしたが、とても元気だった。
だけど、同胞の男性は、意識を戻さなかった。
もう、戦争も終わったのに、と彼女は思った。
先日、戦争が終わり、みな帰る準備をしているところに、彼らはやってきたのだ。
みなの予想とは違って、それからも毎日、負傷者は病院にやってきた。
それで、はじめて白衣の女の子は気がついた。
まだ、戦争は終わってないのだと。
「ねぇ、キミ」と一人の兵士がいった。
白衣の女の子は、どうしたの? といった。
「僕の横のぐるぐる巻きは、助かるのかい? 見たところ、見込みはなさそうだけど」
白衣の女の子は、そんなことないのよ、といった。
それから、一ヶ月、ぐるぐる巻きの彼は、野戦病院の人気者になった。
なぜ、そうなったのか、みなもよくわからない。だけど、とにかく彼は人気者になった。
もちろん、意識はない。ぐるぐる巻きのままだ。
だから、白衣の女の子は、とても不思議だった。なんで、あの人の周りに、みんな集まるのだろう?
みな、食事は彼のベッドの周りですませたし、夜巡回にいくと、みな彼の周りでトランプをしていた。
だから、白衣の女の子は、とても不思議だった。
ねぇ、アナタには、不思議な力でもあるのかしら? と、彼女は彼に囁いた。アナタは、もう歩けないし、話すこともできないわ……。だけどね、アナタは、みんなの人気者なのよ。ねぇ、アナタ、そのこと知ってる?
それからまた一月たつと、少しずつ、兵士は自分の国に帰っていった。ドクターの数も減る一方だった。
でも、やっぱり彼女は、まだそこにいた。
彼女は、彼の担当だったから。
「ねぇ、ベン?」と白衣の女の子はいった。
「なに? どうかしたの?」
「――この人、もう人気者じゃないのかしら? みな、戦争のことも、ここでのことも、忘れちゃうのかしら? ねぇ、どう思う? ベン」
「みんな、忘れやしないさ。キミのことも、みんな、とっても好きなんだから」
「ねぇ、ベン。この人の名前、なんていうのかしら? どうしたら、それがわかるのかしら?」
「ねぇ、僕は、明日、国に帰るんだ」とベンはいった。「だけど、ほんとは帰りたくないんだ。大切なものを忘れていっちゃいそうでさ。ねぇ、キミは、まだ帰らないの?」
そして、病院には、一人のドクターと、白衣の女の子、そしてぐるぐる巻きの彼だけになってしまった。
「ねぇ、もう、国に帰るといいよ」とドクターはいった。「じきにここも閉鎖する。誰もいなくなるんだ。キミだって、国に待ってる人がいるんだろう?」
「――恋人がいるの」と彼女はいった。
「なら、帰るべきだよ。彼のために、それから彼のためにも……」
ドクターの視線の先には、一台のベッドがあった。
だけど、彼女は帰らなかった。
ある日、奇跡がおきた。
いつものように彼のシーツをかえていると、彼が目を覚ましたのだ。
「ねぇ、ドクター! みて! 彼が目を覚ましたのよ! ねぇ、ドクター!」
その日の夜、残党掃討作戦をおこなっていた爆撃機の誤爆で、その野戦病院は、あとかたもなく消し飛んでしまった。
その病院跡からは、ふたつの死体が見つかった。
小人と死んだ巨人
小人には、ひとりの友人がいた
とても大きい巨人で、巨人は、小人を肩に乗せて歩いた
小人は、満足だった
他の小人は、ずっと下にいて
肩の上の小人を眺めているから
だから、小人は
自分のことを王様なんだと思った
巨人と小人が知り合ったのは
もうずっと昔のことだった
記憶にないくらい、ずっと昔だった
だから、小人はこう考えた
きっと、僕らは初めから、ずっと一緒だったのさ
巨人はとても無口だった
何の不満もないように見えた
小人が、あっちに行け、といえば
すぐにいったし
こっちに行け、といえば
そっちにいった
そんな巨人のことを
小人は、とてもいい友人だと考えた
しかし、100年たって
100年と1日たって
とつぜん、巨人は死んでしまった
どう、と大きな音をたて
大地に倒れ、死んでしまったのだ
それで、小人はひとりぼっちになった
他の小人は、そんな小人を
かわいそうな奴だ、といって
仲間に入れようとした
しかし、その小人はそれを断った
小人は知っていたのだ
他の小人たちが、自分をなぜ
自分達の仲間にしたがってるかって
それがわかったから
小人は、とても悔しくて
そして、悲しかった
それから、また100年たって
別の土地から
一人の巨人がやってきた
その巨人は、やはり無口で
あの巨人によく似ていた
そして、その肩には
見たこともない一人の小人がのっかっていた
その小人は、やはり巨人を友人だと思い
そして、いつも一緒にいた
が、やがて100年がたつと
また巨人は死んだ
その頃になると
前に、巨人の肩にのっていた小人は
もう、小人達の仲間に入っていた
200年を1人で暮らしていくには
小人のからだは、小さすぎたのだ
もし、そのせいで
からだがぐちゃぐちゃになってしまっても
もう、きっと、誰にももんくはいえないものなのだ
だけど、あの小人
新しくやってきた小人
大切ないとおしい巨人を失ったばかりの
小人は、けっして村の仲間に入ろうとしなかった
小人はいうのだ
わかってるんだ!
なぜ、お前らが俺を仲間にしたがってるかって!