やまなし光学研究所
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恋すること

僕が誰かを好きになるとき

この世界のどこかで、必ず誰かが

誰かのことを激しく憎んでいるんじゃないかって

そんな風に思う


それは、思ったよりも近くで

そして、思ったよりも当たり前に

僕の周りをぐるぐるまわる


ねぇ、やめてよ、と僕はいう


けど、そいつはやめない


僕がやめるまで、そいつも決して

やめることができないのだ


だから、僕はもういやになる


本当に、心底嫌になってしまうのだ


それでも、誰かに恋をするのは悪くない

それでも、誰かに好きだっていってもらうのは

悪くない


ふがふがいいながら

ぐるぐる踊って

よっぱらいみたいに坂をころげおちて

それから、サーカスをみにいくのだ


ねぇ、不思議な夜だね、と彼女はいう

そうだねぇ、と僕はうなづく


こういう時は、満月がでればいいと思う


空高く舞うボールは

ギラギラ輝き

僕はぼんやりとそれを眺める


じいちゃんになっても

たぶん、かわんないんだろうなぁと思うのだ


ヒナからヒナヒナ

コウノトリがヒナを産んだ。


で、そのうちに、そのヒナもヒナを産んだ。


ヒナは、自分が何のために生まれてきたのか

よくわからないままに

次のヒナをどんどん産む


そして、さらに世界を混乱させる。


しかも、たちの悪いことに

彼らは、人間の子をカゴに入れて運んだりする


人間はそれはそれで喜ぶ


けど、やはり人間も、それを運ぶコウノトリも

何がなんだかよくわからない


やがて、コウノトリが運び

人間が育てた1人のボウヤは、立派な哲学者になった


彼は色々なことを難しく

ひじょうにわかりにくく説明ができる


しかし、どうしたって説明できないことがある


それは、ヒナのことだ


よくわかないから彼はある日

ヒナに話をききにいった


「ねぇ、なんで、キミはヒナを運んだり

 産んだりするの?」


すると、ヒナは答えた


「ブエブエッ!」


そして、哲学者は悩んだ


死ぬまで悩み

結局、わからなかった


死ぬ間際、彼が弟子達を呼び寄せ

一言だけいった


「ブエブエッ!」


そして、彼が死んだあと

彼を追うようにして

数人の弟子たちが死んだ


哲学には、実に色々な解決方法があるに違いないのだ


ブエブエッ!

それは、昔、力をもっていた。とても強く、あらがうことのできない力だ。

「弱虫なんだな、僕ってやつは……」と僕はいった。


それに対して、子供たちは実に難しそうな顔をして

こういった


「それじゃあダメだ! それじゃあダメだ!」


そんな風に子供達はいう。


「そんなふうじゃあダメだ」

「だってキミはもう大人なんだぜ」

「それに恋人もいる」

「結婚だって一度した」

「お金もある」

「家だってある」

「なんでもある」

「けど、キミはいつまでたっても――」


弱虫なのだ。


だけど、そんなの不公平だ。

だって、僕は好きで弱虫に生まれたわけじゃない。


だってそうだろ?

赤ん坊をみてみろよ。

産まれたときから、もう何か

自分の名前を勝手にきめられて

なんだかわかんないうちに色んなことが

僕らの知らないところで決め付けられるんだ。


ずっとさかのぼれば、ご先祖様にだって

文句いえちゃうんだから

僕なんてさ


でもそれだって

みんな、どうしようもないって

とにかく、今の自分を認めて

それを知った上で生きろっていうんだ


けど、そんなの馬鹿げてる

いったい、道路で轢かれてぺちゃんこになった

子猫と何が一体どう違うってんだ!


彼らは道路で重苦しい鉄の塊にひかれて

するめみたいになるのが、そのすべてだってのかい?

それとも、誰かに同情をしてもらうため?


いい? 命ってのは、儚いものなんですよ、ボウヤ……

ってな風に?


バカげてる

僕は

だから、僕はどうしても弱虫になっちまうんだ


若くして、うまくいって

いろんなことがうまくいって

でも、それでも

僕は


この僕は、どうしたって

何をしたって

ほんと、ダメなんだな


けどわかってる


こんなこというと、また

子供達がやってきて

いぢわるするんだ


決まってる!


「ダメだなぁ」

「ほんと、みてらんないよな?」

「そうそう。みてらんない」

「いい歳した大人がさ……」

「俺だったら、もっとうまくやるね」

「俺もそうさ」


「まあ」と最後に子供はいうのだ。


「少なくとも、こいつよりは、きっともっとずっとうまくやるね」


それで巻き上がる拍手。

歓声、沸きあがる衝動。


僕はただそれを眺め

ひんやりとした床に頬をつけて

たまっていく涙を眺め続ける。


けど僕にだっていいたいことがある。

いや、違うな。

いってもらいたいことだな。


そのあとなら、僕はすごくなんでもできるような

気がするんだ。


それは、たった一言でさ

ほんと、馬鹿げた言葉なんだけど

すごく必要なんだ

僕にも、そして子供たちにも


ほんと、恥ずかしくわらっちゃんだけどさ

それはこういうことなんだ


「よく、できましたって」ってね。

ハチミツ畑

「ハチミツ畑は、もうおしまいだ!」と、ネイザンは叫んだ。


「そらみたことか! いったとおり! いっととおりさ、おれの! いいか? いくら俺たちが、花を育てたって、蜜をかき集めたって、もう全部ダメになっちまったのさ! 全部、人間のせいなんだ! いいか? 俺のいったとおりだ! 何をしたって、どうしたって、ここは、もう、俺たちの世界じゃあないんだ! ここは、もうぜんぶ、人間の人間のための世界なんだ! それが、お前の目には、どう映る、カフボイ」


すると、カフボイは答えた。


「それは、違う! それは違うさ、ネイザン! 僕らのうちを作ったのは誰だい? 人間じゃないか! 彼らが、死に損なった、僕らを拾って、暖かい家まで、与えてくれたんだ! それをキミは、よくいう! よくいうもんだよ、ねぇ、ネイザン!! いいかい? 僕らは、あの時、死んだのさ。そして、命を与えてくれたのは、人間だ! なら、僕らは、彼らに恩を返すべきなのさ! そうなのさ! そうすべきなのさ!」


すると、ネイザンは答えた。


「違う! ちがうさ、カフボイ! 違う! それは違う! いいか、俺がいっているのは、そんなことじゃないのさ、カフボイ。問題なのは、人間が、全部死んでしまったことなのさ」


「人間が死んだって? それまあどういうことなんだい!?」


「わからんよ。俺にも、わからん。カフボイ。今朝、当番の俺が、人間のところにいってみれば、もう全部、死んでいたんだ。だから、もう俺たちも死ぬしかないんだ。カフボイ。つまり、奴らの都合で生かされて、奴らの都合で死んでいく。俺たちの生は、そんなふうにして、掻き消えていくのさ」


「しっ!」とカフボイはいった。「あの足音はなんだろう? 人間の足音みたいだけど」


「どうやら、俺たちの命は助かった」とネイザンはいった。「新しい人間様のご登場だ」


「だけど、今度の人間は、ハチミツが好きだと思うかい? もし、嫌いなら」


「ピーナッツバターの花でも、育てるか?」


「レモネードの花でもいい」



それを後ろの茂みで盗み聞きしていたネズミがこういった。


「ギギギ! こいつらは、何百年、同じこと話続けているんだろうねぇ……、大変だ、人間って奴ぁ……」



うた

好きな歌手がいた。


もう、どこにいったのかもわからないけど、でも、僕には、あの頃、好きな歌手がいた。


歌手は歌を歌い、僕はそれをきいた。電車の中で、狭い部屋で、気が向くと電話しながらだってききもした。


それからずいぶんたって、僕は、歌を聞かなくなっていた。だから、歌手も、もう歌う必要がなくなり、ゴミ箱に捨てられた。


歌手はいう。こんなことをいう。


今まで、僕は歌ってきたんだ。必死になって、何度も何度も、同じ歌を歌い続けた。もう何もキミに伝えたいことなんて、なかった。けど、僕は歌った。なぜって、キミが僕に歌えっていうから。だから、僕は何度も歌ったんだ。そのうちに、わかんなくなった。なぜ、歌には、詩と曲があるのかなんて。なぜ、それがなきゃ、それでなくちゃいけないんだろうって、そう僕は思った。それまで、僕は気づかないふりをしてた。そんなことはないさ。大丈夫。誰も知らないさ、って。だけど、それは違った。だから、今、僕はこうして、捨てられちまったんだ。何も考えずに、ただ、好きだから、気持ちいいから、人に認められたいから、ただ、ただ、僕は自分勝手に、僕のこと、きいてほしかったんだって……。


けど、それに対して、僕は冷たくいった。


それは違う。ぜんぜん、違うさ、と。


僕が歌をもう聞かなくなったのは、そんなことじゃない。そういうことじゃあないんだ。僕は、キミのことが好きだった。けど、もうずっと前に、僕はキミのことが、突然に、好きじゃなくなったんだ。


ただ、それだけのことなんだ。


ヘンテコな理由だとか、かっこいい言い訳だとか、意味だとか、そんなの関係ない。


ただ、それだけのことなんだ。


そう、僕がいうと、歌手は、自分の首をしめ、歌を歌った。口から漏れる、その声は、確かの、あの頃、何百回もきいていた歌だった。

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