今回の共通テスト物理についての解説と評価の続き、その2です。
前回は第1問の問1から問3までを検討しました。このうち、問2、問3は、正答率の低いタイプの問題でした。なにか、今回の物理は、不穏なものを感じますね。
今回は第1問の後半を検討しましょう。
では、次の問4へ進みましょう。
第1問(問4)は、コンプトン散乱の問題です。光子のエネルギーと運動量の式について、ちゃんと基本的な知識が問題文の中に書いてあります。そのへんは丁寧ですね。これらの式については、本来は知っているのが前提なので、与えられていなくても文句はいえないところなのですが。思考力を試す問題にするためか、前提部分でこけないように配慮してくれています。
問題の内容も、それほど高くありません。衝突の際の運動量保存則の式も与えてくれていますから、やはり丁寧な問題づくりといえるでしょう。この問題は標準的といえます。
解答はこんな感じで、とくに難しい問題ではありません。
(ウ)について:光子と電子のエネルギー保存則の式が必要ですが、計算して解くのではなく、衝突後の光子の波長が長くなるか短くなるかを判断するという定性的な問題になっています。基本的な問題ですね。
コンプトン効果を授業で習った学生なら、衝突後、光子の波長が長く(大きく)なることは常識的に知っているでしょうから、以下の計算はしなくても、答がわかります。
でも、一応、基本的な解説をしておきますね。
衝突前の光子のエネルギー=衝突後の光子のエネルギー+衝突後の電子のエネルギー
となるので、
衝突前の光子のエネルギーhν>衝突後の光子のエネルギーhν'
とわかります。
したがって、ν>ν'
また、波の要素の関係からc=νλなので、ν=c/λとなりますから、
c/λ>c/λ'
これから、λ'>λとわかります。
つまり、衝突後の光子の波長はもとの波長より長く(大きく)なる。
→ウは「大きい」
(エ)について:式が与えられているので、それにθ=90°と、λ’=λを代入して数学的に計算しても、答は出せます。θ=90°という特殊な場合について解かせているので、通常の計算問題より簡単です。
与えられた式に代入して解くのでは、物理的なイメージが掴めませんので、上の解答のように、θ=90°の場合のコンプトン散乱の図を自分で書いて、式を立て直したほうが、何が置きているのか、イメージが作りやすいでしょう。
運動量は両方向とも保存されるので、まずy方向について考えると、衝突前はy方向の運動量は0でしたから、衝突後の光子の運動量と電子のy方向の運動量を足すと0になるはずです。
光子の運動量はh/λ、電子の運動量はmvですから、y方向の運動量保存の式は、解説の<2>式になります。
0=h/λ'+(-mvsinφ) <2>
x方向の運動量保存の式は、衝突後の光子のx方向の運動量は0なので、衝突前の光子の運動量=衝突後の電子のx方向の運動量となり、解説の<1>式になります。
h/λ=mvcosφ <1>
コンプトン散乱では、衝突後の光子の波長λ'がもとの波長λより長くなりますが、もとの波長λに比べてわずかに長くなるだけなので、近似的にλ'=λとしてもよい。これも問題文にヒントとして書いてありますから、解きやすくなっていますね。
<1><2>から、φ=45°と、すぐにわかります。
→エは「45°」
この問題は、非常に良心的というか、標準的な問題となっています。
が、誰でも必ず解ける、というほどの基本問題でもありません。
受験生によっては、解き方がわからなかったという人もいるでしょう。
→[5]の答は「2」ウは「大きい」エは「45°」
第1問(問5)は単原子分子気体の内部エネルギーなどに関わる問題です。
これは、標準的な共通テストレベルより難しいですね。
理解度の高い学生でも、迷うでしょう。
うーん、共通テストに出題するなら、もう少し考えやすい問題にした方がよかったでしょうね。これは正答率が低かったのではないでしょうか。(a)(b)についてはまだわかるでしょうが、(c)についてはどう判断したら良いのか、迷うでしょう。
解説をみてもらえれば、この問題の難しさがおわかりいただけると思います。
まず、2つの気体をA、Bとすると、問題文の条件はA、Bは同じ種類の単原子分子の気体で、圧力pと体積Vが等しい、ということになっています。また、同じ種類の気体なので、原子の質量mも等しい。
それ以外の量は等しいとは限らないので、温度、物質量(モル数)、分子の速度は異なるとして考えます。
いきなり考えるのは難しいので、選択肢から考えていくと、(a)(b)は比較的考えやすいですね。
すぐに判断できるのは、(b)分子1個あたりの平均運動エネルギーKですね。
分子1個あたりの平均運動エネルギーKは絶対温度Tに比例します。問題文より、AとBでは絶対温度Tが異なるので、分子の平均運動エネルギーKもAとBで異なることになります。
したがって、(b)分子1個あたりの平均運動エネルギーは等しくない。
→(b)は✗
つぎに、単分子気体の内部エネルギーUは、U=3/2・nRTになりますが、このままではこの問題がわかりません。
気体の状態方程式pV=nRTと合わせて考えることで、気体の内部エネルギーUを次のように書くことができます。
U=3/2・nRT=3/2・pV
そこで、(a)内部エネルギーですが、この式で考えると、すぐにわかります。
AもBも、pとVが等しいので、この式から、内部エネルギーU=3/2・pVが等しいことがわかりますね。
よって、(a)内部エネルギーはAとBで等しい。
→(a)は○
最後に(c)分子の二乗平均速度と物質量の積について考えてみます。
平均を<>で表すことにすると、
二乗平均速度は√<v^2>つまり、vの2乗の平均値<v^2>の√の値のことです。
解説にあるように、内部エネルギーUが等しいことから、AとBでは、
nRTが等しい、つまりnTが等しい
ことがわかります。
一方、Tは分子の運動エネルギーの平均値1/2・m<v^2>に比例するので、Tは<v^2>に比例します。そこで、
AとBでは、n・<v^2>が等しい
ことがわかりますね。
これは文章にすれば、「分子速度の二乗平均と物質量の積は等しい」となりますが、これは(c)の「分子の二乗平均速度と物質量の積が等しい」ということにはなりません。
式で表したほうがわかりやすいのですが、
n・<v^2>は等しい。
n・√<v^2>は等しくない。
ということになります。
→(c)は✗
これはなかなか、判断しにくいですね。
教科書の内容を理解しているかどうかを問う共通テストのレベルで出題する問題としては、不適切であったと思われます。
(a)(b)はともかく、(c)については何をどう判断するか、想像もつかなかった受験生がいたのではないでしょうか。
これは厳しい問題です。
→[6]の答は「1」(a)のみが正しい
さて、こうして第1問を見ていくと、[1]〜[6]のうち、半分の[2][3][6]が正答しづらい、難しい、もしくは、間違いやすい問題でした。
今回の全国平均が5割なかったのも、この第1問を見るだけで、だいたいの想像ができますね。
通常、第1問は物理全体を通じての基本知識を問う問題で、第2問、第3問が応用問題という構成になるのですが、第1問からこれでは、先が思いやられます。
今年の物理受験生は、大変だったと思います。
では、今回はこのへんで。
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