今回はいよいよ剛体の釣り合いの一般的な解法です。
基本的には、力のつりあいの式(並進運動についてのつりあいの式)と力のモーメントのつりあいの式(回転運動についてのつりあいの式)を連立させることで、すべての問題が解けます。
力のつりあいの式は運動方程式で加速度が0になる特別な場合です。運動方程式はもちろん、ニュートンの運動の3法則をもちいて立てていきます。
力のモーメントのつりあいの式は、ガリレオが創案した力のモーメントを用いたつりあいを式にします。大学では、剛体が回転運動で加速する場合の式(力のモーメントの運動方程式に当たるもの)を学びますが、力のモーメントのつりあいの式は、回転の加速度(正確には角加速度といいます)が0になる特別な場合にあたります。
剛体のつりあいは、いってみれば、ニュートンとガリレオの発見した原理を用いて解くことになります。
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新・物理ネコ教室は次の構成となっています。
前半【講座プリントとその概要】講座構成の背景を解説。対象は物理学のより深い理解を目指す高校生・一般・教師の方。
後半【講座内容】高校物理の講座公開。対象は高校物理を学習したい高校生・一般の方。
物理学についてより深い理解を得たい方は前半から御覧ください。高校物理の具体的な内容だけ学びたいという方は、後半だけご覧になっても構いません。
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【講座プリントとその概要】
1.剛体のつりあいの式の立て方
剛体のつりあいを解決する基本的な手順を示してあります。
(1)力の見つけ方と描き方
物体が受ける力だけを物体ごとにすべて描き込む。
これは、通常の力のつりあいの式や運動方程式をたてる時と同様です。
物体を1つずつ見ながら、その物体が受けている力をすべて描き込むことは、案外難しく、間違いやすい。問題を解けない人のうち、かなりの数の人が、そもそも図を描かずに解こうとしているか、矢印が足りなかったり余分だったりする図を見て解こうとしています。だから、間違うんですね。
力の矢印を正しく図に描き込むことが、問題を解くためにもっとも重要なことです。
(2)力のつりあいの式
方向ごとに力のつりあいの式(Fの和=0)を立てる。
これは図を見ながら、力Fの和を書いていくだけなので、(1)の図が正しく描けていれば大丈夫です。
(3)力のモーメントのつりあいの式
支点のまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てる。
こちらは、図が正しく描けていても、よく間違える人がいます。
「力のモーメント=力×うで」ですが、力とうでが斜めのとき、互いに垂直な関係を意識して、力を分解するやりかたとうでを分解するやり方があります。この問題を間違える人の多くは、うでを分解して計算する方法を忘れてしまっています。
本来はどちらのやり方でも計算できるのですが、力を分解する方法だと計算が複雑になったり、積分を使わないと計算できないケースがあるので、うでを分解する計算方法もマスターしておく必要があります。
(4)方程式を解く
これは純粋に連立方程式の問題です。
なお、未知数が3つの通常の問題の場合、普通のやり方は、
・ある支点のまわりの力のモーメントのつりあいの式を1つ
・x方向、y方向の力のつりあいの式を1つずつ
この3つの式を連立させて解きますが、式が3つあればよいので、次の方法でも解けます。
<別の解法>
・ある支点まわりの力のモーメントのつりあいの式を1つ
・別の支点まわりの力のモーメントのつりあいの式を1つ
・x方向、もしくはy方向の力のつりあいの式を1つ
この3つの式を連立させて解くこともできます。
問題によって使い分けるとよいでしょう。
2.(例)ななめに立てかけた棒のつりあい
練習用の例題として、もっともよく出題される斜め棒の問題を取り上げます。
この問題では、通常のつりあいの問題を解くこと以外に、摩擦力の性質も考慮にいれなくてはいけないので、それらがごっちゃにならないよう、整理して解くのがよいでしょう。
3〜4.
こちらは2.と同じタイプの問題です。練習用に置いてあります。
5.こちらは、すべての力が平行なので、力のつりあいの式はy方向の式だけになります。未知数が2つだけなので、あと1つは力のモーメントのつりあいの式を立てればよいですね。
この問題では、もう一つポイントがあります。それは、棒が支持台から離れる時、垂直抗力が0になるということです。これさえ抑えておけば、難しい問題ではありません。
【講座内容】
1.剛体のつりあいの式の立て方
今まで剛体のつりあいについて、力のモーメントのつりあいの式の立て方を学んできました。
しかし、静止している剛体は、回転運動についてだけではなく、並進運動についてもつりあっているので、力のつりあいの式も立てる必要があります。
ここでは、その両方を連立させて解く、一般的な剛体のつりあいの問題の解法の手順を学んでいきましょう。
(1)力の見つけ方と描き方
剛体のつりあいでも、最も大切なのは「力の矢印を正しく描く」ことです。
これは力のつりあいや運動の法則でも同じです。
つりあいや運動方程式の問題では、解くときの間違いの8割は「力の矢印を図中に正しく描けるかどうか」で決まります。残りのうち1割は式の立て方の間違い、最後の1割は連立方程式を解くときの失敗です。
プリントにはありませんが、念のため、力のつりあいのときに学んだ「力の矢印の描き方」について、ちゃんとやれるかどうか確認しておきましょう。
<力の矢印の描き方>
・物体が受ける力だけを物体ごとにすべて描き込む。
・すべての力に作用反作用があることに注意する。
これをいまだにちゃんとできない人がいて、何回やっても間違えます。
複数の物体があるとき、物体1つ1つに順に、物体が受けている力の矢印を描き込んでいきます。
物体は力を他の物体に及ぼしていますが、受ける力と及ぼす力を同時に描いていくと、混乱して力の矢印の一部を描き忘れることが多いのです。だから、「受ける力」だけに絞って描いていきます。当然のことですが、物体がつりあうかどうかは「その物体の受ける力の合力が0になっているかどうか」で決まるからですね。
さて、力の矢印を描く順番を確認しておきましょう。
まず、重力、磁力、静電気力など、空間を飛び越えて働く「間接力」を描きます。
つぎに、他の物体と接触している場所で及ぼしあう「接触力」を描きます。
このとき、特に「接触力」を描くときに「作用反作用の法則」を忘れないこと。間違いやすい問題の多くで、この作用反作用の力の描き忘れが生じます。
どんな力にも作用反作用の関係の力があります。力は2つの物体間で働きあう「相互作用」なのだから当然なのですが、思い込みで作用反作用の相手の力を描き忘れることが多いのです。
(2)力のつりあいの式
剛体のつりあいは、並進運動のつりあいと回転運動のつりあいの両方を見なくてはいけません。並進運動のつりあいは、質点について学んだ並進運動のつりあい、つまり、力のつりあい(力Fの和が0)とまったく同じです。
力はベクトルなので、「力Fの和が0」の式は方向別に立てることができます。
そこで、通常は、x方向、y方向それぞれについて「力Fの成分の和が0」という式を立てます。
(3)力のモーメントのつりあいの式
剛体のつりあいのもう一つの柱は、回転運動のつりあいで、これは「力のモーメントの和が0」という式になります。
このとき、支点は自由に選べるので、固定軸を選ばなくても構いません。(通常は、固定軸を支点に選ぶことが多いのですが、他の支点を選んでもなんの問題もありません)
この力のモーメントのつりあいを考える時、もっとも重要なのは、力のモーメントの計算方法が2種類あることです。力のモーメントをN、力をF、うでをLとすると、FとLが垂直な時、その計算方法は、
・N=FL
なのですが、FとLが垂直でないことの方が多いのです。
この場合の計算方法は「102剛体に働く力〜新・物理ネコ教室」のように、力のうでに垂直な成分F'とLでNを表す方法と、うでの力に垂直な成分L'とFでNを表す方法の2種類があります。
・N=F'L
・N=FL'
忘れてしまったという人は、プリント102を見直してください。
ここで問題なのは、多くの人が1つめのN=F'Lを使って計算しようとすることです。もちろん、それはそれでよいのですが、問題によってはこの計算方法ではうまく計算できないこともあるのです。(問題によっては、この方法では計算できないこともあります)
そのとき、2つめのN=FL'を使えない人は、問題が解けなくなってしまいます。
入試問題ではN=FL'を使う問題が比較的多いので、この計算方法を身に着けておくことは非常に重要です。
意識して、このN=FL'を使う計算方法を使うようにしましょう。
(4)方程式を解く
これは、純粋に数学計算の問題ですので、物理センスは必要ありません。
苦手な人は、様々な計算例を体験し、慣れておきましょう。
2.(例)斜めに立てかけた棒のつりあい
剛体のつりあいの式を立てる練習として、典型的な問題を1つ解いておきましょう。
(1)
問題文にあるように、まず、立てかけられた棒が受ける力を描き込みましょう。
・重心に働く鉛直下向きの重力mg
これは、問題なく描けますね。重心Gは一様な棒の場合、棒の中点にあります。
・壁で受ける垂直抗力R
壁は摩擦なしなので、棒は垂直抗力Rしか受けません。垂直抗力はお互いに押しあう力なので、棒が受ける力Rの矢印は図のように壁から押される方向になります。
・床で受ける垂直抗力Nと摩擦力f
垂直抗力Nは棒と床が押し合うことから、矢印の向きはすぐにわかります。
摩擦力fの向きは「102剛体に働く力〜新・物理ネコ教室」で学んだ図の描き方で予想できます。忘れた人は、プリント102を観てください。
それを忘れていても、次のように水平方向の力のつりあいを考えることでも、予想できます。
水平方向には壁から左向きに垂直抗力Rを受けているので、それにつりあうためには摩擦力fが右向きでないといけませんね。
これで、すべての力とその向きがわかりました。この時点で、問題の8割は解けたと考えてもらってかまいません。
では、いよいよ、式を立てていきましょう。
まず、力のモーメントのつりあいの式。
支点を決めましょう。
支点はどこでもいいのですが、支点に働く力のモーメントは0になります(うでが0なので)から、なるべくたくさんの力のモーメントが0になる支点を選ぶのが利口です。
この場合は、A点ですね。
そこで、A点のまわりの力のモーメント=0の式を立てます。
このとき、力のモーメントの計算方法は、N=F'L、N=FL'の2通りがあります。
・N=F'Lを使う場合
図の緑色の矢印を見てください。
重力mgと垂直抗力Rのうでに垂直な成分1/2・mg、√3/2・Rを使って、A点のまわりの力のモーメントの和=0の式は、左回りのモーメントを正として、
√3/2・R×L-1/2・mg×1/2・L=0・・・(1)
となります。
・N=FL'を使う場合
図の青色の矢印を見てください。
力mgとRはそのままですが、うでが力と垂直になるようにうでの成分を考えます。図の青色で描いた腕を見てください。
力Rに垂直なうでの成分は図より√3/2・L、力mgに垂直なうでの成分は図より1/4・Lを使うと、A点のまわりの力のモーメントの和=0の式は、左回りのモーメントを正として、
R×√3/2・L-mg×1/4・L=0・・・(1')
この2つの式はまったく同じになります。
次に、力のつりあいの式。
水平(x)方向、鉛直(y)方向、それぞれについて、力の成分の合力=0の式を立てます。
x方向:f-R=0・・・(2)
y方向:N-mg=0・・・(3)
これで、未知数の数だけ式が立てられたので、あとは数学的に解きます。(描き込みをご覧ください)
(1)(2)(3)より、R=√3/6・mg、N=mg、f=√3/6・mg
(2)
棒の角度が60°より小さくなると棒が滑り出すので、角度が60°のとき、摩擦力が最大摩擦力f=μNとなっていることがわかります。
(1)の結果とこの式を合わせて、μの値が求まりますね。
3〜4は、2と同じタイプの問題です。
2と同様な手順で解いてみましょう。
3.では、糸が2本あるので、A点で棒が受ける力は垂直抗力と糸の張力の2つです。
4.では、A点で受ける力は抗力(垂直抗力と摩擦力の合力)になります。
A点で受ける力の性質は3と4で異なりますが、解き方はまったく同じですね。
5.
(1)
この問題では、すべての力の向きが鉛直方向なので、水平方向の力のつりあいの式はありません。
C、Dで受ける垂直抗力をNc、Ndとして、D点のまわりの力のモーメントのつりあいの式と、鉛直方向の力のつりあいの式を立てると、未知数2つに対し方程式が2つあるので、解くことができます。
ここでは支点をD点にしていますが、もちろん支点をC点にしてもかまいません。
支点をD点にしたのは、次の(2)で、Nc=0となることから、(2)でも支点をD点にして解くので、連続して解く場合はわかりやすくなるためです。
なお、このタイプの問題も、力のモーメントの問題としては典型的な問題の一つです。
さて、どうでしょうか。
これらの問題が自力で解けるようなら、剛体のつりあいの問題は余裕で解けるようになります。
剛体のつりあいの問題は、きちんと学べば、必ず解ける問題でもあります。
しっかり、練習を積んでください。
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