百科事典棒 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオくん「やほ!」

とっぴ「やほっ。あれ? 何、その長い棒は?」

ミオ「なんだと思う?」

ろだん「普通の木の棒だな。うん・・・途中に線が引いてある。刻み目みたいだな」

あかね「なにかしら、この刻み目」

むんく「・・・」

とっぴ「わかんないよ。てんびんでもつくるの?」

ミオ「これは、百科事典」

あかね「え?」

ろだん「はあ?」

とっぴ「何をいってんの?」

ミオ「へへ・・・わかるかな〜〜?」

むんく「暗号?」

ミオ「暗号じゃないけど、ちょっと、似てるかな。数学的な問題だから」

とっぴ「数学? やだ!」

あかね「ちょっと、うるさいわよ、とっぴ!」

ろだん「(棒の刻み目をじっと見ながら)うーん、これが、百科事典だって?」

 

ひろじ「ハハア、マーチン・ガードナーだね」

ミオ「ふふふ。そう」

とっぴ「マーチン・・・? 火星人?」

あかね「火星人ならマーシャンでしょ」

むんく「ぼく、知ってる。数学の人」

ひろじ「そう、数学のパズルや不思議な話題をいろいろ書いている人。『aha!』はもっとも有名な本かな。その中に、ミオくんが持ってきた情報棒の話がある」

ろだん「情報・・・棒?」

とっぴ「おもしろそう! やっぱ、聞きたい!」

あかね「調子いいわね! でも、わたしも、そう」

ひろじ「ミオくんが説明してくれるよ」

とっぴ「ミオく〜ん!」

 

 

ミオ「ええと・・・まず、文字の情報を数値化する方法から、考えようか」

とっぴ「文字を数字に?」

ろだん「やっぱり、むんくがいったように、暗号化するんだろ」

むんく「暗号は、他の人にわからないようにするために、いろいろ工夫している。文字の情報を数値化するだけなら、もっと簡単なルールでいい」

あかね「どうやるの?」

むんく「ガードナーは英語圏の人だから、英語なら・・・例えば、こんな表・・・」

 

 

とっぴ「えーっ? わかんないよ」

あかね「あ、そうか!」

ろだん「なるほど! むんく、すごいな」

とっぴ「え、みんな、わかったの? ぼく、まだわかんないよ!」

あかね「例えば、英語で'this'(これ)なら、't'は2行目の9列目にあるから、'29'と書くの。こんなふうに'this'を英語から数字に置き換えると・・・'29171828'となるわ」

ろだん「文章のときは・・・あ、スペース(空白)やコンマ、ピリオドを使えばいいな。'This is a pen.'なら、'5917182836182836103625142338'ってなるな」

むんく「この表で、英語の文章はだいたい数字化できる」

あかね「'36'がいっぱいでてくるから、これが英語の文に不可欠なスペースだって、すぐにわかるわね」

 

 

とっぴ「あれ、この表、81以降は?」

むんく「今、だいたいの文字や記号を思いついたまま書いたから、他に必要な文字を思いついたら、追加できるようにしてある。それでも足りなかったら、行を増やせばいい」

ミオ「おみごと!」

とっぴ「ちょちょちょ・・・ちょっと、待ってよ! 文章を数字に変えることはわかったけど、それをどうやって棒に記すのさ!」

あかね「棒に数字を書き込めばいいじゃない」

ろだん「いや、そうはいかないかもな」

あかね「どうして?」

ろだん「ほら、さっきの'This is a pen.'が、'5917182836182836103625142338'だろ。この調子だと、たとえば5,6ページの文章でも、とんでもなく長い数字になる。それが本一冊分になったら、とてもじゃないけど、棒には書き込めないぞ」

とっぴ「それに、数字を書いているだけで、日が暮れそうだよ」

 

 

むんく「だいじょうぶ・・・数学的な方法を使えば」

とっぴ「え? どうやるの」

むんく「'5917182836182836103625142338'を例にすると、このままでは棒に記録する方法は、数字を棒に書き込むしかないけど・・・数字の前に'0.'をつければ、少数になる・・・」

とっぴ「少数になったら、なんなのさ。その分数字が増えるから、よけいに書き込めないじゃん」

あかね「あ! そうか! 少数ね!」

ろだん「うーん、おれは、まだわかんないな」

あかね「どんな少数も、無限に続く無理数みたいなのじゃなければ、分母と分子が整数の分数にできるって、この間、数学の授業で先生がいってたじゃない! 小数にした数を分数にしたとするでしょ? たとえば''5917182836182836103625142338/10000000000000000000000000000'なら、約分してもう少し簡単な分数になるから、棒をその分母で等分割して、分子の数の場所に刻み目を入れればいいでしょ? その刻み目が分数の数字の代わりになるから、今度はその刻み目を見て、もとの分数を割り出せばいいのよ!」

むんく「そう。そして、この表で文字に戻せばいい」

 

 

ミオ「やるなあ、みんな。あ、とっぴはおいといて」

とっぴ「ひどいな・・・」

ミオ「冗談、冗談」

あかね「あ、でも、日本語だと難しいわ」

ろだん「そうだな」

とっぴ「なんで?」

あかね「日本語はひらがな、カタカナ、漢字があるでしょ。それに英語のアルファベットだって使うし・・・文字の量が全然違うもの」

むんく「だいじょうぶ。原理は同じだから、表を広げればいい」

 

 

とっぴ「わ、何これ!」

ろだん「英語より、ずっと複雑だな。さっきの'this'が'0811071108000810'で、数字の量が2倍になってるぞ。気が遠くなりそうだ」

あかね「それどころか、この表、カタカナも漢字も入ってないわ。まだ、ぜんぜん足りないわよ」

むんく「表の矢印方向に、必要なだけ、行と列を追加すればいい。どんなに複雑でも、使われている文字や記号の数は有限だから、必ずある行列の範囲におさめることができる」

 

 

あかね「数学の人って、面白いことを考えるのね。・・・でも、なんか、しっくりこないわ。何かしら?」

ろだん「おれも。何か、ひっかかるな。もやもやする・・・」

とっぴ「ちょっと、やってみようかな。例えば、分数がたまたまちょうど、12分の6とか7になったとして・・・」

あかね「そんな都合のいい数になるわけ、ないじゃない!」

ろだん「まあまあ、おもしろそうだから、とっぴにやらせてみようぜ」

とっぴ「ええと、この、実験室に置いてあった木の棒でいいかな・・・ちょっと、あっちの部屋(準備室)にいって、刻み目を入れてくるね」

ひろじ「いいよ。使って。定規はそこにあるのを、持っていって」

 

とっぴ「(ちょっとしてから)やほーっ、できたよ!(みんなに印をつけた棒と定規を渡す)」

ろだん「よし、やってみるか・・・(測って)うん? 全長が90.23センチで、刻み目が端から44.12センチ・・・分数は4412/9023か。とっぴ、けっこう難しい数字を選んだんだな」

とっぴ「え? え? ちょっと貸して・・・(棒を計り直して)ほら、全長が90センチで、刻み目は端から45センチ。45/90で、1/2だよ! だから、数字は0.5。つまり'0.'を取った数字は50だから'K'だよ!」

ろだん「おいおい、測り方が荒すぎるだろ。ちゃんと測れば、おれがさっきいった数値になる・・・あ!」

あかね「何?」

ろだん「そうか!」

 

 

ろだん「その、ガードナーっていう人のやり方、数学的には正しいかもしれないけど、実際にやるのは不可能だぞ。とっぴみたいに極端な例は別にしても、棒の刻み目の位置を測るのには、測定誤差が避けられない。おれは'44.12/90.23'と読んだけど、たぶん、あかねが測れば、分子も分母も少し違う数になる。そうなると、最初に刻んだ分数が本当はどんな数だったかなんて、わからなくなるぜ」

むんく「あ・・・そうか」

あかね「たしかに、そうね」

ろだん「それに、ちょっとした短い文章でも、とんでもない桁数の数字になっただろ。ましてや、本を一冊記録するなら、とんでもない桁数の数字が並ぶことになる。おれたちが測定装置を使って刻み目の位置を測るとしても、そんな有効数字の桁数で測ることはまるっきり不可能だ。おれたちの使う定規なんかじゃ、がんばって測っても、有効数字はせいぜい4桁だ。これじゃ、さっきの'this'の'29171828'ですら、測れないぜ」

 

ミオ「よく気がついたね。その通り、ガードナーのやり方はあくまでも、理想的な棒に理想的な刻み目を入れて、理想的な、とんでもない有効数字で長さを測れる装置を使ったとしたら、という話だ。数学的には可能でも、物理的にはまったく不可能だね」

とっぴ「顕微鏡で拡大して刻み目をいれたらどう?」

ミオ「それで、少しは詳しく刻めるとしても、到底、いまろだんが指摘した有効数字には達しないよ。それに、ぼくたちが物を見るときには、可視光つまり、赤から紫までの目に見える光を使っているんだけど、これらの光の波長は300〜700ナノメートルだ。この波長の長さより短いものを見分けることは、どんな光学顕微鏡を用いてもムリなんだ」

 

 

むんく「500ナノメートルなら、100000分の5センチだから、0.00005センチ。つまり、'0.'のあとに数字が5つ並ぶ数値までなら、光で見分けることができるけど、それより精度が高い数字、たとえばさっきの'this'の'0.29171828'でさえ、その限界を超えていることになるよ(*1)」

とっぴ「ふえ〜〜〜っ!」

ろだん「やっぱり、ムリだ。数学と物理って、全然違うんだな」

あかね「そうね。ミオくんの話を聞いたとき、一瞬、そうか〜と思ったけど、なんかもやもやしたのが残ったのはそのためだったのね」

とっぴ「えへん。ぼくが実際に棒に刻み目を入れて試してみたことが、解決につながったね!」

ひろじ「結果的には、そうなるね」

 

 

とっぴ「ほら、ほら!」

あかね「何よ、自慢げに! たまたまじゃない!」

ミオ「まあまあ、みんな仲がいいね。喧嘩するほど、仲がいいっていうし」

ろだん「うーん、あかねととっぴは、そうじゃないような気がするけどな」

むんく「・・・同意・・・」

 

 

ミオ「あーっと、今日は、数学と物理の違いをちょっと見てみたってことで・・・じゃねっ!」

とっぴ「あ、帰っちゃった! ・・・ミオく〜ん!」

あかね「ミオくんにばかり、頼らないの! 科探隊の隊長でしょ! もうちょっと、しっかりしてよね!」

とっぴ「しっかりしてると、思うんだけどなあ・・・」

 

 

(*1)光学顕微鏡のかわりに電子顕微鏡を用いれば、さらに細かい精度まで解像度が上がります。しかし、それでも、百科事典棒の天文学的な数字をフォローすることはできません。

 

 

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