量子の「波」って何? その4〜波動関数Ψ | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

シュレーディンガー
 

とっぴ「やほほ~」
ひろじ「来ると思ってたよ」
とっぴ「さー、電子の波・・・量子の波、だよ」
ひろじ「高校ではやらない話なんだけどなあ・・・」
とっぴ「何いってるの。高校とか大学とか・・・小学生だって、気になったら、知りたいと思うよ」
ひろじ「ハイ、ハイ」
とっぴ「ハイは一回!」
ひろじ「ハイ。で、量子の波の話だったね」
あかね「そう。電子の物質波って、いったい何なのか、前回は結局わからなかったから」
ろだん「実験で干渉を示すのがあの波長λ=h/mvで説明できるという話はわかったよ。事実なんだから、そういう波長があるんだろ」
むんく「電子が波なら、やっぱり波の式があるのかな・・・」
ひろじ「まさに、その話だよ。ドゥ・ブロイが物質波を提唱したときには、まだその波の役割は知られていなかった。それを見つけるきっかけになったのは、シュレーディンガー(タイトルイラスト)が粒子の波動方程式を作ってからだね」
むんく「波動方程式・・・」
とっぴ「なんか、かっこいいな」
ひろじ「シュレーディンガーはハミルトンがもっと昔(1830年頃)に作った粒子と光線の運動を統一的に表す方程式(もちろん、当時は量子の問題は現れていないので、光線と粒子の運動の類似性から、ハミルトンが数学的に導いた方程式)に影響を受け、ドゥ・ブロイの物質波の研究を取り入れた、新しい波動方程式を作った」
むんく「数学的に!」
ろだん「おい、むんく、押すなよ」
むんく「その方程式、どんなの? 見たい! 見せて!」
あかね「今日のむんく、別人みたい」
ひろじ「うーん・・・大学でしか習わない記号もあるからなあ・・・」
むんく「見るだけ!」
あかね「むんくがこんなに積極的になるの、めずらしいな。ひろじさん、わたしたちにはわからなくていいから、見せてあげて」
ひろじ「じゃあ・・・これだけど」
 

 

シュレーディンガー方程式
 

とっぴ「うわっ」
ろだん「なんだ、これ」
あかね「方程式に・・・虚数が入ってる!」
むんく「・・・美しい・・・」
とっぴ「え? え??」
あかね「何がどう・・・美しいの?」
むんく「だって・・・キレイだ。すっきりしてて、無駄がない・・・」
ひろじ「むんくくんは数学の才能があるんだね。うらやましいよ」
とっぴ「このへんな・・・サスマタみたいな記号、何?」
ひろじ「Ψ(プサイ)のこと? ギリシャ文字で、シュレーディンガーが最初に使ったので、それ以来、波動関数にはこの記号を使うのが一般的になった」
あかね「ええと、わたしたちには難しいのわかってるけど、どういう意味の式か、ちょっと説明して欲しいな」
ひろじ「これは、電子が電気力を受けて動いているときの様子を示した式で、Ψは電子の振る舞いを決める関数だよ。時間と空間に関する二次微分方程式になっている。この式は波の方程式に似てるので、Ψは波動関数と呼ばれるんだ」
とっぴ「この式から・・・電子の波の正体がわかるんだね。何が揺れてるのかとか、波長の意味は何かとか」
ひろじ「残念ながら、たぶんとっぴくんが求めているような意味では、この波の正体はわからない」
とっぴ「ええっ!」
あかね「だって、波なんだから、何かが揺れているんでしょ。方程式までわかって、それがわからないなんて」
ろだん「おれも、それは納得できないぞ」

 

 

ひろじ「ええと・・・物理を理解するのにはイメージってとても大切だよね。場合によっては、数学に頼らず、イメージだけで現象の結果を予測することもできる」
とっぴ「うん。だから、物理って好きなんだ。数学できなくても、何が起こるか考えることができるもん」
あかね「それは・・・とっぴと同意見」
ろだん「実験なんかしてるときは、数式よりイメージの方が役に立つぜ」
ひろじ「イメージって、実は頼りないものなんだ。ぼくたちは、日常の体験からしか、イメージすることができないからね。どんなに最先端の物理理論でも、もとになっているイメージは、身の回りの現象を見て得たイメージの応用だよ。例えば、場の理論だって、水面に物を浮かすと表面張力で水面が歪む、みたいなイメージで理解できる」
あかね「それは、そうだけど」
ひろじ「日常生活の体験がもとになっているから、日常を超える現象については、イメージすることはできない」
ろだん「まあ・・・そうかもな」
とっぴ「何だよ、二人とも。そんなことないよ。人間の想像力って、すごいんだぜ」
ひろじ「ぼくは、人間の想像力はすごいとも思うけど、同時に限界があるとも思っているよ。革新的な物理理論が生まれるときは、イメージによらないことが多いんだ」
とっぴ「どういうこと」
ひろじ「ぼくたちのイメージはさっきいったように、日常に起きている現象から得られるものだから、類推の効かないまったく新しい現象を理解するのには役に立たない。それどころか、うかつなイメージをもつことで、間違った理解をしてしまう」
あかね「・・・そうかもしれないけど」
ひろじ「ところが、理由はさっぱりわからないけど、この宇宙と数学とは、なぜか相性がいい。物理現象を数式で表すと、数式が導く結果は、時として人間の想像力をはるかに超えるものを示すんだ。アインシュタインは、もし神がいるなら、神はよほど数学が好きなんだろう、とまでいっている」
むんく「・・・ぼくも、そう思う!」
ひろじ「シュレーディンガーの波動関数も、ディラックが見つけた陽電子も、最初は方程式を解くことで見つかった。数式が新しい何かを示し、それを後から実験で確認したり、新しい解釈をしたりして、イメージが追いついていく・・・これが、物理学のもうひとつの側面だ」
むんく「数式は・・・イメージを超える・・・」
ひろじ「まさに、そう。数式は人間のイマジネーションを簡単に追い抜いて、誰も気がつかなかったものを示してくれる。それこそが、科学の世界で数学を使う本当の意味なのかもしれないね」

とっぴ「そうすると・・・電子の波というのは、なんだかわからないもの、でおしまい?」
ろだん「なんだか、すっきりしないな」
ひろじ「そうでもないよ。理解のしかたが変わるだけ。電子の波動関数Ψは、普通の波の式と同じような性質を持っているから、重ね合わせの原理によって、強め合ったり弱め合ったりする」
ろだん「音の波とかだったら、それは本当に音波を意味する式なんだろ。波長だって振幅だって、意味があるし、イメージできるぜ」
ひろじ「電子の波では、波動関数Ψそのものに、物理的なイメージを与えることはできない。それはさっきいった通りで、日常生活とはまったく違うレベルの現象だからね。シュレーディンガー自身も、Ψの物理的なイメージはつかめていない。それがついにわかったのは、ハイゼンベルグのまったく新しい解釈によってだよ」
とっぴ「それは、どういうの?」
ひろじ「Ψは重ね合わせの原理にしたがって、普通の波の式みたいに合成できる。例えばスクリーンの明暗の場所で、Ψを求めても、それ自体には日常の現象と比べられる物理的意味をもたないけど、ハイゼンベルグはΨの2乗の値が、その場所の明暗を決めることから、Ψの2乗は、それぞれの場所での、電子の存在確率を示すのだと、解釈したんだ」
むんく「・・・すごい・・・」
とっぴ「え、何それ? 確率?」
ひろじ「Ψの2乗の値が0の場所には、電子がまったく来ないから、電子に反応するスクリーンは暗くなる。Ψの2乗の値が1の場所には、電子が必ず来るから、スクリーンは明るくなる。干渉実験をすると、光でも電子でも同じ干渉条件で明暗模様ができるけど、そこで強め合ったり弱め合ったりしているのは、存在確率を決める波動関数なんだと、考えたんだ。つまり、波動関数が強め合う条件になっている場所には、電子が多くやってくると。これが、波動関数Ψについての新しいイメージになるね」
 

 

量子の二重性4

とっぴ「新しいイメージ、かあ・・・」
ひろじ「物理現象を数式で表すことは、どういうわけか、たいていの場合うまくいく。でも、数式で表された物理現象が人間のイマジネーションで捉えきれない場合には、イメージで想像できるモデルのようなものを考えない方がいい。物理現象はぼくたち人間の常識に合うようにはできていないようだよ。ぼくたちが扱える道具の中で、物理現象をもっとも的確に捉えることができるのは数式だけだから、数式の結果からイメージできることで我慢するしかないんじゃないかな」

とっぴ「あの・・・量子の話でさ、丸で四角って話があったじゃない。本当は円筒で、丸いところを見ようとすると丸が見え、四角いところを見ようとすると四角が見えるって。あれは、電子や光の場合は、どういうことになるの」
ひろじ「次の図を見て。光でも電子でもいいんだけど、ヤングの複スリットの実験の図で、二つのスリットS1、S2のそばに、E1、E2二つの検出器があるね。検出器は、電子や光がスリットを通ったとき、【こっちを通ったぞ】ということを知らせるための装置だ」
 

 

 

 

 

量子の二重性2
 

あかね「ええ。あるわ。それで?」
ひろじ「スリットS1だけを開けておいた場合、電子や光はP1のグラフのようにやってくる。スリットS2だけを開けておいた場合はP2のグラフになる。ところが、検出器を働かないようにして、S1とS2を両方開けると、電子や光は二つのスリットのどちらを通ったからわからない。ということは、二つの穴を同時に通ることになる。粒子は二つの穴を同時に通り抜けることはできないから、この場合の電子や光は波として振る舞っていることになる。二つの穴を同時に通り抜けられるのは、波だけだからね」
あかね「うん」
ひろじ「この場合、スクリーンに達する電子や光は、一番右の【検出器がないとき】のグラフのようになる。明暗の縞模様ができるから、波の性質が表れるんだ」
とっぴ「じゃ、検出器が働くようにしたら」
ひろじ「その場合は、スクリーンにくる電子や光のグラフが真ん中の【検出器があるとき】のグラフに変わる。P1とP2を単純に足したグラフだ。つまり、これは・・・」
とっぴ「粒子の性質!」
あかね「同じ実験装置なのに、検出器を働かせるかどうかで、結果が変わるの? 研究している人の行動に反応するなんて、まるで電子や光が意志を持っているみたい!」
ろだん「意志があるんだったら、実際に検出器を働かせるかどうかじゃなくて、検出装置が置いてあるだけで反応するだろ。検出器が働いているのは、電子や光と検出器の間で物理的な相互作用があるってことだ」
ひろじ「お見事、ろだんくん。観測は物理的な相互作用に当たる。観測をすれば、相手の状態は観測前と比べれば変化することになる。これが新しい物理学で見えてきた、新しい考え方だよ」
あかね「数学って、すごいのね・・・」
とっぴ「うん・・・ちょっと、勉強してみようかな・・・」
ひろじ「もっとも、数学だけで十分ということじゃないよ。数学は自然科学にとって強力な武器だけど、数学は科学じゃないからね。ドゥ・ブロイみたいに、発想力も必要だよ」
むんく「とっぴの発想・・・ぼくにはできない」
とっぴ「へへ・・・そう?」
あかね「わたしは、とっぴの発想力はいらないけど、むんくの数学の力はほしい!」
ろだん「おれも」
とっぴ「あれ?」

※これらの内容を下敷きにした冒険マンガを『いきいき物理マンガで冒険』に掲載しました。是非ご覧ください。本については下方のリンクをご利用ください。
 

 

関連記事
 

→波で粒子ってなんだかわからない~みゃあみゃあ談義
→量子の「波」って何? その1~粒子と波の違い
→量子の「波」って何? その2~光の媒質
→量子の「波」って何? その3~電子の物質波

 
 

〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜

このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。

 
 

***   お知らせ   ***

 

日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)

Amazonへのリンクは下のバナーで。

 

 

 

『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。

 

 

『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。