30年来の友人、ロックミュージシャン・Nは、その昔大手のプロダクションAにいた。
それも、超メジャー級の事務所で、所属タレントは大物ロックバンドや大河ドラマの主人公を演じる俳優までいる。
彼がAに所属が決まったと聞いた時は、友人として本当に嬉しかった。
当然、その後、人気も出た。
ところが、数年後にAを辞めたとのこと。
どうしてなのか、その理由を聴きたかったけど、聴く機会もないまま数十年が過ぎた。
そして先日、久々に彼と会って話した。
今でも同じバンドのメンバーでツアーに出ているという。
もう歴史は、28~9年にもなるんだろうか。
コアなファンもたくさんいる。
無所属なのに、今でも変わらぬファンがいて、ツアーにも出て、年間120本以上のライブをこなす。
しかも、数年前からは、ギター一本抱えて、ひとりでいろんな場所へも歌いに行っているらしい。
「ひとりで歌いに行くと、バンドではいけない場所へもスルッと行ける。
俺の歌を聴きに来てくれている人ばかりじゃないしね。
ふらっと遊びに来た客のおっさんと、ケンカしながら歌ったりしてさ。
でも、それ、すっげぇ勉強になるんだよ」
「そうか、私なんざ、ずっとフリーで歌っているから、大手の事務所に所属しているNがうらやましかったけどね」
「事務所か… そんな、良いものでもないよ」
「そう?」
「だってさ、結局は歌っていたいじゃん。
それだけじゃん。
事務所のからみとかあるとさ、歌いたくても半年待たなきゃいけないとか、ざらにあるし。
これで、いいのかなぁと思うこともあるけどさ。
最後は、歌っていたいってことだけじゃん。
分かるでしょ」
うん、わかる。
そうだったよ。
私は、あちこちウロウロしているけど、それでも芯に在るものはそれだけだったよ。
Nは、48歳。
知り合った時は、18歳。
Nの息子は、あの頃のNよりも大人で20歳。
ロックバンドのドラマ―。
10代で全米ツアーも経験したのだとか。
何にもなくなった宮城の海岸で茫然とたたずんで、そこでもまた歌ってきたN。
時々、中指を立てたりしながら笑い、飲んで話して、とっても繊細に周囲を気遣って。
いやぁ~、大きくなったね、N。
あの頃と変わらないけど、何だかとっても大きくなった。
そして、すっごく格好良かったよ。
何だか闇雲に、「ヨシッ!」と叫んでガッツポーズをしたくなったよ、私。