管理栄養士のNさん。
とある女子大にお勤めです。
大好きな仕事なのですが、4月がとても憂鬱です。
新入生やその保護者に向って、大学構内のカフェテリアの説明をしなければならないからです。
ただでさえ人前に出るのが苦手なのに、カフェテリアの利用案内から献立の説明まで、ステージに立ってマイクを使って話さなければならないなんて・・・
ノドはカラカラ。
息も絶え絶え。
原稿から目を離すことすらできません。
何とかしなければと、話し方教室に通ってみたのですが、周囲の人の声の立派さに、余計に落ち込みが激しくなりました。
◆歌?とんでもない! でも・・・
私の個人レッスンに参加して下さったNさん、かなり緊張ムードで硬い表情のままです。
よほど、声を出すのが苦手とお見受けしました。
「気楽に声を出すために、ちょっと歌なんていかがですか?」
と私が問いかけると、硬い表情をガクガク震わせて、
「と、とんでもない!歌なんて!!」と拒否されました。
「じゃ、朗読は?」
「朗読?」
ふと、Nさんの表情が和らぎました。
「子供が小さい頃、絵本を一緒に読んだことはありますけど・・」
◆文章の間にある空白
次のレッスンの時、Nさんは絵本を用意して来られました。
「絵本を買ったのなんて、何年ぶりかしら」Nさんは、少し嬉しそうです。
私も嬉しくなって、早速読んでいただきました。
ところが、読み始めたNさんの顔は、緊張で引きつって、声もカチカチ。
聴いている私が、叱られているようにさえ感じられます。
「Nさん、思い出してみて。
子供さんと一緒に眠ったお布団の温かさ。
そこで、お話をしてあげたことないですか?
子供さんと、おしゃべりしながら作ったお話はありませんか?」
文章を読もうとすると、どうしても硬くなって、そこから逃れるのが難しくなります。
「文章の合間に、子供さんの反応を見るようにイメージしてみて。子供さんの『ねぇ、それでどうなるの?』という反応を思い出してみて。Nさんは、どう答えてあげますか?」
Nさんは、心の中を探るように、ゆっくりと間をとりながら文章を読み始めました。
◆捨て身になる
さらに次のレッスンの時です。
Nさんは、絵本を脇に置き、身振り手振りを加えて、アドリブまで入れて、見事に絵本を表現して下さったのです。
「ね、これからどうなると思う?」「このお話、すごいよね~!」
「みんなで数えてみようか!」「ほら、一緒に叫んでみようよ!」
側で見ている私は、思わず5歳児になって、Nさんと一緒に声を合わせて「わ~い!」などと叫んでしまいました。
「Nさん、前回とは別人!!」私は、驚いて言いました。
「私、恥をかく覚悟で、捨て身になりました(*^_^*)」とNさん。
まだまだ慣れていないので、もちろん、その表現にはぎこちなさが残ります。
それでもNさんの笑顔は、とっても美しく輝いていました。
◆温かなコミュニケーション
人前で表現するということは、パフォーマンスではなく、自分とお客さまとのコミュニケーションです。
自分を開いて、リラックスをして、温かな気持ちになることで、そこには自然な交流が生まれるのです。
人前でお話をすること、歌うこと、演じること、そして友人との他愛ない会話。
すべて、同じです。
Nさんは、カフェテリアの説明原稿を新入生の前で読むとき、自分の子どもに語りかけるように声を出してみると言いました。
「本日は、おめでとうございます。
疲れてないですか?
そろそろ、お腹が空いてきた頃でしょう。
さぁ、お待ちかねのお昼ご飯の献立を発表しますよ。
食べ過ぎて、太らないようにね!」
原稿の冒頭には、「本日はおめでとうございます」しか書かれていませんでした。
あとは、全部Nさんのアドリブです。
Nさんの柔らかな表情と声からは、Nさんの温かさがにじみ出ていて、とっても素敵なコミュニケーションとなっていました。
大切な人や大好きな人と気持ちいい時間を過ごすように、表現することを楽しんでみましょう。
まずは、あなたの温かさが基本です。
(2007年2月28日発行号より)
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