乱(1985)
黒澤明監督のフィルモグラフィーの中で、晩年期の傑作として本作を挙げる方も多いと思います。
シェークスピアの“リア王”を下敷きにして、毛利元就の“三矢の教え”をブレンドし、構想に9年もかけたオリジナルストーリー。
70歳になる戦国時代の武将、一文字秀虎(仲代達也)は、巻狩のあとの宴で転寝をし、そこで奇妙な悪夢を見たことから、唐突に隠居を言い出し、三人の息子にそれぞれ城と民を分配すると言い出す。
一の城を始め、主な財産と権力は長男の太郎が引き継ぐことになり、それでは一文字家の安定が壊れると三男の三郎は声を上げるが、父である秀虎はそれに怒り、親に物申した三郎を追放する。
微妙なパワーバランスの中、一の城の城主となった太郎だったが・・・
どの時代にでも通用するテーマだと思います。
黒澤監督は実に重厚な演出で描いていますが、通俗的な視点で観れば、企業におけるワンマン社長の引退とそれを引き継ぐ世継ぎ社員の関係に置き換えることができる。
政治の世界における世襲議員にもあてはまるかな。
そして、その血縁の物語の中に、人間同士が殺しあうことによって永遠に終わらない業というものをこめていく。
次第に正気を失って幽玄たる人生を歩むことになる秀虎を演じる仲代達也は当時40代。
非常に凝ったメイクで、70代武将を鬼気迫る演技で見せる。
能を意識したような城内でのやりとり、特に太郎の妻で、太郎が殺された後は次郎の妻となり暗躍し事変を仕組む原田美枝子のどす黒い怨念を様々な小道具を使って見せる黒澤演出はやっぱりうまい。
合戦シーンも壮大でスケールが大きく、他の日本映画ではなかなか見られない物量作戦が見られます。
兵が馬から振り落とされるシーンのカメラワークなどは神業だ。
「影武者」の合戦シーンに肩透かし感を感じた私もこのスケールで見せられるとゴキゲン。
「蜘蛛巣城」を思い起こさせる矢羽根飛び交うシーンは黒澤ダイナミズムの真骨頂といえよう。
腹黒く謀を上手く運ばせて最後に笑う植木等の存在も意外性があり面白い。
物語には輪廻思想のようなものも感じられ、ストーリーも面白く、それでいて屍が折り重なっている場面は死臭を感じるほどリアルなのですが・・・
こってりとんこつラーメンの大盛りを食べた後のようにお腹一杯で胸やけ寸前の脂っこさという感覚で、鑑賞後はぐったりしてしまうほどです。
心身ともにコンディションがいい時に鑑賞することをおススメします。
そうでないときに鑑賞すると、観終わった後に不機嫌になってしまうかも(笑)
『乱』(1985)日=仏
黒澤明監督 162分
1985年(昭和60年)6月公開