津軽じょんがら節(1973)
斎藤耕一監督は、1972年、萩原健一主演の『約束』でスチルカメラマン出身らしい優れた映像感覚を見せ、続く高橋洋子主演『旅の重さ』で、ドラマ演出の上手さにも進歩を見せた。
そして本作。
それまでの上手い語り口に加えて、職人、中島文博を脚本に迎え、詩情豊かで情熱的なメロドラマと仕上がった。
津軽地方の海辺。
若い男たちは仕事をせず、失業保険で暮らしている過疎の村。
そんな寂れた村に、追われる身のヤクザと愛人がやってくる・・・
このありふれた設定で傑作となりえた一つの要因は、斎藤監督らしい計算されつくした構図で撮られた大自然の見事な描写。
日本海の波が、主人公たちの苛立ちを表現するように荒れ狂い、情念ごと飲みこんでしまうのではないかと思うほど表情を持っている。
朽ち果てた掘立小屋のような場所で主人公二人は暮らすことになり、愛人は村に一軒だけある安い居酒屋で働くことになる。
そして、もう一つの要因。
脚本中島文博は、ここに純真な心を持つ盲目の少女を登場させる。
ヤクザは次第にこの少女に夢中になっていくのだが、ありきたりの同情を誘うような描き方ではなく、サスペンスの核となる部分を担わせているのが、ストーリーテリングの上手さがある。
少女が盲目になった原因などを、イタコ伝説などに絡めてミステリアスな存在にしている。
そして、日本海の荒波が登場人物たちの残酷な秘密や過去を一枚ずつはがしていく。
その登場人物たちの配置も巧みだ。
だれもがその人間関係にあっと驚くことだろう。
ヒモ同然の暮らしをしていたヤクザ男の苛立ちが次第に消えていき、安然となっていくがゆえに悲劇が訪れる展開などはお見事というしかない。
物語の中の人物たちの人間模様は、まさに暴風雨のような情念が入り混じった世界なのですがすべて流してしまうような津軽の風景が美しい。
静かに燃える炎って熱いんです。
甘さを一切排除した残酷なメロドラマ。
何度か挟まれる斎藤真一の描く挿入画が、観客の心に深い印象を残す。
『津軽じょんがら節』(1973)
斎藤耕一監督 103分
1973年(昭和48年)12月公開
※第47回キネマ旬報ベスト10日本映画1位