四畳半青春硝子張り(1976) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

 

 四畳半青春硝子張り(1976)

 

好きか嫌いかと問われれば、嫌いではないと答えます。

登場人物たちだけの中だけで渦巻いている暴風雨のような青春。(観客も含めて)他人にはどうでもいい愛憎劇。秋吉久美子の『赤ちょうちん』や『妹』の流れをくむ、ああ、70年代テイスト!

 

自動車陸送の仕事をしている深志(原真也)。

怠惰な性格なのか仕事はしょっちゅう無断欠勤して行きずりの女とはすぐに深い仲になってしまうような若者。

 

そんな深志に好意を寄せているスーパーの店員、文江(永島暎子)。

純粋無垢な彼女は純情可憐。完全に深志にイカレテいる状態。

 

ある日、深志の職場に女性から電話がかかってくる。

その女性は、深志が盛岡で行きずりに抱いた人妻、英子(真木洋子)。

友人の結婚式で東京にやってきて、深志のことが忘れられず電話をしたというのだ。

 

少なくとも動揺を感じる深志。

突然、文子を海へデートに誘いなんとなくプロポーズする。

 

しかし、深志は英子のことも忘れることもできず、英子の泊っているホテルに向かうのだが・・・

 

確かに男前だが、どうしてこんな男が綺麗な女性たちにモテモテなのか(僻みじゃなくてね)がわからない。この主人公、深志に恋愛指南書を書いてほしいくらいだ。

 

深志と文江が通う町中華の女主人の元夫が一応悪人として描かれるが、さほど大きな危機をもたらすわけでもなく・・・

と辛辣な意見ばかり述べてきましたが、この作品が嫌いじゃないという理由は、この時代特有の低予算ロケーション映画の持つ空気感が好きだから。

 

私が人格形成されていったあの時期のあの風景が思い出のぬくもりとともにそこにあったから。

 

主人公らが口ずさむ流行歌は、キャンディーズの『春一番』。

喫茶店では山口百恵の『横須賀ストーリー』が流れ、遊園地では、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』のBGMが流れる。

 

深夜、深志が流れ着いたガソリンスタンドの兄ちゃんはギターを弾きながらフォークソングを歌う。

 

東京の繁華街を歩く若者たちのファッション。

上野駅を走る夜行列車。

可愛い恋人、年上の憧れの人妻、野菜炒め、タイヤを軋ませる荒い車の運転。

大層に言い過ぎるかもしれませんが、

本作は登場人物たちにとっての『アメリカン・グラフィティ』なのです。

青春の一日。

 

それは、『ALWAYS三丁目の夕日』のように人工的に作られたノスタルジィではなく、あの時、本当にあった風景なのです。

 

アメリカン・ニューシネマを気取ったのか、作品はあっけない幕切れを迎えますが、あれはちょっと作為的過ぎというか気取りすぎたな。

 

新人、永島暎子がこの頃から耐えてしのぶ女性を演じています。本当に薄幸の女性を演じさせたら天下一品ですね。

深志の浮気を知った彼女が、彼が運転する陸送の車のガソリン投入口の扉のウラに『バカ』と書いてあるのが何ともいじらしい。

そして、りんごを実に不味そうに丸かじりするシーンも新鮮です。

 

主演の原真也にもうちょっと演技力があれば主人公に共感ができたかもしれない。

周りのキャストが優秀なだけに目立ってしまい残念。

海岸で水をかけあいながら、

「バカ野郎💓」「こらあ言ったなあ💓」「こいつうっ💓」の世界だからね。

さすがにあの棒読みじゃ照れちゃうよ。

 

でも嫌いではないですよ!

樋口康雄の音楽が切なくて70年代ぽくっていいですしね。

 

 

『四畳半青春硝子張り』(1976)

加藤彰監督 93分

1976年8月公開