恋人たちの時刻(1987) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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 恋人たちの時刻(1987)

 

60年代の若者たちは怒っていた。
70年代に入って怒れる若者たちは挫折していき、歪んだ衝動を内に秘めていった。
 
80年代に入って若者は怒ることを忘れ、築き上げたものではない好景気に酔いしれて次第に無色透明化していくことになる。
 
本作の恋人たちマリ子(河合美智子)と洸治(野村宏伸)もそんな若者。
政治的イデオロギーがあるわけでもなく、夢があるわけではなく、なんとなくここまで生きてきた。
 
北海道の海岸で出会った二人。
洸治は不思議な魅力を持つマリ子に惹かれ付き合うようになる。
 
そしてマリ子は洸治に高校時代の友人である典子を探してほしいと頼むのだが・・・
 
まさに無色透明。
1980年に田中康夫による小説『なんとなくクリスタル』が発表されて話題になりましたが、そんな時代の流れを汲んでいるように感じますね。
 
ドラマが進むうちにマリ子の心の闇が次第に明らかになっていく展開なのですが、その闇も自己完結できる浅いもの。
フワフワとした感覚で物語は進んでいきます。
そんな作品でも何かピンと芯が通っていれば共感できるのですが、残念ながら本作にはそれがない。
 
同じような無色透明青春映画である『ダイアモンドは傷つかない』(1982)には田中美佐子、『スローなブギにしてくれ』(1981)には浅野温子などの女優さんの眩いばかりの魅力で芯が通ったこのジャンル。
本作はキャストが(残念ながら)弱い。
そして、圧倒的な弱点は、
本編が始まってから20分弱でマリ子の正体がピンときてしまうこと。
謎解きサスペンスの部分は開巻そうそう崩れてしまう。
 
ただ60年代でも80年代でもリビドーが人を動かすというのは理解できましたけどね。
これは人類が生存していく限り永遠か。
 
80年代の北海道ロケの風俗的魅力も十分に活かしきれず。
藤田敏八あたりが演出していれば、アンニュイな感じももっと引き出して面白くなったかも。