僕の幼い時にはまだ走っていた記憶があります。
バスガールと呼ばれた車掌さんが乗っていた路線バス。
バスガイドさんとは違います。
バスガイドさんは観光バスで観光名所を案内してくれるガイドさんで、
本作に登場するバスガールさんは、
運賃徴集、路線案内、発着案内、後方誘導、車内清掃などなど、
なかなかハードなお仕事。
主に地方から出てきた若い女性たちが、
会社の寮生活を送りながらこの業務に従事しています。
バスガイド津村みどり(和泉雅子)とバスドライバー古橋(杉良太郎)との恋愛模様を中心に、
仲間らとの友情や労働問題、同僚の妊娠などさまざまなエピソードでつづられる青春群像劇となっております。
ストーリー的には目新しいものはなく、
ありきたりの展開を見せるのですが、
舞台となっている昭和40年代前半の風俗劇として鑑賞すると意外な面白さを見つけることができますね。
乗務員が普通にバスの中で煙草を吸っていた時代。
バスが走る幹線道路の多くは歩道が完備されておらず、
未舗装の道路も見受けられる。
労働組合も活気があった。
今やメーデーでの親睦的なお祭り主催者にしか見えないのと同じ組織とは思えない。
当時の憧れの住まいだった団地もチラホラとあり、
街の風景もなんだか懐かしい。
憧れの職業のように思われているバスガールという仕事が決して華やかな職業ではなく、
あまりの薄給にアルバイトをする社員も出てきたりする。
会社も地下鉄などの他の交通手段との競合が激しくなり、
バスガールを廃止してワンマンカーに移行しようとする時代。
条件に不満があるならどうぞ辞めてくださいという会社のスタンス。
みどりと同じように地方から出てきたであろう兄の貧困も切実で、
遠目で見るサラリーマンたちの姿と対照的に不安定な生活を送っている。
社員たちの慰労で行われるGoGoピクニック大会というのも時代ですね。
この時代の絶叫マシーンでキャーキャーはしゃいでる姿がなんだかいい。
富士急ハイランドなんかに行ったら気絶してしまうのではないだろうか(笑)
そして女性の幸せ=結婚と思われている時代で、
(ネタバレになりますが)
みどりと古橋が結ばれることで一応みどりは永遠の幸せをつかんだというエンディングになっています。
しかし注目したいのはみどりの恋敵で、
業務中の事故で左手を失ってしまった堀米さん。
彼女が会社を辞めること決意し、
本当の自立を果たそうとするところ。
今でこそ自立する女性なんて当たり前のようになりましたが、
本作公開時には相当“進歩的”な女性像であったのではないでしょうか。
時にはかたわ(差別用語です)呼ばわりされても、
凛として会社にも友人にも意見を通す芦川いづみ演じる堀米さんは、
主役のみどりより輝いて見えました。
他、藤竜也や中尾彬がちょこっと出演する中、
無賃乗車常習犯の北林谷栄が楽しい。
『娘の季節』(1968)
樋口弘美監督 99分