川島雄三監督による下町人情喜劇。
過酷なフィリピンのベンゲット道路建設に働く佐度島他吉。
1500人の労働移民の半数が死亡してしまう難工事。
そんな他吉が、
明治39年大阪天王寺の長屋に戻ってきた。
他吉が出航する前夜に1度だけ関係を持ったお鶴が子供をもうけて苦労していることを知った他吉は、
お鶴に代わって夜店に出ることになるが・・・
フィリピンで道路を作ったことが自慢で、
男は若いうちは身体をいじめて金を稼がんとあかんというポリシーを持っている他吉は豪快そのもの。
人力車引きとなり大阪の街を駆け回る。
馬鹿がつくほど一本気で、
マラソン自慢の娘の彼氏に勝負を挑みその勝負に負けると今まで反対していた交際を認めたり、
一方で軟弱者の嫁婿に無理やりフィリピンに出稼ぎに行かせたり。
娘婿がフィリピンに出稼ぎをしている間に娘は孫を出産するが、
ほどなくして娘も娘婿も死んでしまい他吉は男手一つで孫娘を育てることになる。
他吉の娘や孫娘に対する態度は現在では虐待ともとれるほど過激なもの。
感情の表現がうまくない他吉だが、
その根底には愛がある。
頑固一徹の他吉だが、
孫娘の縁談を演出するおちゃめなエピソードもある。
雨の降らないところでお見合いだと言い出し、
地下鉄の構内でお見合いさせたりする。
昔の地下鉄難波駅。
そんな他吉も大正、昭和、戦後と年を重ねていくが人力車の仕事を辞めない。
家族や近所の人はそんな他吉を心配して人力車を売って他吉を引退させようとする。
商売道具の人力車を取り上げられて狼狽する他吉。
読み書きができない他吉にとって人力車は生活の糧なのだ。
フィリピンから戻ってきた働き盛りの青年時代から、
寂しく老いていくまで、
辰巳柳太郎が抜群の存在感で演じています。
長屋友達で落語家の〆ちゃんを殿山泰司、
孫娘の婿を三橋達也が演じているが、
特筆すべきは、
他吉の妻と孫娘の二役を演じる南田洋子の美しさ。
思い出の南十字星をみるために、
中之島の市立科学館のプラネタリウムを観に行くラスト。
それまでのてんやわんやの展開から一転、
静かに終わる。
他吉にとって南十字星は自らの勲章だったのだ。
このプラネタリウム、
現在も大阪市に現在します。
大阪の小学生の社会見学には定番のコースなのです。
撮影当時の御堂筋やそごう百貨店が画面に映る。
なんともいえないノスタルジィを感じながら、
その優しいラストに涙がこみ上げてきます。
『わが町』1956年日活
川島雄三監督 98分
※2016年6月18日掲載分加筆訂正