オール・ザ・キングスメン(1949) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

(具体的な政党名や人物名が出てきているのでその部分は白色反転させて表示を伏せています。)

 

第22回アカデミー賞作品ながら、

内容が、米国政治の腐敗を描いた内容であったため、

1949年制作にもかかわらずGHQの検閲もあり日本での公開はようやく1979年でした。

 

ある地方都市の小役人ウィリー・スターク。

彼は貧しい労働者が搾取され続けるのが我慢できなくなり、

州知事に立候補しようと考える。

 

ある日彼の演説を偶然聴いていた新聞記者のジャックはその姿勢に感銘を受け、

彼に密着し御用記事を書くようになる。

 

ウィリーは州政治の汚職を糾弾し、

民衆の心をとらえていくものの、

組織の壁は厚く選挙は2度落選。

 

そんな時小学校で非常階段が崩落する大事故が起き、

多くの犠牲者が出た。

 

民衆は正しく金が使われなかった政治の責任だと声を上げ、

まさに今、ウィリー・スタークこそ正義の政治家だということでウィリー待望論が巻き起こる。

 

その波に乗ってウィリーは州知事に立候補し見事当選。

庶民目線の知事が誕生したことで民衆は熱狂する。

 

ジャックも新聞社を辞めてウィリーの参謀となり、

彼のもとで働くこととなるのだが、

権力を持ったウィリーは次第にその権力に溺れていくようになり・・・

 

州知事に立候補したウィリーも当初は崇高な理念を持って政治家を志したはずなのです。

福祉の充実、

インフラ整備、

市民の医療負担のない総合病院の建設など、

公約も次々と果たしていくのです。

 

だけど、それらにはすべて金が必要だった。

彼は汚い手段を使ってでも金主を抑えた。

マスコミを操って世間の目を不正からそらそうとした。

 

ウィリーは練習を重ねて、

演説の達人となった。

彼のスピーチに聴衆は熱狂した。

ここまでくると、もう神になったつもりだったのかもしれない。

 

民衆の声を味方につけ上り詰めていき、

そして金で没落していった日本の元首相田中角栄をダブらせた人も多いと思う。

 

現在の弛緩した日本の国会議員にもぜひ観てもらいたいですね。

金と馴れ合いで世間をなめ切っている〇民党。

理想を掲げるも現実的ではなく、民衆に甘い夢を見させてお花畑計画を推し進める〇いわ新選組。

とにかく逆張りで与党に反対することだけでその存在感を維持しようとする〇憲民主党。

暴力革命を是とする公安監視団体の〇参党。

どの議員も最初の志は高かったはずなのに権力を持つと堕落してしまう。

 

この作品は権力の甘い蜜がどれだけ魅力的で、

一度踏み込むと抜け出せなくなることがよくわかるセリフがたくさん出てきます。

 

そして民衆を狂わせるスピーチの力。

アドルフ・ヒトラーがそうだったように、

スターリンがそうだったように、

田中角栄がそうだったように、

熱狂した民衆の支持は政治家が神の力を与えられたと勘違いさせてしまう恐ろしいものなんですね。

 

良識ある為政者が次々消えていくのも怖いですね。

声の小さなものは声の大きいものに飲み込まれてしまうのです。

 

監督のロバート・ロッセンは、

1951年(昭和26年)の非米活動委員会で証言を拒否し、一旦映画界を追放されます。

作品は高い評価をされアカデミー作品賞を受賞するも、

監督の過去が暴かれてハリウッドを追放され監督賞は逃します。

 

やや左寄りに感じる方もおられるかもしれませんが、

本作は、権力に溺れる一政治家の悲劇を描いた物語で、

思想信条を超えた普遍的なテーマを扱った作品です。

 

現在、吹き替え版・字幕版両方で視聴可能となっているようですが、

本作の肝であるスピーチの魅力を感じ取っていただくためにも絶対に字幕版がおススメです。

 

 

『オール・ザ・キングスメン』All The Kingsmen(1949)

ロバート・ロッセン監督 109分