凄い作品です。
戦争スペクタクル映画であり、恋愛映画であり、ヒューマンドラマであり、そして反戦映画でもある。
本作が第一回アカデミー最優秀作品賞を受賞したことが、
この賞に関する権威を素晴らしいものにしたことに間違いはないと思う。
アメリカの田舎町の青年ジャックは、
村の娘メアリーに恋されているにもかかわらず、都会の女性シルヴィアに恋焦がれていた。
しかし、シルヴィアは地元の名士の息子であるデヴィットのことを愛していた。
米国が第一次世界大戦に参戦することとなり、
ジャックとデヴィットもヨーロッパ戦線へと向かうことになる。
二人は航空士として次々と敵機を撃墜し名コンビとなり、
フランス軍から勲章を授かるぐらいの活躍を見せる。
勲章をもらった兵士には休暇が認められ、
ジャックはパリの酒場で飲み歩いていた。
一方、ジャックに対する恋心が冷めないメアリーは、
得意の自動車の運転技術を生かして従軍看護師となる。
そんなメアリーは、
売春婦と夜を過ごそうとしているジャックを見つけて、
軍服のままそれを阻止しようとする。
阻止することには成功するものの、
そのために軍服を脱いだことが問題となりメアリーは軍をクビになり田舎へ戻されてしまう。
ジャックは酔っていて、この時の女性がメアリーだとは気づいていない。
ジャックたちに再び召集がかけられ、
ジャックとダニエルの二人は敵の偵察気球2機を打ち落とす任務を与えられるが、
この出発前に二人はシルヴィアのことで喧嘩をしてしまう。
その興奮状態のまま二人は出撃するが、
二人のコンビネーションがうまくいかず、
ダニエルは敵機の銃撃によって撃墜されてしまう。
撃墜されたもののダニエルは何とか生き延びた。
そして敵の飛行機を奪い、自軍のもとに逃げ帰ろうとするのだが、
ここで悲劇が訪れる・・・
冒頭にも書きましたが本当に凄いです。
サイレント映画なんですけど、爆撃されたときの音や機関銃の音が聞こえてきましたもん。
この時代の空中戦はまさに肉弾戦で、
現在の『トップガン』(1986)みたいにロックオンして一撃でズドンなどという闘いではない。
機体に被弾してパイロットが負傷しながらもなお攻撃を続けるんだ。
例えば空中で敵機に体当たりしたりする。
監督のウィリアム・A・ウェルマンは、
自らも第一次大戦で空軍として従事したことがあるらしい。
そして撮影監督のハリー・ペリーは第一次世界大戦当時のパイロットで航空撮影に豊かな経験を持っていたらしく、
複数のカメラによる撮影が見事な臨場感を生み出している。
機内からの撮影は、パイロット自らが手持ちカメラで撮影したらしい。
完璧主義だったとされるウェルマン監督。
そりゃ臨場感が出るわけですよ。
『スター・ウォーズ』(1977)のミレニアム・ファルコン号の空中戦の描写は、
そっくりそのままこのシーンの再現と言っていいほどです。
それだけ、後世の映画に影響を与えてますね。
空中戦だけではなく、
地上戦の描写にも迫力を見せる。
陣地に降り注ぐ銃弾や爆弾の嵐。
吹っ飛ぶ兵士の姿。
この撮影は、
※視野を広げるため高さ75フィート(約20m)の足場を配置し、
その上に15台のカメラを設置してウェルマンはその足場の1つから指示したという。
(※Wikipediaより)
スタンリー・キューブリック監督の『突撃』(1957)にも似たような地上戦の描写がありますが、
絶対影響受けてると思いますね。
ジャックとダニエルはちょっとした行き違いから悲劇が訪れてしまうのですが、
このシーンは声高に叫ぶどんな反戦映画よりグッとくる。
ラスト近くでダニエルの実家を訪れるジャックの心情を思うと胸が痛くなる。
だが、この作品が暗く陰湿なイメージにならなかったのは、
ジャックをずっと愛し続けるメアリーの存在が大きい。
彼女は時にコミカルに、時に逞しく、
時に愛する男を追って戦場にまででむいてしまうとても魅力的な女性。
ジャックが作った自動車に流れ星の落書きをして、
車の名前を「流星号」にしてしまうところなどとてもかわいらしい。
メアリーを演じていたのは・クララ・ボウという女優さんで、
サイレント時代にとても人気があった女優さんだったそうだ。
ただ、サイレントからトーキーに移行する流れに乗り切れず、
人気も下降していったという。
実に残念です。
あと、ゲイリー・クーパーもちょっとだけ出演してます。
端役だったけど存在感はありました。
壮大なスペクタクル描写で観客を興奮させつつも、
戦争の悪とは何?と問いかけてくる本作。
第一回アカデミー最優秀作品賞にふさわしい。
まさに超大作。
深いです。
『つばさ』Wings
1927年(米)ウィリアム・A・ウェルマン監督
141分