さらば愛しき大地 | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

この作品スクリーンで鑑賞しているんですよね。

ただ、ストーリーはほとんど覚えていなくて、

注射のシーンだけが痛々しくて記憶にある程度でした。

確か大阪中之島のSABホールだったと思います。

 

そんな作品がAmazonPrimeで鑑賞できたので久々に鑑賞したところ、

意外な面白さにびっくりしました。

 

工業地帯に隣接する農村。

主人公の幸雄はダンプの運転手。

弟が東京に出て働いているため、

長男の幸男が両親の面倒をみなくてはならない。

 

幸男には妻と二人の子供がいた。

 

ある日、

妻や両親がふと目を離した隙に、

二人の子供が溺死してしまう。

 

もともと短気で気象の粗い幸男は責任を妻や両親にあたりつけて、

家を出る。

そして酒場で弟の元恋人だった順子と出逢い、

同棲を始めるのだが、

仕事がうまくいかず幸男はストレスが溜まって来る。

 

そして幸雄は覚せい剤に溺れるようになっていき・・・

 

と、

全く救いようのないストーリーです。

 

一応希望に満ち溢れ、

人生の理想を追っていた若い当時の僕にはまったく主人公の行動が理解できず、

ただ嫌悪感をもよおすだけのストーリーに目を伏せてしまって記憶の断片から欠け落ちてしまったのでしょうね。

 

でも、

人生における挫折を幾度となく経験した今は、

少しだけではあるが、

主人公の行動が理解できるようになりました。

 

こつこつと時間をかけて幸せを積み上げても、

崩れるときはあっという間。

転落の人生にブレーキは効かない。

周りに優しい人が多ければ多いほど、

その転落のスピードが加速していく人間もいるのだということを、

この作品はわからせてくれる。

 

もちろんこの主人公は精一杯虚勢を張っているが弱い人間だ。

同情する点などまるでないかもしれない。

でも共感はできるんだ。

 

虚無的な瞳のさきに映る田園風景や山の緑。

そこに吹きすさぶ風。

満月の月を隠すおぼろ雲。

なぜか諸行無常を説く平家物語を連想してしまった。

 

主人公幸男演じる・根津甚八好演。

相手役順子の秋吉久美子も個性であるアンニュイな感じが生きています。

 

世間的に評価を得ている作品というのは、

例えその当時理解できなくても、

改めて見直しておくべきだと強く感じた一篇でした。

 

『さらば愛しき大地』(1982)

柳町光男監督 130分